2016年8月22日

アリエール

 うまくは説明できないが、両親が死んだ後で、両親が僕にくれた名前や、彼らのものだった名字を僕がそのまま使うことは、不適当だと思えたのだ。それで僕は、名前を変えた。外国人にも発音しやすいよう縮めた名前を、君には名乗った。名字を使うことはなかった。2度となかった。

 ☆

 何だか君は、ごくごく普通のものを、ものすごく変わったやり方で求めているような気がする。僕はと言えば、ちょっと普通じゃないものを、普通のやり方で手に入れようとしている。当初の目的は、知らぬ間に達成してしまった。それで今僕たちは、少し遡って、お互いの「やり方」を手に入れる、その途中だろう。

 ☆

 ずっと長い間、格好いいままでいるのは、少しも格好いいことではない。最悪だ。理想なのは、ほんの少しの間だけクールでいて、その後は踊るのをやめてしまうことだ。舞台を下りてしまうのだ。それができなかった僕のような人間は、踊りつづける。クールなんて妄想だ。腹筋30回。理想はただの理想だ。

 ☆

 先週僕は洗濯洗剤の「アリエール」はフランス語で時代遅れという意味だと知った。たぶん綴りは違うのだろうけど。




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緑3

 玄関に緑色の靴が3足並んでいる夢を見て、意味なんてないさと歌いたい。




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2016年8月 9日

不老不死

 天才たちには死が似合う。不老不死は凡庸な連中にこそ相応しい。というわけで僕はあまり年を取らないし、今のところ死んでない、そんなわけで。




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フランス語

 朝になったが、僕は朝を無視した。昼と夜も無視して、結局次の日も無視した。フランス語の辞書とテキストを手に、カフェに何時間もいた。フランス語は僕を無視しつづけるのだった。が、僕はしつこかった。

 時間を無視する僕には、時間があるのだった。

 僕には、朝と、昼と夜があり、次の日があった。結局‥‥




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2016年6月29日

パリの千円札

 80年代、汚くて危険だった頃の、ニューヨークみたいだった。パリの地下鉄は、落書きだらけだった。そこに何と書いてあるのかはわからなかったが、危険だということは伝わる。できる限り乗らない方がいいだろう、と思えた。移動にはタクシーを多用し、ちょっとの距離なら歩いた。

 クレジット・カードを使えるタクシーは少なく、手持ちのユーロは、すぐになくなり、足らない分は、千円札で払った。あのタクシーの運転手は、英語の通じない若者は、円高を知っていたのだろうか。

 現在のパリは、ヘンリー・ミラーの描いたパリで、薄汚れた雨の町で、僕にはちょうどいいか、と思えた。もちろん、アナイスは君だ。鶴は掃き溜めにこそふさわしい。

 ヘミングウェイのパリは、僕が到着するずっと前に、違う誰かに消費されて、それでどうなったのかは、まだわからない。わかるまで、あるいは、わからなくなるまで、何度も通うだろう、きっと。パリもそれまでには、ミラーとアナイスのパリではなく、君と僕のパリだ。




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2016年6月24日

雨を口実に

 僕みたいなヘタクソでも弾けるようにアレンジされた楽譜で月の光を弾く。夜遅くに雨が降り出すと聞いた。それで午前3時まで起きて雨を待っていたが、雨は降らなかった。ネットで古い映画を見て、それからピアノでエリーゼのためにを弾いていたが、眠くなってやっぱり寝てしまった。




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2016年6月21日

ジョナサン

 4月の終わりだったか5月の初めだったかにジョナサンが亡くなったのだけど、僕の中では死ななかったということにしてある。跡を継いだ甥はジョナサンと同一人物だということにしてある。でも今になってから思う。それはそれで悲しいと。




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2016年6月 9日

海岸まで数秒

 一体僕は、いつ働いているんだろう。労働の記憶が僕にはない。夢の記憶の方がはっきりしている。昨夜は自分がキリストであり仏陀でありヒトラーであるという夢を見た。歩いて巡礼の旅に出た。西ヨーロッパの地図を広げて、ルートを確認する。実際に歩いたら数年はかかる旅だが、夢の中では、数分だった。海岸まで数秒だった。




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2016年6月 3日

But now

 でも君は今そこにいるのに、僕の心の中にも同時に存在する。なぜ?

