詩集どうでしょう?                                                                  

 

詩を書いて出版しました。

 

» 続きを読む

| | | コメント (0)

2022年1月27日

無性によくできました                                                                  

 

 夏の庭。機械で芝を刈っている僕を、小さな女の子が見ている。危ないから近寄っちゃいけないよ。そう注意すると逆に近づいてきて、リンゴのケーキを差し出した。

 

 ありがとう。僕は冷蔵庫でそれを保管しようと、家の鍵を開けた。家の中は暗かった。床で男女が寝ていた。男の方が起き上がって、僕にケーキのお礼を言った。

 

 

 

 女の子の服が、庭の柵に干してある。服は破れていた。君の? と僕が少女に訊くと、少女の母親が、代わりに答えた。

 

 広い庭。「よくできました」と「たいへんよくできました」は見つけた。欲しいのは「無性によくできました」。見当違いの場所を探しながら、あちこち歩いた。

 

 

 

| | | コメント (0)

指と指                                                                  

 

「私の指は、どんなふうに曲がっている?」

 

「死体の指みたいに、なってる?」

 

 死人は指を曲げられなくて困っている。

 

 できるだけ自然で柔らかいポーズをつけた。僕はその人の手を取って、生きているみたいに見えるよ、と心の中で言う。それと反対のことも思った。どっちも口には出さなかった。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月26日

置かれた場所で                                                                  

 

 宙に浮かんで漂っていたら、見えないものに捕まって、そこまで運ばれた。

 

 運ばれた先では、もう動かないことに決め、僕は自分の意志で、背中に生えていた羽根を切り離した。

 

 そうすると、見えない何かは、その羽根を拾い、どこか、別のところに持ち運んだ。

 

 僕は、残された。その場所で、

 

 何か見えるものが自分の体に生えてくるのを、ひっそりと待っている。

 

 

 

| | | コメント (0)

中指                                                                  

 

 最初に死んだとき、僕は生き返らなかった。体が、あちこち硬直し始める。マッサージで、何とか復活した。ただ中指だけが、硬いまま。無理に曲げると、折れてしまいそう。次に死ぬときは、気をつけようと思う。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月25日

モナリザ                                                                  

 

 僕はもう、顔を見ていない。顔も僕を見ていない。なのにまだ目の前にいつづける。変化する表情の夢を見た。僕はそれを絵に描こうとしている。薄笑いの表情が驚きになり、それが嘆きに変わったとき、顔は自信を失い。目尻には皺。モデルは歳を取ったが、僕の絵はまだ完成しない。

 

 

 

| | | コメント (0)

ゲームの規則                                                                  

 

 その人とチェスをしている途中で、ルールが変わってしまい、今は囲碁だ。が、どうやっても、僕は勝ってしまうようだ。

 

 髭を生やした神様は、サイコロを振って、出た目に困り顔。最後に自分と、自分の敗北の記憶を、消した。

 

 

 

| | | コメント (0)

都合のいい                                                                  

 

 僕は成功する、何でもできる、と都合のいい物語を自分で書いて、その世界の内で自分を出世させようとすると、

 

 何も変わらないよね、そんな子供染みた呪いが、お別れの挨拶みたいに、現実とその夢の間を、何往復したのだ?

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月24日

赤いゴミ袋の中                                                                  

 

 君の隣にいた人が僕に話しかけてきたときにも、僕は君を見ていた。僕は大きなゴミをズドンドンと袋に詰めている。

 

 話かけてくる人を全員、ゴミとして扱った。夥しいゴミが町中。

 

 袋の側面には大きな穴が開いていて、出ようと思えば彼らは出ることができた。しかし出てくる者はなかった。雑音が消え、世界は静かになった。僕たちは2人きりになった。

 

 

 

 そのあとでやっと、君は僕に声をかける。僕の手を取り、言った。「そろそろ出ましょうか」

 

 

 

| | | コメント (0)

石焼き芋                                                                  

 

 僕は途中で下りるのをやめたはずなのに、もう着いている。

 

 階段を下りるとき、いつも聞こえている音楽が、今日は聞こえなかったのが不思議だ。僕の足音もしないけど、聞きたくないような音楽はたぶん鳴っているのだろう。

 

 音楽がないと、階段は短く感じられる。

 

 

 

 

 トイレの中に、スリッパが3足、どれも左足だけ。

 

 1日中石の上で焼かれて、芯まで焦げた焼きイモ。

 

 ‥‥もうそこにいる。

 

 

 

 聞いたことのない曲。携帯電話の、着メロが鳴った。無視していると、メロディは中途半端に終った。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月23日

スカイダイブ                                                                  

 

「お大事に」とその人は言った。病気の人間に向けた挨拶を、病気ではない人にも。死んだ人にも。

 

 ☆

 

 空高く、ほとんど宇宙空間にまで舞い上がって、そこから落下した。パラシュートはつけてなかった。それを心配して、予想される着地地点に、君はクッションを何個もバラまいてくれる。その上で弾んだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月22日

椅子と椅子                                                                  

 

 椅子が椅子という言葉で呼ばれなくなった後でも、それは椅子なのだろうか。どうだろう。僕は何も考えず、それに座った。

 

 コーヒーという言葉でコーヒーを温めようとしても無理だ。全部言葉で今朝の夢を思い出した。トースターという言葉を見つけなくては、パンが焼けない。

 

 

 

| | | コメント (0)

男のロマン                                                                  

 

 その人は両手で「男のロマン」を抱えている。ロマンはいい色をしている。レジに並んでいた。買うのだろう。

 

 それは本来あるべき場所を離れて。

 

