2017年8月17日

安全ピン 山

 ウエスト部分が伸びてしまったストレッチ・ジーンズを、それだけの理由で捨ててしまうのはもったいない。安全ピンでウエストを調整して穿いているが、それだと空港の金属探知器にひっかかることがあって厄介だ。かと言ってベルトをするのも嫌だ。ウルトラ・ストレッチ・ジーンズにベルトをするなんてありえない。僕は世界一美しい町に出かけるのだ。

 こうして次の予定が(なんとなく・漠然と)決まって、だらけた日常に少し動きが出てきて、ここにも何か書いてみようかなという気分になって。去年と同じ日に、同じ場所に出かけて、同じ人と同じことをして、お互いにどれだけ変わったか確認する。それだけなのに。君と会っても、山のレストランで一緒に食事する夢を見た、なんて話を僕はしないだろう。そこに山があって、君が一緒にいるのなら、理屈抜きで山に登ってしまった方がいい。




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2017年8月10日

今はまだ本気出してないだけ

 暑さと、もうすぐ戦争が始まるのではという雰囲気の中、今はやや投げやりな生活である。惰性で毎日フランス語の発音練習をしたり、筋トレしたり、ただ習慣になっていることをするのみ。流行の言い方をすれば、僕は今はまだ本気出してない。戦争が始まったら本気出す。戦争が始まったら本気出すのである。




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2017年7月21日

相互依存

 前は仲良かったのに、それぞれ結婚したり出産したりで何となく疎遠になってしまった友達3人と、同日の朝→昼→夜に偶然次々と再会した。偶然‥‥今日はまぁそういう日だったんだろう。3人とも若くて真面目で、どんなことに対しても真剣に向き合って考え行動し、それで上手くいかなかったときには悔し泣きするようなタイプで、要するに僕とは正反対で、「何言ってるんですか」「ちゃんとしてください」「そんなんじゃだめです」と彼女たちにはいっつも怒られていた、ような気がするのが懐かしい。僕はやっぱりそういう、若くてきちんとしていて、やや自信過剰で常に勝ち気で、でもときどき悔し泣きするような女のコから定期的に叱られていないと、日々を生きている、という実感が持てないのだ。「ダメ男」と、「デキる美女」のペアを目にして、なぜと疑問に思うあなたは、僕ほど「ダメ」ではないし、美人かも知れないがたぶん「デキる」わけでもないんだと思う。




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2017年7月15日

歌詞

 庭でセミが歌おうとしているが、歌詞を忘れてしまったみたい。出だしで苦戦している。




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2017年7月13日

不安の種

 不安をコントロールして、程よい大きさにして、感覚を研ぎすますための砥石として使う、なんて言うと、格好よく聞こえるし、簡単そうなので、いつか実践してみたい。こんなふうに。

 国民の皆さま、核ミサイルが落ちてきた際には、地面に伏せ、頭を守ったままの体勢で、速やかに焼け死んでください、という政府公報を初めてTVで見た日には、大笑いしてしまった。地震が起きて、原発がメルトダウンしても大丈夫、東北のお米を食べましょう、放射能は人体には無害です。




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エステ

 約10ヶ月ぶり(間があいてしまった)に歯科の定期検診に行ったら、歯がよく磨けていると褒められて、エステに行ったようないい気分になった。電動歯ブラシは何を使っているのか訊かれたけど、僕は手で磨いている。「お姉さんが磨き方教えてくれたんじゃん」「そうでしたっけ?」ちなみに想像だがエステでは、肌が綺麗だとか、客を褒めるのではないだろうか。どっこも褒めるところがない客でも、「耳たぶの形がいいですね、ピアスが似合いそう」とか何とか、とにかく見つけて褒める(まぁ想像だが)。老人になったら介護施設ではなくエステに行きたい。




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2017年7月12日

 行こうとする人と、着こうとする人、どちらが確実に行けるだろう? 先に着くのはどっち? というかその2人は、同じことをしようとしていると言える?