 僕は愛している。誰を? 何を? 忘れてしまう、ときどき。愛することに夢中で。




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2016年6月 1日

石橋

 川面に映ったまだ骨組みだけの、建設中のマンションが、原爆ドームのように見えて、ベンチに浅く腰掛けそれを眺めながら僕は、午後ずっと本を読んでいた。うとうとする時間もあった。原爆にも耐えたという古い石の橋を、スーツ姿のサラリーマンや、OLさんたちが、軽く叩いてから渡っていく。




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2016年5月31日

最高

 最高の笑顔、最高の喜び、最高の愛、最高の音楽、最高の演奏。僕は「最高」を知らない。最高の幸せの中にいても、それに気づかず、もっと幸せになれると信じている。最高を知らないのは、最高が何かを知っているよりも、良いことかも知れない。




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2016年5月24日

かわいい

 演奏中。リズム爆発が起きている。僕の耳に聞こえてくる音楽は、本当にバッハなのか、ラフマニノフなのか、今、自分はどこにいて、誰と何を共有しているのか、震えるほど感動しているときでも、かわいいひと、あなたは私の特別な友達よ、という君の言葉を、僕は思い出したり、あるいは忘れたりしていた。また会いたい、君のコンサートのチケットが欲しいと伝えると、君が、つまりアーティスト本人が、席を用意してくれた。そういうとき、かわいい僕は信じた。未来を思い出すようにして未来を信じたのだ。




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リハーサル

 夢が叶ったのかどうかわからない。それで、どうしようか、リハーサルもなしで。新しい生活をどうしていこうか、わからない。地方都市の、そのまた郊外の戸建ての住宅に越してきた当初、僕が思い描いていたのは、1人の生活だった。外的世界と内的世界の分離、ということだった。仕事は必要最小限にとどめ、好きな本を読み音楽を聴き絵を描きピアノを弾いて暮らす。けど変わった。1人のアーティストとの出会いが、その生活を変えた。怒られるだろうと思っていたのだ。リハーサル中のホールに入ってしまった僕。断りもなく、入ってしまった僕は。邪魔をしてごめんなさい。でも舞台の上の君からは、予想とは反対の、暖かい反応が返ってきた。来てくれて嬉しいわ。僕が迷い込んで来ることを、どうしてか、知った。知っていた君。私は、ピアノが弾けるのよ。ねぇ、知ってた? あなたのこと待っている間に、ちょっと弾いていたの。ずっとそんな雰囲気で、リハーサルは、何のためのリハーサルがつづいたのだろう。




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ふわふわ

 朝食をとらずに歯科の定期検診に行き、歯石をガリガリやられてすっきりするのだけど少しだけ体調が悪くなって帰宅したときの気分は、長時間飛行機に乗って帰国したときの気分と、とてもよく似ている。ふわふわしている。なんだか時差ぼけしているみたいだ。




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2016年5月13日

確約

 いいことがつづく。嬉しいことがつづく。ラッキーがつづく。悪いことが何も起きなくて、いいことだけが連続する。以前ならちょっと怖くなってしまっただろう。でも今は怖くない。なぜこんなに嬉しいことばかり起きるのか、理由を知っているから。理由は君なのだ。すべてがうまくいくわ。君がそう言うからなのだ。ピアニストであり予言者であり魔法使いである君が、確約する。あなたに降りそそぐわ、愛の光が。




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擦り切れたり

 また飛行機が上昇する飛行機が空を切り裂いていく。風が四方八方に散らばっていくのが見える気がして、僕は非科学的なことを思う。空は擦り切れたりしないのだろうかと。




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共犯者

 髪の長いピアニスト、君と出会ってから、いいことばかり、何もかもが思いどおり。「怖いぐらい」と書くべきだろうけど、僕は怖くない少しも。

 コンサートに行く。君が特別に用意してくれた席につく。最前列の更に前、手を伸ばせば鍵盤に触れることもできる、君にいちばん近い席。

 ガチガチに緊張した君。蒼白い顔をした君。僕には目もくれず、椅子に腰掛けた君。演奏はいきなり始まる。咳払いと拍手が止むより前に、君の指は鍵盤を叩く。

 聴いていると、胃が痛くなり、緊張のあまり、吐きそうだ。音の時限爆弾なのか、風船なのか、そういう何かがピアノの上にあって、君は時計のネジを巻くように、音を1つひとつ重ねる。