「そういうのが」と僕は訊いた。「好きなんですか?」

 

 

 

| | | コメント (0)

異星の友人                                                                  

 

 名前を覚えられない異星の友人たちがまとめて夢に出てきた。彼女たちはみんな同じ服を着て、同じ髪型をしていた。その内の1人を僕はじろじろと見た。その他大勢から区別しようとして。

 

 

 

| | | コメント (0)

穴の開いたゴミ袋                                                                  

 

 側面に穴の開いたゴミ袋にゴミを詰めていっても、ゴミは穴の外に出たりはしなかった。彼らは無気力だった。じっとしていた。もうどこにも行きたくないみたいで、それは僕にとって好都合だった。

 

 

 

| | | コメント (0)

渡された鍵                                                                  

 

 僕は渡された鍵を使って鉄の門を開けた。ただ門は飾りのようなもので、開けなくても入ることはできたのだが。脇に警備の人が立っていて僕をじっと見るのだ。それで変に緊張した。

 

 僕の後ろから友人たちがつづく。すると僕だけを特別に監視しているような警備の人はどこかへ消えてしまって、その先にもう監視はなかった。

 

 

 

| | | コメント (0)

2年と1分                                                                  

 

 男が姫の隣に立った。男は王子ではないけど、男はお姫様に会いに来たのだ。男が何か言う。

 

 すると姫は僕を振り向いて微笑んだ。僕も会釈を返して、そのまま。見つめ合う。気まずい1分という時間が過ぎるのを50分くらい待った。

 

 しかしどれだけ待っても1分は過ぎなかった。

 

 1分と僕の待ち時間の差は開いた。それが1年、2年。僕の2年間が、姫の1分の中に吸い込まれて消えた。

 

 ‥‥気づくと姫はまだ僕を見て笑っていた。1分間ずっとだった。あの男はいなくなっていた。

 

 

 

| | | コメント (0)

姫                                                                  

 

 扉を開ける前から、オルガンと歌は聞こえていた。中に入っても、その歌声は大きくならなかった。扉の向こうで聞こえていたのと、まったく同じ調子だった。

 

「真実が、私たちをここへ導いた。そうでしょ? でもこの場所に真実はなかった。そうでしょ? だからあなたたちは、行ってしまった。そうでしょ? 真実のあるところへ‥‥」

 

「けれど私は残った、最後まで」フランス語の歌。

 

 白いドレスを着た姫が、僕に背を向けて座っていた。鏡のように光る髪を、長めのボブにしている。訪問客たちが姫に挨拶して、さらに前の方へ進んだ。姫は黙ったまま、何も応えなかった。

 

 

 

 僕は姫の隣に立った。僕は王子ではないけど、僕はお姫様に会いに来たのだ。姫がこちらを向いて微笑んだ。僕も会釈を返して、そのまま。見つめ合う。1分という時間が過ぎるのを50分くらい待った。しかしどれだけ待っても1分は過ぎなかった。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月21日

ゆっくりお化け                                                                  

 

 靴紐をわざとゆっくり結んでいたら「ゆっくりお化け」が出た。

 

「そんなにゆっくりでいいの?」結構早口だ。 お化けのくせに。

 

「なに?」

 

 僕が「あとでまた話そう」と言うと、せっかちなお化けはもういない。消えてしまった。

 

 僕はひとり。舌先でその言葉を浚った。

 

 

 

| | | コメント (0)

サイサイサイサイサ                                                                  

 

 車が「サイサイサイサイサ」とタイヤを鳴らしながら坂を下る。どうしてそんな音が鳴るんだろう。

 

 前を歩いていた人が振り返って僕を見た。その人はまだ僕を見ている。ちがう、僕は心の中で言う。

 

 

 

| | | コメント (0)

トタン屋根の上                                                                  

 

 僕は高いところから落ちた。棒みたいにまっすぐ。ドスンと大きな音がした。トタン屋根の上で。そのときも僕は棒みたいで、決して曲がったりはしない。曲がってしまうくらいなら、今すぐ折れた方がマシだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月20日

裏焼き                                                                  

 

 写真に撮られた海岸を、実際に見て気づいた。その写真は、裏焼きだ。

 

「簡単なトリックだよ」とひとりごとを言った。僕は舌先でその言葉を丁寧に浚う。

 

 

 

| | | コメント (0)

落下                                                                  

 

 私は女になって、連れの男が学会で発表をするのについて行く。会場には車で向う。男が運転した。私は道を記憶する。帰りは自分が運転することになる、と知っていた。

 

 男は頼りにならない。

 

 会場には1時間も遅れて到着した。男の同僚たちが、バーのカウンターで飲んでいて、私は彼らから、男のあだ名を聞く。

 

 軽いショックを受ける‥‥

 

 男は壇上で、準備してきたことを発表している。その様子を見て、飲んだくれの同僚たちは笑う。私は発表の途中で、会場を出、来た道を1人帰る。

 

 

 

 私は、道を間違えたようだ。道だと思っていたところに、穴が開いている。私は車ごと、30m下に落下する。

 

 だが大丈夫だ。地面に叩きつけられる直前、並走していたタクシーの運転手に、手を振るだけの余裕もあった。

 

 

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月19日

食事中                                                                  

 

 泊まっていたホテル、窓から逃げ出した。部屋は3階だったけど、ロープと梯子があった。

 

 夕方に戻った。また梯子を使った。すると部屋には作業服を着た女の人がいて、歌いながら料理をしていた。

 

 ここは僕の部屋だ、と主張したが、歌の途中だった。

 

