2019年12月 5日

画材屋

 

 ネットで配信される連続ドラマに出た。夢いっぱいの若者が見るようなドラマだ。端役だったし本名も明かさなかったので、昔の知り合いで僕に気づく者はないと思っていた。

 

 だがそれから暫くして、美大の学生に混じって画材屋の前を歩いているとき、すぐ後ろの女性が僕のことを話題にしているのを聞いた。ドラマを見て、すぐに気づいたという。彼女は僕の高校の同級生だった。振り返って挨拶しようか、迷った。結局決断できないまま、無限の時間が過ぎた。

 

 

 

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2019年12月 4日

おでん

 

 たくさんの洗濯物が干してあるバルコニーにいた。風に飛ばされそうになっているタオルを何枚か取り込んで、部屋の中に戻った。食事中だった。

 

 女房はもう出かけるようだ。僕は上半身裸で、おでんを煮ている。30分前に朝食を取ったばかりだが、また食べようと思う。冷蔵庫の中には、期限間近のケーキが大量に残っている。果たして全部食べ切れるかどうか、自信がない。

 

 

 

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2019年12月 2日

刺なし

 

 さて薔薇の茂みを抜けると、そこは空港か、あるいは駅か。人々が大きな案内板の電光表示を見上げている。

 

 はて僕がさっきまでいたのは、こんな場所だったっけ?

 

 芝生の道を戻ろうとすると、僕の行く手を、薔薇の茂みが遮っていた。さっきまでは、何もなかったのに。その薔薇に刺はなく、通り抜けるのは簡単だったが、

 

 枝を折り踏みつぶしていくのは、思いっきり気が引けるのだった。

 

 

 

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ワイルド・ジョッキー

 

 競馬の騎手というと華奢な小男のイメージだが、僕の周りにいたのは、それとは正反対の屈強な大男たち。彼らと一緒に、僕も競走馬に乗るのだ。これだけの体重差があれば、勝てるかも知れない。

 

 というかまぁ、普通に考えれば楽勝だろう。

 

 馬に乗る前に、僕たちジョッキーは、まずコースを一周し、観客に挨拶する。それが決まりだった。隅っこの方に生えた低木に、スズメバチの巣があり、刺激しないよう僕はそっと歩いたのだが、ワイルドな大男たちはわざと巣の近くを歩いて、ブーツで木を蹴飛ばしたりしている。驚きだった。

 

 そのすぐ裏には、鳩小屋があった。とびきりワイルドな騎手の1人が、そこで鳩と一緒に寝ていた。「いつまで寝ているんだ、行くぞ」と僕たちは声をかけ、観客席の方へゆっくりと歩いて行った。

 

 

 

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2019年12月 1日

ブルー

 

 花束を3つ。白を基調にしたものを2つ。青や紫のものが1つ。やはりブルーの花束が綺麗だ。白も結局ブルーに染めた。花束はブル‥、ブル‥、ブル‥‥。

 

 そうして僕は、目的地の近くまで来た。目的地がどこなのかはわからないが、すぐ近くだということはわかっている。地図を見ても何の目印もないけど、何となくそういう感じはする。

 

 

 

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教育 政治 文学

 

 中年の男性の後をついて、机が並んだ広いフロアを歩いた。やがて僕の、というか僕たちの机があるところまで来た。4台の机が、固めて置いてある。その内の1台が、僕の机だ。勉強でもしろ、ということだろうか。確かに遊んで暮らすのも飽きた。

 

 若い男が立ち上がって、「僕は教育」と自己紹介した。若い女も立ち上がった。「私は政治」「じゃあ僕は文学」と僕は宣言した。小説を読み始める。その様子を見ていた中年の男性は、満足そうに頷いて微笑んだ。

 

 

 

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2019年11月30日

トウモロコシ戦争

 

 ‥‥爆音がして、

 

 ‥‥ヘリコプターが飛んできた。人々が集まってくる。ヘリは三方を壁に囲まれた空き地に、トウモロコシを投下していく。

 

 

 

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見慣れた光景

 

 スーパーは24時間営業のはずだったが、電気が消えている。暗闇の中で、店員も買い物客も動きを止めていた。僕1人だけが動いていた。

 

 ケーキをカゴに入れ、レジに並ぶと、明かりが点いた。止まっていた時間が、また動き出した。

 

 そういえばスーパーの店員は、浴衣姿だった。茶色い浴衣。何かの特売か。レジに並び順番を待っていると、外国語の叫び声がした。意味はわからないけど、切迫した響きだ。

 

「大変だ」と言っているのだろう。

 

 それでみんなで行ってみると、売り場の天井から雨漏りがしていて、ケーキやパンが台無しに‥‥。

 

 あぁ、僕は雨漏りには驚かなかった。いつどこで見たのかは思い出せない。でもそれは見慣れた光景だった。ただこの乾燥した土地で、雨が降り出したことは驚きだ。僕は外に出て、灰色の空を見上げた。

 

 

 

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2019年11月29日

黒いスラックス

 

 午後3時頃起きて1階に下りていくと、見知らぬ小太りの男がいた。黒っぽいスラックスに、セーター。女房の客だろうか? だが女房は女房で、あなたの知り合いでしょ、という顔で。僕たちはお互い、顔を見合わせて固まる。