 とっくに割れてもいいはずなのに、風船はまだ膨らみつづける。もう耐えられない、と思った直後、君は時間を止める。



 音楽はつづく。なのに時間は止まるのだ。なぜ? 



 君は僕を見て、ウインクする。得意技の変な角度のウインク。そして時間が流れ出すと、音楽の爆弾は、風船は爆発する。その瞬間を、僕は聴き逃してしまったことに気づく。

 僕を見て君は、軍隊風に敬礼し、悪戯っぽく笑う。世界一悪戯っぽく笑える君だ。そしてロビーに集まった僕ら。

 ファンとの記念撮影に応じる君。顔をカメラに向けたまま、視線だけ外し僕を見て、舌を出し笑う。失礼だろファンに対して。ううん、あなたも共犯よ。




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2016年4月26日

人たち

 夢だとわかっている夢を見るようにして、僕は現実を見ていた。これは現実だと。でも現実感なんてなかった。僕はフランスにいて、日本にいた。ソウルにいて、また日本にいた。そしてまたフランスにいて、バンコクにいて、また日本にいる。移動時間と、待ち時間。旅することは、移動することではなく、待つことだと思う。人生は旅だという人たちは、では何を待っているのだろうか。




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背中

 海岸沿いに建つ高層マンションの一室で、海に降る雨を見ていた。すべて夢だとわかっていて見る夢だった。窓は開け放たれていて部屋の中に雨が吹き込んでいたが、窓を閉めようとする者はいなかった。僕はパープル・レインの話をしたと思う。小さな声で歌ったと思う。でも若い女たちは別の話に夢中で、かつてプリンスと名乗っていたアーティストのことなんか知ったこっちゃない、と背中で意思表示していた。




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2016年4月13日

そうなっていた

 朝、目覚めて2階の寝室のカーテンを開けたら、窓の外に苗から育てた木が見える。小さすぎる夢が実現するもうすぐ。そして大きすぎる方の夢も拍子抜けするほど簡単に、あっけなく叶えられた。それはそういうふうに実現したのだ。目が覚めたらそうなっていたのだ。




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2016年3月18日

ノート

 ある人をフォローするために note を始めた。そのためだけ。それ以外の目的はない。7年か8年、もしかしたら10年(もう覚えていない)、その人の書いたものを読んできた。10年。読むものの好みは、ほとんど変わってはいない。ただ、僕がある人の文章を読みつづけるのは、好き・嫌いということ以外の理由があるように思う。あるいは、まったく何の理由もないようにも。ただの偶然のようにも。



 10年。僕は変わった。これからも変わるだろう。好きや嫌いという感情が、僕の考えや行動を変えるだろう。必然的に。一方で変わらない僕もいて、その僕を変わらず支えているのは、偶然なのかも知れない。一種の幸運に似た偶然なのかも知れない。




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2016年3月 8日

知ること

 今では、偶然3回、4回と耳に入ってきた曲だけを、僕は好きになる。1度聴いただけの音楽なんて、1度も聴いたことのない音楽と同じだ。好きでもない音楽を、何度も聴くことなどなくて、だから僕は、ほとんどすべての音楽の前を、素通りしてしまう。1度聴いただけの曲を、ずっと好きでいられた時期もあった。それは1度会っただけの、よく知りもしない人を好きになってしまえた時期と、重なっている。たぶんそのころ、僕は知らなかったのだ。本当は何も知りたくないということを、僕は知らなかったのだ。今まで、決して知ることのなかったことを、僕は知りたいと思う。そうやって知った人や音楽を、僕は好きになれるのかどうか、知りたいと思う。