 彼女が歌い終わるまで待った。食事の間も、彼女はずっと歌っていて、結局、料理は全部僕が食べた。「おいしかった」と僕は言った。

 

「これは私の料理」と彼女は言った。「全部私がつくったのよ」

 

 

 

| | | コメント (0)

君の本                                                                  

 

 ノートには、次に買うべき本がメモしてある。君はそれを見る。

 

「これはもう読んだ?」と訊く。「4回繰り返して読んだ」と僕。

 

「誰にどこで金を払えばいいのか、わからないんだ」

 

「後で私が払ってあげる」と君は言う。それは君が書いた本だ。

 

 僕は古本を君に貸す。君はいつも僕に新刊をプレゼントしてくれる。

 

 

 

| | | コメント (0)

部屋でカラオケ                                                                  

 

 家で朝からやっている、君の誕生日パーティー。僕は夕方から参加することに決めて、昼は家事をしている。

 

 君の友達はもう何人か来ていて、部屋でカラオケをしているようだ。歌が聞こえる。僕は洗濯物を取り込み、パーティーで何を着るか考える。

 

 

 

| | | コメント (0)

大蛇                                                                  

 

 家にたくさんの種類の動物がいる。僕は1匹ずつ順番に撫でていく。犬、猫、鳥。大蛇の番がくる。でも大蛇に触れるのは怖い。なので後回しにする。すると大蛇は悲しむ。

 

 時間が巻き戻された。僕は撫でていく。大蛇も順番通りに撫でる。予想とは異なり、大蛇の背中には柔らかい毛が生えている。顔はよく見ると猫のようだ。大蛇はニャーと鳴いた。大蛇は嬉しそうだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

ものまね                                                                  

 

 君は大蛇のモノマネをする。僕に何の真似をしているのか当てさせる。僕はそれが動物だということすらわからない。花か樹だろうと思い、ひまわりと言うと、君は少し失望する。

 

 僕の番になって、僕は猫のモノマネをする。それを見て君はゴロゴロと喉を鳴らす。僕は君の背中を撫でる。

 

 

 

| | | コメント (0)

耳たぶ                                                                  

 

 音がよく聞こえるように、僕は耳たぶを大きくして、数を増やした。

 

「それ」と君は指摘した。「意味ないよ」

 

 確かにそうだった。でも4つになった耳たぶには、別の使い道があり、僕は幸せになった。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月18日

痛いの痛いの飛んでけ                                                                  

 

 あの日苦痛が僕を訪れたのだけど、すぐに去って行った。苦痛の行くところに、僕は連れて行ってもらえなかった。

 

 苦痛を呼ぼうと、僕は自分で頬をつねってみたり、頭を叩いたりしてみたが、それはもうやってこなかった。完全に目が覚めてしまっただけ。僕は大人になっていた。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月17日

白旗を掲げる女神が民衆を導く                                                                  

 

 ウェディング・ドレスを着て電車に乗っていた。結婚式を挙げるのだが、ドレスなんか着るのは初めてだ。

 

 君が僕の後ろに立って告げた。背中が破れてるよ、と。僕は気にしない。君も僕と同じドレスを着ている。

 

 電車が駅に着く。僕を先頭に、君と君のマムが降りる。その後ろにスーツ姿のビジネスマンたちがつづいた。

 

 今、僕は女神だ。民衆を結婚式場に導く。ドレスの裾が翻って、白い旗のようだった。

 

 

 

| | | コメント (0)

長いネギ                                                                  

 

 皿に盛りつけられた、長い長いネギ。僕の後ろのテーブルまで伸びているのを、君と君のマムが、こっそり食べる。

 







 

 僕が振り返ると、楽しそうに笑。

 

 

| | | コメント (0)

ロビーで                                                                  

 

 都合のいいことに、誰もいなかった。君が僕に質問したとき、僕は普段より、わかりやすくて、大きな嘘をついた。コンサートホールの、ロビーだった。君は微笑んだ。

 

 そこが僕の、家だった。

 

 人を呼んで、演奏会を開こう、と言った。毎日、毎晩。

 

 君は僕の、膝を軽く叩いた。何の合図なのか、わからなかったけど、僕は頷いた。そして、もういちど深く頷いた。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月16日

マラソン大会                                                                  

 

 マラソン大会の会場に走って向う途中、ずっと誰かに追いかけられていたけど、信号の変わり目を上手く使って、振り切ることができた。

 

 追いかけるのが好きな人というのは、どこにでもいると思うけど、ここにいてほしくはなかったな。

 

 ところで参加者はみんな、車で来たか、自転車で来たか、ゆっくり歩いて来たかで、僕のように走って来た者などいないが、僕は走るのが好きなのだ。たぶんみんなよりも余計に。

 

 

 

| | | コメント (0)

眼球の裏                                                                  

 

 ズレてしまったコンタクトレンズを、眼球の裏側に入り込んで探しに行くと、そこは歪んだ夢の世界だった。コンタクトは見つからなかった。

 

 手ぶらで右の正面に戻ってきた僕に気づき、何を見られたのかと思ったのか、左の目は真っ赤になった。

 

 ☆

 

 断片を書くことと、断片的に書くことは、似てるようでけっこう違う気がします。つまり僕は見たものを断片的に書いているのだけど、そこに書かれたのは見たものの断片ではないということです。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月15日

愛人の子                                                                  

 

 僕の愛人は男だったけど、男のくせに妊娠したので、しばらく距離を置いた。お腹の子供の性別は、訊かなくてもわかっていたけど男の子だった。葉書でわざわざ知らせてきた。

 

 ☆

 