 僕は行く。着くかどうかだけを気にする人たちが、誰も行こうとはしない場所へ。




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2017年7月10日

陰謀説

 陰謀説をとるか、偶然説をとるか。意味があると考えるか、意味はないと考えるか。夏が暑いというのは、たんなる偶然だと思う。意味はあると思うけど、陰謀ではない。




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日本

 日本はいい国だ、日本人さえいなければ。日本はこれ以上いい国にならなくていいと思う。




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ふつう

 欲しがらなくても、手に入れることができる。自分が恵まれているとは思わない。恵まれていないとも思わない。全然普通だ。ただ余程のことが起きたというだけで、普通だ。

 夢を見なくても、実現することはできる。なのにどうして、夢を見るのか。欲しがらなくても、手に入れることができる人が、どうして欲しがるのだろう。やっとわかったのだけど、僕は欲しいのではなく、欲しがりたいのだ。




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よほどのこと

 自分が今持っているものの中から、自分が今欲しいものを探す。それが意外と難しい。持っていないものを欲して、それを手に入れるのと同じくらい難しい。僕が今持っているものの大半は、改めて欲しいとは思わないものだが、余程のことがない限り、僕はそれらを手放すこともないだろう。

 欲しがらなくても、手に入れることはできる。夢見なくても、実現することはできる。それでも僕は欲しがる。夢見てしまう。余程のことが、起きたのだ。自分が恵まれているとは思わない。恵まれていないとも思わない。余程のことが起きたというだけだ。




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2017年7月 8日

正夢化

 起きているときでも、その夢の情景が、幻のように蘇り、現実と二重写しになる。数年前の春に見たリアルな白日夢が、あまりにリアルだったもので、ずっと気になっていた。僕たちは車に乗っていた。君と僕と、運転席に誰か。助手席にもう1人誰か。

 開けられた窓から初夏の風。助手席の誰かが振り返り、何かを言い、僕たちは笑う。木漏れ日の下を車は行く。そんな感じの幻で、あれは誰なのか、いつなのか、僕たちは何をしにどこへ行くのか、など気になる点は、いくつかあった。

 正夢になってしまった夢を、それ以上繰り返し見ることはない。僕は夢の正夢化を望むのか。今はどうでもよくなった。ほんとに、誰が誰でもいいし、いつがいつでもいい。

 既にもう、何年も前に、あの時点で僕たちは、一緒に車に乗り込んだのだし、あれから季節は進んだのだし、何をしに、どこに向かっているのかは、着けばわかると思う。じきに着くだろう。そこできっと、たぶんきっと、前席の2人と、後席の2人が、ペアになって踊るのだ。




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2017年7月 7日

静か

 去年のいつだったか、君と一緒に行った晩餐会には、日本の外交官も来ていた。軍服姿の軍人や、民族衣装を着た王様、タキシード姿の政治家たち。ブラックジーンズにモヘアのセーターを着た僕は場違いだったが、ヨーロッパの大人たちの目には、僕は20代の若者と映るらしく、君の友達ということもあって、ギリギリ受け入れてもらえたのだろう。

 一方で夫人とずっと日本語で会話しているその外交官は、可哀想なくらい浮いていて、しかもそのことに気づいてない様子で、最後には僕は、彼らを可哀想だと思うことをやめた。意識してやめた。

 繰り返し見た夢は、いくつかまとめて正夢になった。君が僕をステージに引っ張り上げて、観客みんなに紹介するあの夢は、そのまんまの形で現実になった。そのあまりの正夢ぶりに、僕は驚いてしまって、何も言葉が出て来なかった。「何か話して」と君に言われたけど、何も。勉強してきたフランス語も、英語も、日本語も。

 自分の気持ちを声にすることなど、到底不可能に思える。いくら外国語を勉強しても。とりあえず聞く耳だけは得たのかも知れないけど、僕には声がない。僕の心中には模様のような文字だけがあり、音はない。ここはとても静かだ。




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お金

 色んな国で拾ったり、チップとしてもらったりした1ドル札が、ついに10枚になったので両替に行った。アメリカに行くことは当分ないだろうから、持っていてもしょうがない。だいたい1100円になり助かった。僕は日本円をほとんど持っていないから。