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リターン

 今の家に引っ越して来たのとほぼ同時期にパソコンを買い替えた。その MacBook Air だが、1年ほど使ったあたりから、起動に異常な時間がかかるようになってしまった。夜寝る前に電源を入れる、朝起きるころにやっと起動している、といった具合である。ディレートキーを押すつもりで、うっかり電源キーに触れてしまうと、朝まで待つことになる。普段はスリープ状態で放っておき、使うときにリターンキーで叩き起こす感じだ。




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2016年3月 2日

魔法

 欲しいのは保険よりも、魔法。予感だとか予想だとか、どっちでもいいけど、その程度のものがあればいい。うまくいく保証とか、そんなものは、むしろない方がいい。賭けてみよう、という気持ちになれるなら、それでいい。この先も人生が、そんな瞬間の連続だったらいい。




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記憶

 今の気持ち、それを正確に言葉にすることができたら、その言葉を、僕はどうするだろう。口に出すのか。文字にするのか。何もしない、という気がするのだ。何もせず、ただ消えるのを待つだろう、という気が。



 1つの曲、1つの演奏を通して、僕は1つの人生を知った。1つの人生の、ある1個の記憶を。音楽は自分の人生と交じり合う、震えるような記憶だった。




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2016年2月23日

楽しい理由

 ピアノの練習で、ベートーベンのいちばんシンプルな曲を弾き始めたのが、昼の11時ごろ。夢中になって、気づいたら夜。楽器の練習は一種の遊びで、何度も繰り返して覚えていくものだろう。知的な遊びだけど、知性はあまり必要としないような気がする。それこそが楽しい理由だろう。




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予想

「あなたは、あなたの環境から予想されるパラメータの集合でしかない」だとか、とかなんとか、けど、「でしかない」っていうよりも、僕はもうほんの少しだけ、自分に胸を張りたいと思う。僕の環境から僕を予想できる人は、僕以外にいないから。




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2016年2月19日

eyes

 君の目はとても大きくて黒く、まるで夜空。月が浮かんでいて、そこを旅することができると、僕は日本語で思うのに、口に出した英語は、綺麗だとか、とても綺麗だとか、超綺麗だとか、ただそれだけ。




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細部

 人生は大筋でつまらない。だから僕は細部に楽しみを見つける。アンコールの「子犬のワルツ」。シャッターが落ちる3秒前。ちょっとだけ変な角度の君のウィンク。投げキス。そして僕たちは笑う。それで満足。




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2016年2月17日

 世界が終わるとき、世界は朝みたいになるだろう、という気がする。理屈ではなくて、なんとなくそう思う。世界の終わりが夜というのは、ちょっとありえない気がする。




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噂話

 目を閉じている間に、いくつかの記憶が壊れて、変な風につくり直された。見えるものと見えないものを分ける線が、移動した。無数の短い夢が、まるで噂話のように消えていく。寝ようと思って耳栓を入れると、頭の中で、いろんな人が歌いだした。たくさんの話し声が聞こえて、賑やかだ。耳栓をした方が賑やかなのだ、ずっと。




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2016年2月15日

Moschino pink bouquet

https://youtu.be/k4plVkGH7t4

何年か前、よく流れていた香水のコマーシャル。

スクーターで家まで送ってくれた彼氏から、ヒロインに翌朝ピンクの花束が届いた、というストーリー。

でもこれ、今改めて見てみると、違うかも。

ピンク・ブーケの香りを嗅いだ主人公の女のコが、

そういう幸せなストーリーを妄想した、というふうに見える。




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2016年2月 9日

通り

 歌い手が歌うのをやめたとき、通りはかえって賑やかになった。沈黙をざわめきが埋めた。僕は通り過ぎ、しばらく鼻歌を歌っていた。




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驚き

 僕の驚きは、夜に見る夢が、昼の光の下で、実現してしまうことだ。目の前で起きていることが、記憶のように思える。それを体験しているのではなく、思い出しているような気持ちになる。驚きというものは、新しい体験のはずなのに、僕にはそれが、懐かしい。