 ただ大抵の場合そうですが、ある人が原因しか知らなくて、ある人が結果しか知らないとき、その原因と結果の間に時の流れがある、という感じ方は、決して残酷ではなく、むしろロマンチックに過ぎるのかなと。

 

 

| | | コメント (0)

長男証明書                                                                  

 

 家に「長男証明書」が送られてきて、僕は自分がそうだったと知った。箱の中に入れておいて、あるときもういちど見ようと思ったけど、なくなっていた。この間、また別の長男が生まれたのだった。

 

 ☆

 

 事件が起こって事態が一変する、という君の夢想はロマンチック過ぎるのでは? 映画じゃあるまいし。むしろこんなふうに何も起こらないからこそ、「何か」は変わるのでしょう。ガラッと変わってしまう。気づいても取り返しがつかなくなるのです。

 

 毎日、毎日、それはほんの少しの変化、すぐに戻せそうだと思えます。でも決して元に戻せない。今日と明日は、何も変わらないくせに、今日と昨日は、現実と夢よりも違っていて、目を覚ますたび、僕は思い知るのです。

 

 人生は「事件」ではない、と。「事態」なんて世界のどこを探してもない。

 

 

| | | コメント (0)

チャンス                                                                  

 

 チャンスはいつだって、あっという間に訪れるか、なかなかやってこないか、どちらかだけど、結局はやってくるのだから、僕はまだ寝てる。

 

 目的地にはいつだって、あっという間に着いてしまうか、なかなか着かないかどちらかだけど、結局は着くんだから、いいんじゃないの。早めにやってきたチャンスと、遅くに出かけても。

 

 

 

| | | コメント (0)

安心感                                                                  

 

 周りにはたくさんの人がいるのに、僕は安心感でいっぱいだ。

 

 周りには誰もいないのに、君は安心感でいっぱいだ。いや今にわかる。

 

 そこに誰がいるのか(見て見ぬふりをしてる)。

 

 僕らは不安で抱き合う。

 

 そうするとまた、僕たちは、安心感でいっぱいになるんだ。他のみんなにも分けてあげたい。

 

 ところで、誰にもわからないだろうな、僕らがあのとき何を約束したかなんて。

 

 

 

| | | コメント (0)

答え合わせ                                                                  

 

 今夜、僕は熱心に、その歌に耳を傾けている。駐車場の白いセダンの中から漏れてくる、韓国語のラップだった。

 

 クロいスモークの貼られた車内に、誰がいるのかはわからない。韓国語の歌は、突然聞こえなくなってしまった。

 

 窓に映った僕の顔は、片目だけ入れたコンタクトレンズのせいもあるのかも知れないが、‥‥傾き歪んでいる。

 

 ちなみに、コンタクトの入ってない方の目で探し当てた答えの、答え合わせをするとき、僕はウインクしているように見えるらしい。君もそう言ってた。

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月14日

秩序の回復                                                                  

 

 誰も知らない、秩序の回復。

 

 死んでしまった未来が生き返って、過去の目の前にあらわれたとしても、現在は気づかないと思う。世界は記憶喪失で、その記憶は蘇らない。そんな告白をしたあとで、トイレに立った僕。鏡に映っていたのは、自分の顔ではなかった。

 

 それは誰でもない。女の顔だった(現在ってやつは確かに、何か大事なことを忘れている、と思った)。

 

 そしてトイレから出た僕を待っていたのも、その女の顔だった。しかし、その顔の女は僕を待っていたわけではない。それだけではなく、

 

 ありとあらゆる女が、その女の顔になって、順番を待っているのだが、その顔の女たちは、事情を知らないし、僕ももう、何が何なのかわからない。

 

 

 

| | | コメント (0)

特別ボーナス                                                                  

 

 ニーゴーゼロ、という数字が見える。その男が僕に、正規の報酬の他に、特別ボーナスをくれたとき、ちょうど隣に座っていた仲間が、僕についてきたので、その人とも僕は、わかり合うことができた。

 

「250」に、果たしてどのくらいの価値があり、何ができるのかはわからなかったものの、僕たちは同じように考え、同じように手続きし、そして、次の行動をしたからだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

オリンピック                                                                  

 

 学校の廊下に数m間隔で置かれたテレビが、オリンピックの体操の演技を中継しているのを、僕たちは横目で見ながら、音楽室へ向ったのだけど、そこには誰もいなかった。

 

 授業が始まる前なのか、終ってしまったあとなのか、わからない。

 

 いつの間にかレオタードに着替えた君が、椅子の背を掴み、10点満点の倒立をするのを見て、僕は変に緊張し、何かに躓いて転んでしまう。床に、骸骨が寝ていた。

 

 突然音楽の先生が姿を見せ、指揮棒代わりに散らばった骨を1本拾い、僕には「お前は私の肉になれ」と言う。

 

 

 

| | | コメント (0)

恵方巻                                                                  

 

 雪はとても薄く積もった。紙一重くらいの厚さしかなかった。空から落ちてきた柔らかな1枚のシーツだった。それを僕は体に巻きつけ、恵方を向いた。

 

 

 

| | | コメント (0)

目の前の雪を                                                                  

 

 体の他の部分のそれは既に溶けてしまったのに、僕の眼球に積もった雪はいつまでもそのままで、つまり結局のところ、僕は漠然と待っていたのだ。中断されていた何かが、再開されるのを。

 

 節穴と言われても、目は閉じない。夢を見ているわけではない、と確信するために、僕はあらかた溶けてしまった、目の前の雪を見つづけたのだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月13日

合コン                                                                  

 

 有名なミュージャンが、初めての合コンをする。僕はアドバイザーとして、準備段階から加わった。合コンの作法を、イチから教えた。

 