 お金がないときにはお金を使わないようにしている。ただ不思議なことにお金を使わないでいるとお金はどんどんなくなっていくのだった。




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ブルドッグを金庫に入れて

 駅を通過する貨物列車を見て、老婆が長いねと言った。僕たちはみんなその言葉を聞いたけれど、彼女が誰に言ったのかは知らない。雪山で遭難した人たちを助けに行く夢を僕は見ていた。麓の町は夏真っ盛りで、雪山の遭難者の話を信じる者などなかった。若い母親がベビーカーを1台貸してくれただけである。「これで怪我をした人を運べばいいわ」



 眠るブルドッグを金庫に入れて、それで準備万端という不思議さがいかにも夢だが、僕はあの高い山を目指したのだった。




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2017年7月 6日

アメリカ人男性に訊いてみた

 アメリカの正義も崩壊する、と言っていたのが印象的で、ものすごく言い難いことを正直に語っている感じがした。以前空港で出会ったアメリカ人男性にネットを介して訊いてみたのである。今年中に戦争が起きると思う? 日本は核で叩かれて縄文時代にまで退化させられるのかな?

 そう思いたくはない。けど戦争のようなものは起こるだろう。そして遠からず我々アメリカ人が思い描いている「正義」や「自由」も崩壊する。疑問の余地はない。残念に思うよ。




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明後日

 明日は明日の風が吹く。そうじゃなくて、明日には明後日の風が吹くといいなと思った。





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2017年7月 1日

2列

 朝起きると、眉毛が2列(2段)になっていた。上の列は剃り落し、目に近い方はそのまま残した。そうやって僕は、ガイジンのような目元を手に入れたのだ。




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2017年6月29日

夜 昼

 夜が明けると、いきなり昼がやってきた、僕の大好きな君は処女作にそう書いた。

 そして私はもう、子供ではなかった、と冒頭に書き、それを僕は「私は以前とは違っていた」と日本語に訳した。それで良かったのかどうか、わからない。

 君は日本語がわからない。僕が渡した日本語の翻訳原稿を、必ず読むから、みてて、と約束した。あなたがフランス語を読めたのだから、私だって日本語を読める、もっと簡単に読めるようになる。



 夜は明けて、いきなり昼になる。私は以前と違っていた。




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永沢さん

 僕はNHKのラジオ番組を使ってフランス語を勉強した。「ノルウェイの森」の永沢さんを真似て。あのキャラクターには大きな影響を受けた。

 努力と労働は違う。お前らはただ働いているだけだ。はいお疲れさまでした、ってだけだ。おれは努力する。取れるものは全部取る。行けるところまで行く。

 人生は不公平だ。世の中は不平等だ。けど逆に考えれば、そういう社会は、才能のある個人がその実力を発揮できる社会でもある。だから自分で自分を憐れむな。

 僕は他に読むものがなくなると、「ノルウェイの森」の永沢さんの言葉を読み返した。以前はそうだった。今は違う。似たようなものだけど少し違う。




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ガストの配達

 カマトトの配達というからデリヘルか何かかな、と思っていたが「ガストの配達」を読み間違えていただけだった。夢も希望もない世の中になった。




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黄緑

 金髪を黄緑色に染めた白人の女のコが前から歩いて来たので、その髪いいね、すごく似合うよと頑張ってテレパシーを送ってみた。



 そしたらすれ違うときにこっちを見て、にこっと笑ったので、通じたんだと思うことにしたわけ。




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2017年6月28日

睡眠学習

 フランス語の勉強をしたあとに、昼寝をしてみることにした。睡眠学習の効果を、期待して。そしたら誰かに叩き起こされる夢を見た。




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機械の体

 目を閉じると、僕はサイボーグになっていた。サイボーグのファッション・モデルとして、ファッション・ショーで歩いた。人間たちのために、ポーズを決めた。舞台を何往復しても、疲れなかった。




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2017年6月22日

ブルーハーツ

 僕は目を閉じて、夢のつづきを見た。マルバツでみんなの質問に回答している女性は、よく見ると君だった。「来てくれたのね」。僕はブルーハーツみたいに、「ハグしてほしい」だとか「キスしてほしい」だとか唸った。

 それは質問じゃなかった。フランス語でも英語でもなかった。というか言葉でもなかった。君も言葉では回答せず、僕の肩に軽く手を置き、僕の左右の頬に指でマルとバツを描いて、それからキスした。