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2016年2月 6日

味覚

 食べものを味ではなく、栄養素として捉えるようになってから、しばらく経つ。アレルギーがあって食べられないものはあるが、基本的に僕は好き嫌いなく、何でもおいしく食べる。何を食べても、同じようにおいしく感じるのだから、こんな減塩、塩は1日3gという味付けでも、まったく問題ないわけだ。

 ヨーグルトや牛乳は、脂肪分が多い方がおいしい、とは限らない。同じようにおいしく食べられるのだから、僕は低脂肪のものを選ぶ。そう考えられるようになったのは、いつからだろう。

 小さいころは、親がつくる料理を、そのまま食べていた。ソースや醤油やマーガリンやドレッシングをかけて。でも結局、どっちでも良かったわけだ。どんな食べものにも、味はある。どんな味でも、僕は好きだ。ソースはかけてもかけなくても、おいしい。それなら、かけない方を選ぶ。お得な性格に健康志向の味覚だが、僕はいつからこうだったのだろう。

 一方で外食するのは好きで、その際にはグルメ評論家みたいな性格と味覚に変わるわけだが、一瞬で切り替わるのだが、どうしてそんなに都合良くできるのだろう、と思う。




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眠った2

 ステレオでバッハを爆音で鳴らし、耳栓をした。高音と響きだけの低音の演奏になる。聞こえなくなった中音域に、耳鳴りやなんかの、自分の体の中の音が入り込んできて、音楽と融合した。何時間かそのまま眠った。




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眠った

 泳げなくて、怖いくせに、水が好きだ。吹く風の音や、降る雨の音や、通り過ぎる車の音が、波の音のように聞こえてくる。それらが単一のざわめきのように聞こえてくるのも好きだ。同じ音の振れが、自分の体の中にもあるように感じられる。体の内と外の境界線が薄れて、その区別がなくなっていくのは、気分が良い。何時間か眠った。




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2016年2月 2日

ここで

 体がなくなってしまわないように、食べて運動して眠る。ここで。ここは美しい。あまりにも美しいので、僕は何のためにここに来たのか忘れてしまう。ここがどこなのかわからなくなってしまう。そんなふうに感じる。ほぼ毎日。何かが消えてなくなる。




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100年

 深夜に庭に出て、植えたばかりのローズマリーを見た。枯れかかっているローズマリー。それでも闇の中だと植物は生き生きとしていて、グロテスクで、なんだか動き出しそう。100年眠りつづけていて、今目覚めたばかり、というふうにも見える。次に100年眠るのは誰。




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2016年2月 1日

 鉢植えのローズマリーに、スルーパスを出した。水やりをしたという意味だ。数週間家を空けることも多く、水やりが疎かになるのは目に見えていたので、去年実験的に、いくつかのローズマリーを庭に移植した。ハーブに虫はつかないというのは大嘘で、露地植えにした途端、ほとんどの葉を食われてしまい、花も咲かなくなってしまった。それでも水不足で枯れそうになっている鉢植えの兄弟たちと比べればまだ元気で、今年は春までにすべてを庭に植え替えるつもりだ。鉢植えがなくなって寂しくなった2階の食堂にはサボテンを。




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2016年1月31日

ショーン・ザ・シープ

 女友達にプレゼントするつもりで、ひつじのショーンのぬいぐるみを入手したのだが、あまりのかわいさに、手放すのが惜しい。テレビのシリーズと、メイキング映像と、映画も見て、すっかりファンになった。

 僕が思うに、かわいいは麻薬だ。美は麻薬ではない。美しさは誰かのやせ我慢の結果にすぎない。かわいいには、中毒性がある。僕はショーンを手放し、ショーンから離れて、生きていけるだろうか。




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色彩を持たない‥‥の巡礼の旅

 村上春樹の小説が文庫化されていたのを見つけて、手に取ってみたのだけれど、結局買わなかった。残念ながら今回は、お得意の超自然的な要素は入っていないと見た。これは「初恋の人」という名の幽霊から自由になろうともがく色盲の主人公の話ではない。たぶん。僕は何を期待していたのだろう。もちろん、決まっている。『羊をめぐる冒険2016』みたいな作品を。僕は死ぬまで期待しつづけるのだ。そして裏切られつづける(だろう・はずさ)と正確に予想できる。