 男だけで集まって、リハーサルをしたとき、誰よりもハンサムなミュージシャンは、とても緊張していた。嫌ならやめれば? 無理してやる必要ないと思うよと言うと、僕にすがるのだ、全員の泣きそうな目が。

 

 

 

| | | コメント (0)

バジル殺し                                                                  

 

 食事の後、みんなが立ち上がって話をし始めたとき、僕はまだ座って、バジルの葉と会話していた。人の話など、聞きたくなかった。

 

 その不思議な甘い香りに、やられていた。湿った緑色が、僕を包み込んで、ちょめちょめするのを、許した。

 

 

 

| | | コメント (0)

女刑事                                                                  

 

 エレベーターで上に上がっているとき、居合わせたデパートの売り場の人が、僕を女と間違えた。あなたのような美しい刑事さんは、見たことがないと言うのだ(僕は刑事でもない)。

 

 

 

| | | コメント (0)

サーキットの狼                                                                  

 

 サーキットに水を撒く係の人が、デパートの中でも水を撒いているので、僕はこうして、足を濡らすのだ。

 

 ついでだからとトイレに入ったが、そこにも水は撒かれていた。全部、兼任なのだ。同じ人の仕業なのだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

祈りの言葉                                                                  

 

 君の祈りに触れた瞬間、心の中に、生まれた言葉があって、

 

 それを伝えたいと思って、その言葉で祈るときみたいにさ、

 

 音楽がいつも君を応援してくれますように、って僕が祈ると、

 

 その言葉は、音楽と一緒に、僕を応援してくれるようなのだ。

 

 

 

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月12日

ジーパンの尻に穴                                                                  

 

 ジーパンの尻に穴が開いたように見える。布がなくなったように見える。そこだけ極端に色落ちしてしまった。たくさんのジーパンが干してある。皆同じ部分が色落ちしてしまった。

 

 僕はホワイトジーンズに赤いシャツを着る。しかし姿見の中の僕は穴の開いた青いジーンズを穿いていた。同じ鏡の中にいる君に見せ、似合うかと訊いている。

 

 

 

| | | コメント (0)

天国とジゴク                                                                  

 

「地球の重力が弱くなって、雪が落ちてくるスピードも、かなり遅くなったと思う」僕は言った。

 

「そうじゃなくて」と君は言った。「重力は国によって違うのよ」

 

「天国とか、ジゴクとか?」

 

「それは国じゃないでしょ」

 

 

 

 背中に翼が生えた。今、この国の重力は弱い。足取りは軽い。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月11日

雲の色をした電車                                                                  

 

 見上げると雲の色をした電車の動く方向に、後から線路がつづいていく。風がこんな高いところを走る日には、ドローンのように僕は、町と地上の交通の発展を目撃するのだ。

 

 

| | | コメント (0)

厚底の靴                                                                  

 

 岩だらけの、乾燥した草地。海が見える。厚底の靴を履いた足が歩いている。

 

 僕が見ていると、その足はどんどんと細く、長くなるので、

 

 君がちょうど僕と同じ背丈になった頃に、目を逸らした。

 

 

 

 僕に追いかけられ、捉まると、足は靴を脱いで、君は元の君になる。

 

「寒い。7月なのに」「一年中、こうなんだ」

 

 

 

| | | コメント (0)

ヌードデッサン                                                                  

 

 著名な作家が裸でインタビューに応じている。ヌードモデルのように、ソファに横になって。受け答えは英語である。

 

 僕はノートを取るだけにして、質問はしない。そのうち誰かが訊くだろう。なぜ全裸なんですか? と。

 

 けど誰も訊かない。

 

 僕はノートに、ヌードデッサンを始める。乾燥した肌。

 

 シーレのスタイルで描く、貧相な肉体。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月10日

スマートウォッチ                                                                  

 

 左腕に見覚えのない時計が嵌まっている。スマートウォッチのようだ。

 

 財布の中には紙幣があるが、僕のお金ではない。夏だ。使ってしまおう、と思う。でも使い方がわからない。

 

 

 

| | | コメント (0)

数の旗                                                                  

 

 君が手を振った。大きく数字が書かれた旗が、窓の外に掲げられる。5か50だったと思うけど覚えてない。

 

 旗はあちこちにある。天女が飛んでいって数字を読んだ。僕はその旗を見上げたり。見下ろすこともあった。

 

 

 

| | | コメント (0)

カラスと僕の呼吸                                                                  

 

 僕が大きく息を吸うのと同時に、カラスがカーカーと鳴いた。

 

 僕が息を止めると、そこでカラスは鳴き止んだ。

 

 僕が息を吐くと、カラスはまた鳴いた。

 

 

 

| | | コメント (0)

カレーの皿                                                                  

 

 部屋には大勢の人がいる、僕の手料理を食べていた。

 

 自分で食べる分は3日前に落してしまった。

 

 君は取りに行く、カレーを盛りつけた皿、中庭に落してしまったのが、バルコニーから見下ろすと、まだそのままだ。

 

 下から放り投げる君。僕の手にあともう少し、のところで届かない。

 

 皿は再度落下し、割れてしまう。カレーもだめになってしまった。

 

 

 

| | | コメント (0)

それほどでもない                                                                  

 

 僕は椅子に座っていて、君は立っている。僕はそれほどでもないが、君は暑い。

 

 君はシャツを脱ぐ。下着のキャミソール。僕はまだ座っている。

 

 君は歩き回る。肌が日焼けする。髪も脱色され、金色になる。

 

 けど僕はそれほどでもない。

 

 

 