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いま ここ

 僕はこの家に1人で住んでいる。この町に1人で暮らしている。ずっといるわけじゃない。近いうちにどこか他へ行くと知っている。でもまだしばらくはここにいる。幸せってこういうことなんじゃないか、とふと思った。「まだしばらく」なんて言葉を「今」「ここ」の自分に対して使えること。




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今月の花

 近所に小さな公園がある。小さめの公園というか大きめの庭というか。だいたい一年中何かの花が咲いている。今月の花の写真を撮って外国の友達に見せたら、ハイビスカスかと訊かれた。もちろん違う。その友達は日本をハワイかタヒチのような熱帯の島だと思っているようだ。




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2017年6月21日

ボーイ・ミーツ・ガール




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 夢は実現するより、もういちど見る方が難しい。どんなに突拍子もない夢でも、叶えてしまう方がずっと簡単だ。フランス語の台詞はほとんど聞き取れなくて、美しいモノクロの映像だけを見つづけることになった映画。前にこんな夢を見て、実現させてしまったっけな、と思った。




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マルバツサイン会

 質問票を持って列に並んで、マルバツを記入してもらう夢を見た。椅子に座った女性がマルバツで答えるサイン会のようなもの。みんなきちんとプリントアウトしたアンケート用紙を持っている。ノートの切れ端に手書きした質問票を持ってきたのは僕だけのようだ。




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源氏物語

 失った人の代わりに、別の人を求めて、それでも満たされなくて、次々とまた別の人を身代わりにして、最終的にすべてを、完全に失ってしまう。知力も財力もある美貌の青年だからこそ、楽々とすべてを手に入れられる人だからこそ、の悲しみに、ほとんど正反対である僕のような人間が、ここまで感情移入できるのは、なぜだろう。手に入れたこともないものを、失ったような気分になってしまうのは、なぜだろう、不思議に思う。




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ボーイ・ミーツ

 雨のシーンはなかったけど、ずっと雨が降っているみたいな映画で、どうしてそう思うのか不思議でしょうがない。雨の日に観たからだろうか。6月に観たからだろうか。25年前に国分寺で観たカラックスの映画を。




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2017年6月15日

何でも

 今日は何でも覚えていられる日だったのに、何も起こらなかった。夢はこんな夢。でも本当はそうじゃない。




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2017年6月14日

雪女

 雪女のお話が好きだ。人間の女に化けて、好きになった男の前にあらわれた雪女。偽名は「お雪」。そのまんまじゃないかと思うが、そこが可愛くていい。




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2017年6月 8日

方向音痴

 立ち止まって、自分の行いを、振り返ってみる。ちょうどいいときに振り返らなければならない。僕は方向音痴。つまりどのタイミングで振り返ればいいのかを間違うのだ。そして方向を見失う。




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どこだ

 安直建設、という冗談としか思えない名前の建設会社がある。歩いてすぐのところに。いい勝負なのが、カットハウス「ここだ」。どこに行ってもそういうものばかりを目印にしてしまい、道に迷う。読み間違えているのだから、当たり前だ。




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2017年6月 7日

経験豊富

 結局のところ。経験が教えてくれるポイントはそこだ。言うか言わないか。言うとすればいつ言うのか。いつまで黙っているのか。それなのに僕の経験は、言わなくていいことを言うような口調で、日々のわけのわからなさだけを僕に教える。




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準備

 今にして気づいてみれば、君の弾く超悲劇的な曲の、あの激しい演奏が、つづく幸せな日々を準備していたのだった。




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白 青

 白い薔薇の花が、青い壁をバックに夏の入道雲のように見えた日だった。




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2017年6月 6日

兵隊さん

 1年中ブーツを履いていたら、ブーツを履いたときの歩き方がデフォルトの歩き方になってしまった。足を大きく前に蹴り出して、踵から着地するような歩き方が。兵隊さんみたいだな、って思う。家の中でもそんな、空気を蹴飛ばして歩くような歩き方になっていて、君に指摘される前に予防線を張っておく。ちょっと馬鹿みたいだ。