 そういえば昔、村上龍が、「『羊をめぐる冒険』読みました、感動しました、ってファンレターがオレのところに来るんだよ」と冗談めかして語っていたことがあるけど、彼の元に届いていたのは、当時中学生だった僕の手紙だった可能性もある。80年代にはまだ、春樹と龍の区別がついていない読者が、かなりいたと思う。僕もその1人だった。伝家の宝刀「実況中継描写」を龍が手に入れる前の、ノルウェイの森が出版される以前の、神話の時代の話だ。




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2016年1月30日

中間

 自分の中に、過去の習慣の中だけに留まって生活していくのは、難しい。けど僕が思う以上に、日々を繰り返すことを苦にしない人たちがいて、僕はそれを、外から眺める。楽しかろうが楽しくなかろうが、人間は外に出ないではいられないものだ、と僕が思っている、その確信が揺らいでいく。

 勤勉な怠け者の役で、僕は人生という劇に主演する。僕は一所懸命に怠ける。ある意味命がけだが、実際に命はかけない。日々の生活費をかけた戦いなのだが、誰と戦うわけではない。そこには喜劇と悲劇の中間のような雰囲気が漂っていて、僕は自分で自分を笑えるような気もするし、泣けるような気もするけど、本当はどっちでもない。




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子供

 寒い国に行く。空港を歩く。編み上げのブーツを履いた足がむくんで、紐が結べないのは、気にしない。財布の中に、僕はユーロやドルやウォンや元やバーツを少しずつ持っていて、そのままホテルのある下町まで行き、果物を買うこともできる。両替屋で、円を現地の通貨に替える。そのついでに、両替屋のおじさんに、ホテルまでの道を尋ねる。おじさんが店の外に出て、シャッターを閉めるので、僕は驚く。途中まで、歩いて連れて行ってくれるのだ。まるで子供みたいに、僕はついて行く。狭い路地を行く。

「ここをこのまま、真っすぐ行きなさい」

 あまりの親切さに、僕は動揺して、お礼の言葉も言えない。子供みたいに。




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ユーチューブ

 楽しみにして毎日1話ずつ見ていた『時効警察』。動画が突然削除されてしまった。この驚きと悲しみ。怒りはない。そして見上げた空の色は空きチャンネルに合わせた千葉テレビのような灰色だった、と言っても過言ではない。




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カエル

 ある日、ある国に無数のカエルが侵入したというエピソードを、15年くらい前に聖書で読んだような気がするが、はっきりしない。トム・クルーズが出ていた映画で、そんなような場面があったような気もする。それもはっきりしない。そして僕は真夜中に突然髪を切りたくなってしまう。その理由もわからない。とにかく15年くらい前、何か、ひどく不自然な出来事が起きて、自然に僕は髪を自分で切ることにしたのだった。金を払って人に切らせるのをやめたのだった。




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2016年1月28日

よこしま外科・内科

 普通とは違い、服を着て生まれてきた僕は、もっといい服に着替えようとして、服を脱いでいる途中で、裸で死ぬ。自分が他のものに憧れることもできたことを忘れて。







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姿見工業(株)

 実際に経験したことを、僕は長く覚えていられない。想像したり考えたりしたことは、それより長く覚えていられる。だから夜が来て、眠りの中に持ち込むのは、考えていたことのつづき。それなのに僕は、別の夢を見るのだ。タキシードとドレスみたいな、フォーマルな夢を。経験してもいないし、想像もしていなかったことを。僕は着ていた服を脱ぎ、洗濯機に入れ、着替えようとする。




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再開

 途切れてしまった会話を、想像力で再開しつづける。1人で勝手に、どんどん先までつづける。想像力は1日持つ。けど、記憶力は、そんなに長く持たなくて、想像がいつ、どこから始まったのか。もうわからないし、思い出す気もない。