 眩しい。異邦人たちが返却に来る、割れたサングラス。「眩しい」

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 9日

剥製                                                                  

 

 ポツンと。キリンのリアルなぬいぐるみ、舞台の上に立っている。ほとんど剥製じゃないかと思い。

 

 そしてピアノ。グラングランピアノ。君はキリンの影から登場。あまりも唐突に。僕が2階席で、キリンの耳に触れたとき。

 

 

 

| | | コメント (0)

平野に雨                                                                  

 

 僕はしまいには船に乗っているような気がしてきた。空飛ぶ船に。飛行機とは言わない。

 

 でも本当は車に乗っているんだ。車は平野を走っている。海でもなく、雲の上でもない。

 

 

 

 不安だったけれどハレの日のような気分だ。どうして? 君の白目が白いから。

 

 知ってた? 地球は昔平らだった。こんなに丸くなる前の話さ。僕らは飛べた。

 

 

 

| | | コメント (0)

絵のモデル                                                                  

 

 君がこちらを見つめる。目を細める。僕を描いているんだ。

 

 僕は額縁を手に持ち、その枠の中でポーズ。

 

 しばらくすると、本当の絵のモデルがやってくる。君はいつまでも僕の顔を絵に描いているが、男たちは全員彼女に目を向ける。

 

 

 

| | | コメント (0)

林檎で試す                                                                  

 

 ゲートを抜けた先で、証明用の写真を撮るという。椅子に座らされた。正面の額縁(のようなもの)を見つめる。

 

 額縁は関係なかった。気づかない内に撮影は終っていたらしい。だめだ。僕の写真を見た係官は言う。撮り直し。

 

 林檎で試してみるか‥‥

 

 リンゴ?

 

 与えられた林檎を手に、もういちど撮影に臨む僕。

 

 コツがわかってないんだな、と係官は首を振る。

 

 

 

 

| | | コメント (0)

残された日々                                                                  

 

 外国の友達のSNSの投稿を試しに機械翻訳にかけてみると、原文よりも遥かにかっこいい言い回しになった。「未来にはたくさんの残された日がある」。本当かも知れない。

 

 夢で見た「残された日」は超低温で保管されている。それが現在に出荷されることはない。未来は誰の目に触れることもなく、そのまま過去に配送される。僕は思い出すことすらできない。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 8日

ゲームの行方                                                                  

 

 帰宅すると部屋の中は人でいっぱいだ。僕の友人たちは廊下にテーブルと椅子を出し、そこで食事をしている。バックギャモンのボードを出して、ダイスを振っている人たちもいる。そのテーブルを見に行く。僕はバックギャモンが得意だ。

 

 ゲームの行方を見守っていると、1人が席を立ち僕に場所を譲ってくれる。

 

 

 

| | | コメント (0)

膝栗毛                                                                   

 

 嵐が来るという。太陽は雲の影に隠れ、海は荒れていた。

 

 それでも海岸には、まだ大勢の海水浴客がいる‥‥

 

 連れの男性と、はぐれてしまった。でもすぐに合流できた。僕たちは石段を下りて、海岸に出た。

 

 狭い石段の途中で、白人の男性とすれ違う。その男性は僕の足の膝のあたりを軽く叩いて、合図した。それが何の合図なのか、夢の中ではわかっていた。

 

 

 

| | | コメント (0)

夏のキャンプ                                                                  

 

 巨大な重機のある丘の向こうは、数学と物理学の天才少年少女が集う、夏のキャンプだ。

 

 早足のアメリカ人の少女たちが僕を追い抜く。みんな、足が太い。

 

 

 

 

 

 

| | | コメント (0)

どうしてそう思うの                                                                  

 

 僕は1箱2万円のティッシュを買う、君のために。

 

 朝になっていた。僕と僕の友達と、君はその店を出て僕の車に乗る。店の隣に、落書きだらけのアパートが建っていた。

 

「従業員用の住宅だろう」と僕の友達は言う。

 

「どうしてそう思うの?」君は言い、そして泣く。

 

 

 

| | | コメント (0)

砂時計                                                                  

 

 僕たちは人気のない真昼の住宅街を歩いている。留守宅に上がり込んで、キッチンで眠った。

 

 革靴を脱ぎ、床で寝ていた。

 

 時が流れた。起き上がり、靴を履きなおす。足下に、黄色い紙袋が落ちている。何だろう。

 

 中身は砂のようだ。

 

 

 

| | | コメント (0)

3時の飛行機                                                                  

 

 何でもない一瞬が永遠のように感じられるときもあるし、その逆ももちろんある。音楽のせいなんだろうか。

 

 僕は3時の飛行機に乗る予定があるのを思い出す。君のせいにしていいだろうか。もう何もかも。

 

 

 

| | | コメント (0)

目的地                                                                  

 

 目的地はどこか訊いた。そうすると君は、着いたところが目的地と答えた。努力して、求めつづけて、その結果辿り着いた場所、そこが目的地。だから目的地は、どこでもないし、どこでもある。

 

 僕は目的地にいる。僕は目を閉じた。そうか。僕は着いた。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 7日

裕福な住人たち                                                                  

 

 部屋に掃除機をかけていたが、絨毯の上の小さなゴミは取れなかった。別にそれでいい、と君は言う。

 

 綺麗な赤いゴミ、悪くない(パ・マル)。

 

 その内、掃除の時間は終った。しかし次の時間が、何の時間なのかわからない。

 

 僕が各部屋を見て回ると、そこにも「今何の時間なのかわからない裕福な住人」が何人かいる。

 

 

 

| | | コメント (0)

未来旅行                                                                  

 