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ラッキー

 毎日決まった時間に体重計に乗って、ちょうど50.0kgだったらスーパーラッキーということにしてある。ぴったりの数字になることは滅多にない。そうならなくても普通にラッキーだ。毎日体重計に乗るような規則正しい生活ができるだけで、僕はラッキーマンだ。




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6月6日にUFOが

 自分で自分の誕生日を間違えてしまった。1ヶ月以上間違えてしまった。僕の誕生日は6月6日ではない。なのにどうして誰も声をかけてくれないのかと、勝手に悲しんで帰りのバスに乗った。




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曲線

 曲線が、階段のように無限に積み重なっていく夢を見た。僕は上からその様子を見ていた。そのあとで直線が何本か、液体に浮かんでいる夢を見た。




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2017年6月 4日

正された間違い

 自分で書いた文章を自分で読み返して、間違い探しをやっている朝から晩まで。今こそ使うべきだろう「脳みそがウニになる」という言葉。というか‥‥

 ‥‥間違いを正したら、間違いはどうなるのだろう。正された間違いは、どこに行くのだろう。正された間違いを受け入れてくれる施設みたいなものがあって、そこに行って余生を送るのか。正しさとして生まれ変わる日を待ちながら? 生まれてすみません、なんて遺書を残して、消えてしまう間違いもきっと少なくはないのだろう。




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家族ゲーム

 家族で森と湖に囲まれたスイスの町を旅する夢の中で、僕の視点は不安定だった。僕はある瞬間には父親の視点から、また別の瞬間には息子の視点から町を見ていた。一緒にいた女性はそれに応じて、妻になったり母になったり。本当は誰だったんだろう、彼女は。そして僕は。




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電話番号なし

 スマホとガラケーを併用している忙しそうな人はよく見かける。僕のように電話番号は持っていないがスマホもガラケーも持っている、という人はいるだろうか。アラーム時計として使っているガラケー。ただ電話番号を持たずに普通の勤め人をやるのは難しいと思うけど。

 1円で手に入れた、ドコモのスマホの端末がある。SIMは抜き取ってあるので、通話はできない。というか通話以外のことなら何でもできる。世界中どこでも、フリーのWiFiに接続して、無料で。スマホの操作は難しいけど。難しいのでついノートPCを使ってしまうけど。




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2017年6月 2日

 お腹に窓がある人の夢を見た。近づいて窓を開けると、「なぜそんなことをするの?」とフランス語でその人は言った。「ええっと、」「風を入れるのさ少し暑いし」




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2017年6月 1日

才能

 才能がないので、書くのを我慢する、発表するのを控える、などということを、僕はしない。我慢とは、僕の才能に、金を支払う人たちが、することだ。我慢して、払ってもらう。我慢して、読んでもらう。大丈夫、僕には、まったく才能がないわけでは、ないのだ。




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明日のこと

 2週間前、髪を切って、濡れたような黒に染めた。5分前、ふと思いついて、体重計に乗った。今、雨の音を聞いていたら、眠くなってしまった。明日のこと、考えている。




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チェックアウト

 5月X日、靴下を履くのをやめた。コタツから布団を外した。昼間の暑さに耐えきれなくなったからだが、夜はまだ冷える。

 6月X日、ホテルを出発して、どこかに行く夢を見た。20年前から、繰り返し夢に出てきた、巨大なホテルだ。どこへ向かうのかわからないけど、もしかしたら僕はもう、このホテルの夢は見ないかも知れない。地図を見て、駅から駅へ。




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2017年5月 2日

そういうダンス

 君が音楽を演奏した。その音楽が僕を見つけた。その音楽が僕を君の元へ連れて行った。その音楽が僕にそういうダンスを踊らせたのだ。君は自伝で語った。「死ぬほど、踊らせてあげる」



You played music.The music found me.

The music brought me to you. Such dance I danced.

By the autobiography you told. I make you dance.