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2016年1月27日

診断

平均よりはいい人生です。まわりの人たちからも愛され、どちらかと言えば幸せに過ごしてきましたね。悩み事は1つしかないでしょう。でも、このくらいだと転落する可能性は充分にあります。気を抜かないように。

8つの要素の中では「運」が最も良いようです。考えようによっては8つの要素の中で最も大切かもしれません。他の7つの要素が全然ダメでもこれさえずば抜けてれば幸せになれる気がしませんか。最も悪い要素は「コミュニケーション」です。コミスキがなくても生きていくことはできますが、よりよい人生を送るために必要不可欠です。とりあえずサボテンに話しかけることから始めましょう。

コミュニケーション能力がほとんどありません。いつも自分の世界に閉じこもり、外に意志を発信しないので、周りの人もあなたがどういう人なのかよく分かりません。いくらあなたが優れた人物だとしても、よさが理解されないままで損をしています。自分は自分さと思うのもいいですが、もう少し人並みにコミスキ(communication skill)をつけましょう。

日本人の48.9%以上の人があなたより多くの収入を得ています。標準よりも少し貧乏なようです。いままで、電話を止められそうになったことも何度かありますね。いい機会ですので、なんで自分がそんなに貧乏なのか考えてみてください。このランクならば努力次第でいくらでもRichになれます。

あなたはものすごい強運の持ち主です。宝くじに当たったこともありますね。ジャンケンでは7割以上の確率で勝っているでしょう。安心してください。幸運の女神たちがスクラムを組んであなたをがっちり守っています

あなたは平均よりはいい境遇にいます。しかし、あなたくらいの境遇では他の人の努力次第で簡単に抜かされてしまいます。境遇のすねをかじりすぎずに謙虚に努力してください。

 コミュニケーション能力が低いくせに、まわりの人たちからは愛される運のいいやつ、ということになると思う。僕の言葉で言い換えれば僕は。ちなみに宝くじを買うときは必ず1枚だけにする。5万円以上当たったことが数回ある。じゃんけんで7割も勝てるわけがない。悩みはもっとあるだろう。久しぶりに暖かい日。キッチンの気温が5℃以上あると楽だ。夕食にスパゲティを茹でる。ウェブで観た『アパートの鍵貸します』の後遺症。しかし夕食がスパゲティというのは何ヶ月ぶりだろう。僕の中ではスパゲティは昼食のイメージが強い。




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2016年1月26日

50億

 人間同士の関係は、薄っぺらで空虚なものであり、同時にまったく反対のものでもある。誰かが言う。注目してくれる人が1人いれば、50億の人間から無視されても構わない。とするならば1人は50億人と同じで、人間1人ひとりには、それぞれ50億人分の価値がある。誰か1人を失うことは、50億人を失うことと同じだ。つまりこの世界はどこも、ものすごく大勢の人間がいる賑やかな場所であると同時に、誰もいない寂しい場所でもある。いつもどこかを旅している、僕は誰とも無関係であり、同時に大勢の人と関係を持っている。




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自分待ち

 読んでいる小説の中で、戦争が始まって、終わる。読んでいる小説の中で、長い時間が過ぎる。そのあとで本を閉じるのが少し怖い。僕は自分が待つともなく待っていたものが、何なのか、わかってしまうからだ。突然答えを知ってしまう。僕は自分で自分を待っていたのだ。ときどき不安になったりしながら、僕がずっと待っていたのは、僕なのだ。行こう。待たせていた僕が、待っていた僕に、声をかける。出かけよう。




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覚えていること

 僕がよく思い出すのは、待っていた思い出である。夜が明けるのを待っていた夜のこと。空港までの、リムジンバスを待っていた停留所。飛行機の、列車の、乗り継ぎまでの待ち時間。そういうことなら、いくらでも細かく思い出せる気がする。とりわけ、誰を待っているのかもわからず、何を待っているのかもわからず、それでも何となく待っていた、日々の記憶。焦りのような、予感のような、諦めのような、希望のようなあの気持ちは、変わらず心の中にあり、僕は何を待てばいいのかも知らずに、ただ待ちつづけている。幸福のように退屈で、ロマンチックな、孤独を、そのすべてを、僕は覚えているだろう。