 僕は屋上に出た。設置されたモニターを見ている。未来に起こるはずの出来事が、今ここで起きているようだ。

 

 未来旅行した。タイムマシンに乗って、帰り。出発時と同じ「基準点」に帰ってきたつもりだったが、

 

 寸分違わぬ、というわけにはいかなかった。

 

 ちょっとだけ時間は流れてしまって、そのズレは取り返せないらしい。永久に。

 

 

 

| | | コメント (0)

花の色                                                                  

 

 花は枯れていた。僕は忘れてしまった。それが咲いていたときにどんな色だったか。

 

 君は忘れることがなくて、僕は怖れるものがない。

 

 だから見せたいと思う、蕾を。花開く前に持って行こう。

 

 そんな夢を見た。

 

 今から持って行こう。それで何がどうなるかはわからないけど。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 6日

口と声                                                                  

 

 耳を貸し出し中、君は何か大事なことが書いてある紙を1枚僕に見せる。目を閉じたまま口で読む、内容は聞き取れなかった。

 

 けれど理解するだろう、少しのきっかけさえ掴めば。そうしたら僕も伝えてみようと思う。口と声を、また君に借りて静かに。

 

 

 

| | | コメント (0)

犬と戦車                                                                  

 

 海上を犬が走ってくる。船員に襲いかかった。船員は食べられてしまう。

 

 僕らは海に下りて、そうさせないようにする。

 

 無線で戦車を呼ぶ。海の上を転がる、サイコロ型の戦車。操縦者は思い詰めたような顔をした、真面目そうな若者だ。きっと船を守ってくれる。

 

 

 

| | | コメント (0)

クラッチ                                                                  

 

 エンジンの音がしない。それは夢だからかも知れない、エンジンがないせいかも知れない。電気自動車なのだ。

 

 交通は円滑。車もつるつると滑る。僕は、どうしてもクラッチを切ったり、繋いだりしたい。左足が勝手に動く。

 

 

 

| | | コメント (0)

落ち葉                                                                  

 

 たぶん風で。駅構内に、大量の落ち葉が流れてくる。落ち葉の季節ではなかった。落ち葉はもう葉の形をしていない。

 

 荷は軽い。歩くことにした。動く歩道に乗っている人たちを、追い越して。踏切が、かんかんかんと鳴るのが聞こえる。

 

 

 

| | | コメント (0)

シルエット                                                                  

 

 あれから、時間が経って、帰ってきた。廊下の先、突き当たりの扉が開いている。

 

 そこが僕の部屋。中には人がいるけど、

 

 人は全員シルエットで、家具もシルエットだった。何もかもそうだった。目に光が射し込んでくる。必要以上の光が。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 5日

枕を胸に                                                                  

 

 落ち葉が行く手を邪魔していた。枕を胸に抱えて匍匐前進(ほふくぜんしん)するのは難しい。坂を下りているときはまだ良かった。が道は平らになってしまって。

 

 みんな苦労している。老人は特に。腹這いになった老人たちで、道は渋滞している。

 

 

 

| | | コメント (0)

声                                                                  

 

 そこにいる全員の声が、シャッフルされた。僕の声は、もっとも若い男のコの声になる。その少年の声は、君の声。僕の声だけがない。

 

 ソファで寝ている人を起こした。その声も僕の声ではなかった。僕は、自分の声を探した。部屋中探した。

 

 

 

| | | コメント (0)

ディクテ                                                                  

 

 少年は向こう側のソファに移り、突然不思議な言語を喋り出す。少し離れた場所で、小さな声で読んでくれるように頼まれた。

 

 手元のテキストはその言葉の日本語訳。日本人の男のコには仏語のテキストを読ませる。僕はそれを書き取る。

 

 

 

| | | コメント (0)

案内ボイス                                                                   

 

 その番号にかけると、空港でよく聞く案内が、ご搭乗の最終案内を‥‥ってやつが、繰り返されている。それは、元旦から、大晦日まで、無休で。

 

 そして、唐突に、名前が呼ばれる。はい、と答えた。僕です。ここにいます。

 

 つるつるした床を、すり減った底の、滑りやすい靴で。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 4日

決めた                                                                  

 

 少女が飛び跳ねている。暗闇の中。それを見て僕も飛び跳ねた。思ったのだけど、僕が最後に飛び跳ねたのは、何年前? 

 

 10年以上前。

 

 この先飛び跳ねることはあるのか。なくてもおかしくはない。

 

 再び? 死ぬまで飛び跳ねないまま。

 

 

 

| | | コメント (0)

10人の女                                                                 

 

 会話はなかった。帰りのバスに乗っていた10人の女性たちは互いに知り合いだったのに。全員が同じバス停で降りる。僕が住んでいるマンションの前だ。

 

 黙って、階段を上がる。五階まで上がった。廊下を左。突き当たりが僕の部屋。全員来るみたいだ、部屋に。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 3日

静脈                                                                  

 

 コートのポケットの中に、薬がある。錠剤や、カプセル。それを僕らは、男に向って投げた。

 

 男の周りを、輪になって囲んでいる。男はビニール袋を広げて、投げられた薬を拾った。投げる薬がなくなると、僕は手に浮き出た青い静脈を、抜き取って投げた。

 

 血は出なかった。痛くなかった。男はそれも拾う。

 

 

 

| | | コメント (0)

共産党                                                                  

 

「共産党」の集会に行き演説を聞いている。年配の男性は離れていく。僕は後をついていった。赤信号は無視した。

 

 男性は「保守党」の集会所に入ったが、演説は聞いてなかった。ホールの外で、突っ立っているだけ。近づいてきた僕に、昔話を始めた。昔は良かった、という話、

 

 それと昔の自分はもっと良かった、という話だ。

 

 

 

| | | コメント (0)

夢抜き                                                                  

 

 夢が叶うまではその夢が叶ったというふりをしていなさい。本当に夢が叶ってからもそれはつづけなさい。

 

 しばらくすれば夢があなたのふりをするようになるでしょう(最高に上手くいけばそうなるでしょう)。その後にあなたはあなたの手で、あなた自身を変えるのです。

 

 夢の手助け抜きで?