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三日月

 クロワッサンはフランス語で「三日月」という意味だ。正にその形をした月を見上げる。と風が吹いてきた。月から直接吹いてきたような風だ。風にクロワッサンの香りがするようなのだ。

 幸福になる力と、不幸に耐える力は、別のものだという。僕は不幸に耐える力を持っていて、その力はホンモノだと思う。けれど僕は不幸になることがなくて、せっかく持っているその力を、存分に使う機会がない。それは不幸なことで、それに耐えている、それに耐える力がある、ということだ。




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2017年4月29日

絵文字が50

 ねぇ、私はいつも、いつでも、すべてが最高にうまくいくと思っているよ、絶対に。だから「ありがとう」って言うの。ね。私は最初にありがとうって言うの。真ん中ぐらいでも「ありがとう」って言って、最後にもまた「ありがとう」って言う。つづけて絵文字が50個。僕が心配して書いて送った気取った英文の深刻なメールにさえこんな返事が来て、僕には君をますます好きになる以外の選択肢はない。




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2017年4月28日

すぐ

 君にメールしたら珍しくすぐ(数時間)で返事が来たけどすぐには読まなかった。君に書いて送った英文を確認して、何度も確認して、それから返信を開いた。どきどきした。




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2017年4月26日

1円玉

 道端に1円玉が数百枚積み重ねてあるのを夢で見た。いや夢じゃなかったかも知れない。本当に見たのかも知れない。とにかく僕はそれを拾わなかった。写真も撮らなかった。無視して通り過ぎた。本当にあったことを全部「夢で見た」ということにして、忘れてしまおうと思ったのだ。




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薬局の看板

 外国人の友達が薬局の看板を指差している夢を見た。訊いてくる、なんて書いてあるの? 人鮫薬局。ヒトサメ? 人はヒューマンって意味で、鮫はシャーク。ありえないわ、なんか怖い。




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2017年4月19日

白 赤 ピンク

 羊が放牧されている都市の夢を見た。都市はこの間まで滞在していたフランスの町だろうが、登場人物は日本人。ずっと雨が降っていた。羊たちが赤い傘をさしていて、人は濡れていた。ベランダに干したままの、ピンク色のタオルや下着、乾きそうにない。




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2017年4月11日

間違われる

 フランス滞在中は、女性と間違われることが多かった。僕は痩せていて、体形的に女性に見えるらしい。トレンチコートのベルトを締めて、スキニーのジーンズにブーツ。確かに女性ぽかったかな、と思う。パルドン・マダム? ってやたらと道を訊かれたけど、答えられなくて悪かった。




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おごられる

 フランスのじいさん・ばあさんの団体40人と行動を共にした。めちゃくちゃ陽気な白人。暇そうにしてたら、声をかけられた。朝からシャンパンをあけて、そのあともずっと赤ワインを飲んで。こんなうまいワインは初めて、と言ったら、延々とおごってくれた。酔ったまま世界中旅行してまわっているらしい。




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2017年4月 9日

貢がれる

 書店で君と会う。

「来たよ」

「あはは、来たし(笑)」

「いつまでいるんだっけ?」

「日曜まで、あなたは?」

「月曜には帰るかな」 


 トークイベントみたいな集まり。がやがや。

「本にサインしてあげる」

「いちばん・だいすきな・ともだちへ」

「これ、売り物じゃ?」

「店員さん、すみません、いくらですか?」

「いいの、あげる」

「2冊持ってるよ」

「じゃ3冊目だ」

「あなたへの・みつぎもの・です」

「ああありがとう」


「あ店員さん、これ」

「はい?」

「貢物なの」

「わかりました」


 わかったのか? あとでレシートをもらった。18ユーロだった。




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お祭り

 近所で祭りのようなものが行われていた。フランス人が解釈した獅子舞的なものが、車道を練り歩く。子供と、その親たちが見物していて、僕も楽しんだ。




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2017年4月 6日

説教される

 カフェでおじいさんに説教される。

「昨日もいたな、ていうか毎日いるな、お前は」

「はい?」

「何を読んでいる?」

「日本語の小説です」

「フランス語は読めないのか?」

「ほとんど読めません、英語なら少しわかります」

「フランスで何の役に立つんだ英語が」「お前はイギリス人か?」

「いえ‥‥日本人です」

「ていうか毎日いるな、お前は」「おれは帰るぞ、さいなら」

「また明日」

「あのな‥‥」




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«挨拶される