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2016年1月25日

ループ

 哲学的な意味だが、僕が今どこにいるのか、なぜいるのか、そしてどこへ行くのか、あえて知ろうという気にはならない。嫌でも知ることになるのだから。知ったとする。けど嫌でもそれを忘れてしまうからだ。それを僕はもう既に知っているし、忘れてもいる。




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湯なし

 あまりの寒さに、ダイソンのバッテリーが上がってしまう。入浴しようと思ったら、風呂場の天井につらら。窓も凍り付いていて、閉まらない。水道管も凍結していて湯が出ない。キッチンの気温も1℃以下だった。料理をしたり、食べたあとの皿を洗ったりするのが辛い。というか無理。お湯なしでは無理。ありえないレベルまで糖質をカットしたヨーロッパ直輸入のシリアルと、素焼きのアーモンドをヨーグルトにトッピングして腹いっぱい食べる。自炊しているのに高くつく。トマト、バナナ、生で食えるものは何でも低脂肪ヨーグルトにぶち込む。




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長い日

 今では僕は、「どちらかと言えば貧乏」という段階を通り越して、すっかり貧乏で、金がない。金がない代わりに、美しい日々と、音楽があるわけだが。美しい日々を、お金で買ったように見えるかも知れない。そうなのだ。ただそれは、日々ではない。切れ目なくつづく、長い1日を、僕は過ごす。そこには、音楽のための音楽があり、僕はただ、月の輝きを見つめ、音もなく降る雪の音を聞く以外に、何もできない。眠ることさえできない。




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嘘の雪

 雪の中夜道を歩く。空は晴れている。月がくっきりと見える。なのに雪は降る。この辺ではよくある気象現象で、最初は不思議だったが、慣れてしまった。何年か暮らしているうちに。まるで映画か、テレビドラマの中で降る、嘘っこの雪だ。星が降ってくるみたいだ。

 そして僕は、大量のバナナを食べてしまう。レンジで加熱したバナナを、アイスクリームに添えて。ヨーグルトに添えて。きっとバナナの皮には、バナナを食べたという僕の記憶が付着していて、僕はそれを捨てる。だから忘れてしまうのである。今食べたばかりだとということを。

 家。キッチンの気温は、2℃を下回っている。冷蔵庫の中の方が、暖かいんじゃないか。




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2016年1月24日

 ここら辺で犬を連れて散歩する人とすれ違うことはあまりない。人間以外の動物で僕がよく目にするのはカラスだ。木や電柱の上に止まっていたり、飛びながらカァーと鳴いたりしている。少し怖い。僕は毎日彼らを目にする。まったく区別なんかつかないけど、彼らの1羽1羽を知っているような気になる。彼らもまた、フンフン歌いながらトコトコ歩いていく2本足の僕を知っているように思われる。




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2016年1月23日

椎茸

 外に出て、空を見上げる。僕は目が悪い。見つづけていると、眼底がむずむずするのは、そのせいだろう。瞳の表面がひきつるようだ。けど決して不快ではない。僕はときどき、あのむずむずを感じてみたくなり、冬の紫外線で目を焼く。




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眠り

 もちろん実際の体験でいいし、でなければ本の中の言葉とか、音楽でも構わない。そのひとかけらを、僕は眠りの中へ持っていく。あのきらめき、ただひとつの単語、音の響き、それだけで構わない。欲しいのはそれだけだ。僕は自分に問いかける。あとは眠るだけだろう、それを持っていけるのか? 眠りの中に持っていけないものを、手に入れてどうするのだ。




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暗示

 僕は去年と同じことを繰り返すという、暗示をかけられる。というか、自分で自分に暗示をかけた。普通の勤め人なら、当たり前の。そんなループに陥った物語の外側で、僕は君と待ち合わせようと思う。少しの間抜け出し、君を訪ねて、へたくそな英語で、話しようと思う。

 未来がないかわりに、過去もない。あるのは今だけ、何も過ぎ去らない、という物語の中で、人物だけが成長することを求められている。‥‥それは可能か? たぶん。君のピアノが、鳴っている間なら。




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