 

 そうです。夢抜きで。

 

 

 

| | | コメント (0)

双頭の鳥たち                                                                  

 

 部屋で友人たちと寛いでいるとき、若い男の人が入ってきて、僕に写真の束を見せる。若者はすぐに出て行く。

 

 興味を持つだろうと思い、歳上のアーティストにその写真を見せる。写真の間には電話番号の書かれた紙が挟まっていて‥‥

 

 すぐに連絡を取ってみよう‥‥

 

 

 

 若者は車道の真ん中で踊っている最中に、頭が2つある鳥に変身した。

 

 車道には銀色の指輪が1つ落ちていて、鳥たちは嘴でそれをつついた。

 

 

 

 さて鳥は飛べない鳥だったので、アーティストと僕の後ろから歩いてついてきた。蕎麦屋に行くのだ。店員は鳥の頭が2つあるのを見て‥‥

 

 3名様ですか? 4名様ですか?

 

 だが結局蕎麦屋には部屋にいた友人がみんな来た。僕は心配になる。「鍵は閉めてきた?」「さぁねぇ‥‥」

 

 やっぱり。

 

 

 

 女のコが泣いている。指輪。指輪は鳥が食べてしまったのだけど、その鳥は車に轢かれて死んだ‥‥

 

 

 

| | | コメント (0)

ヤンバルクイナの係                                                                  

 

 洗濯機は動物園のヤンバルクイナの檻の中にあって、檻の中には入れなかったので僕は持ってきたジーパンを何枚かその中に放り投げ、後はヤンバルクイナの係の人に任せることにしました。

 

 

 

| | | コメント (0)

短歌と俳句                                                                  

 

 久しぶりにテレビを点けると画面には僕が今読んでいるのと同じ本が映し出されていて、解説の人がその前書きで引用されている短歌と俳句について語っています。

 

 

 

| | | コメント (0)

2022年1月 2日

団地                                                                  

 

 庭の芝生の上を歩いていくと、団地の低い建物と建物の間に、高い鉄骨の塔が聳えている。

 

 屋根を支えている柱は生きている木だった。天井から雨水が垂れていた。雨はさっき上がったばかりだ。

 

 僕は外に出て駐車場に向った。案内板の向こうがそうだった。人が何人かその周りに立っている。

 

 

| | | コメント (0)

死にそうな犬の首                                                                  

 

 死にそうな犬の首に僕は話しかけている。大丈夫、大丈夫だからね。

 

 もしそうなら、と犬の首は言った。明日ずっと一緒にいてくれる?

 

 明日? もちろんだよ、一緒にいる。僕は答えた。

 

 でも今日は一緒にいなくていいの?

 

 そうすると犬の首はもう死んでいる。僕は今日も明日も側にいてあげることにした。

 

 

 

| | | コメント (0)

温室育ち                                                                  

 

 帰宅した。お手伝いさんが来て掃除をしてくれている。庭にあるガラス張りの温室が僕の部屋。僕たちの会話はすべて筆談だった。「明日はテストがあるのでしょう?」と彼女は書く。

 

 

 

 

| | | コメント (0)

ダンス                                                                  

 

 僕が休んでいる間、世界はもっと休んだ。歌うケーキを1つ、踊るケーキを2つ買って、自転車の前カゴに積んだ。そして走り出そうとすると、信号が赤になった。四方すべての信号が赤になり、その場で、僕はダンスした。

 

 

 

| | | コメント (0)

左手の新しい指                                                                  

 

 新しい指が、左手にやってきました。前より細くて長くて、綺麗な指です。

 

 左手はとても美しい字を書くので、僕は褒めました。

 

 左手はさらに美しい字を書きました。

 

 ‥‥もう充分だろ。

 

 すると僕は痒みを感じました。指を掻こうとすると、指は違うと否定しました。

 

「私じゃない‥‥」

 

 僕の左手の指は、どこかへ行ってしまったのです。そこで何を書いているのかは知りません。

 

 

 

 

 

| | | コメント (0)

2021年12月31日

初夢と初夢                                                                  

 

 それを君に話した。始まりと、真ん中と、終わり。初夢と初夢の間に見た夢。それは本当だった。本当の初夢は誰にも教えちゃいけないんだよ。

 

 でも僕は全部話した。全部が本当だったわけではない。

 

 

 

| | | コメント (0)

靴下がない                                                                  

 

 靴を履こうとすると靴下がない。家中探した。子供がわめいていた。靴下がない、靴下がないよ。僕も大声で何か言い返すと、その声が子供の声になっていた。僕は驚いて口を閉じた。

 

 部屋の幾つかは、生まれたとき住んでいた家のものだ。今はもうない、タンスや、母の鏡台の引き出しの中を探すと、昔持っていた服がすべてあった。靴下だけがない。

 

 最後に僕は、今住んでいる家の2階の寝室に辿り着いた。子供は「靴下がない」と言いながらずっと僕についてきた。何だかかわいそうになってくる。それは最初聞いたよりずっと小さな声だった。

 

 

 

| | | コメント (0)

«高い峰