 

 心の中に、お前はこうなっていたかも知れないんだぞ、という声がした。誰の声だろう? だが不意に、僕は悟った。

 

 

 

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2019年11月28日

虹彩

 

 ところで僕は、深く考えることもなく、虹は夏のものだと思い込んでいた。冬になって、寒くなっても、目の前に虹が見えるのは、だから変だった。

 

 左の瞳の中に、小さな虹がかかっていた。

 

 そのせいで、前が見えづらい。日が落ちて、暗くなっても、瞳のその輝きは消えなかった。

 

 

 

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授業のある日

 

 この部屋から週5日、僕は語学学校に通っていたのだが、今日は授業のある日なのかどうか、わからなくなってしまった。君や君の母親に、今日が何日の何曜日なのか訊いてみても、ただ笑うだけで、何も答えてはくれない。超高層ホテルの、上の方の部屋だ。大きな窓は開け放たれ、青いカーテンが揺れていた。僕はベッドの上で、あぐらをかいて、下界を見下ろしている。吹いてくる風に、寒さも怖さも感じられないのが、不思議だった。

 

 

 

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ベートーベン推し

 

 クラシック専門のCDショップで、中年の夫婦に話しかけられた。お薦めのディスクがあったら、教えてくれないか、と。君のような若いリスナーは、どんな演奏を聴くのかな? 僕はもちろん、君の弾くベートーベンを推した。そして彼女が弾いているんです、と一緒にいた君を紹介しようとした。けれど君は、「もう若くないから」と言い、照れて逃げてしまった。

 

 

 

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半身

 

 鏡に映った自分の顔を見ているとき初めて、僕は左目を失明していることに気づいた。というか、僕の顔の左半分が、黒い影の中に消えていた。顔だけではなかった。僕は右半身だけの存在になっていた。

 

 いつからこんなことになっていたのだろう。しかし、今日はもう遅い。僕はなくなった左側を下にして、ク・ハラのポーズでベッドに横になった。すると右目に2倍の量をさした目薬が、涙のように溢れて、左下の影の中に消えていった。

 

 

 

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2019年11月27日

妖精の棺桶

 

 妖精と結婚していた男がいる。かなりの高齢だ。小さな妖精は何十年も昔に亡くなっている。その亡骸が屋根裏に安置してあると聞きつけ、僕たちは調査に向かった。

 

 これで妖精の実在が証明できる(かも知れない)。老人の許可を得て、屋根裏へ。梯子をかけて上がった。埃だらけの茶色い箱があった。震える手で蓋を開けた。これが妖精のものなのか、しかし、中には一房の髪の毛があるだけだった。

 

 

 

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鑑定士

 

 東南アジアに半日だけ滞在して絵画を3枚購入した。そして帰国した。

 

 空港の税関で一悶着あった。特別な申告が必要だとか、贋作の疑いがあるので没収だとか‥‥

 

「あなたねぇ、こんなもん持ち込んで、ただで済むと思ってるの?」

 

 コロンボ刑事のような雰囲気の男は、空港専従の美術品鑑定士らしい。

 

 

 

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2019年11月26日

カメレオン

 

 ヨーロッパから帰国した。独裁者が僕を面接したいという。今すぐ空港で。コートのポケットにプラスチック製の拳銃を忍ばせて僕は向かった。

 

 生きて帰れないかも知れない、と君には告げてあった。独裁者には超能力があるらしい、噂によると。拳銃のことなど、お見通しなのだろう。

 

 100cm X 60cm くらいの狭い金属探知ゲートを抜けて、面接室に入る。するとすぐ目の前にいた。カメレオンのような目をした独裁者が。

 

 左右の目は別々の方を向いている。両眼とも僕を見てなかった。

 

 

 

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大地主

 

 女房は外出していた。赤ん坊は部屋で眠っていた。とても、よく眠っていた。だから僕も出かけても大丈夫だろう、と思った。家の周りを少し散歩するだけだ。もしかしたら市場まで行って、果物を買ってくるかも知れない。リンゴやバナナを。でもそれだけだ。

 

 けど家から少し離れると、僕は心配になった。赤ん坊を家に置き去りにしてきたことが。ベビーカーで連れて来れば良かったではないか。ベンチに腰掛けると、僕の白いズボンの尻は汚れてしまった。ウンコを漏らしたみたいに。フランス語を話す観光客が、街路樹や公園のベンチや、動物の形をした石を指差し、これは全部あなたのものなのですかと訊いてくる。

 

 どこまでがあなたの家の敷地なのですか?

 

 そう、僕はまだ家から一歩も外に出ていない‥‥

 

 

 

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2019年11月25日

ザラザラした舌

 

 その路面電車を追いかけて、運転士が走ってくる。異常に足が速い、と思ったら大猫だった。飛び乗ってきた。人間の運転士と交代して、大猫がハンドルを握った。

 

 やがて電車は、神社のような駅に着いた。僕は大猫と一緒に降り、少し話をした。外見からでは、彼女は人間とまったく区別がつかない。けど舌がザラザラしているのは、やっぱり猫だからだ。キスしなければ人間と同じだね、と言うと、大猫は飛びかかってキスしてきた。ザラザラした舌で味見するように僕を舐めた。そして「私は人間なんかとは全然違うのよ」と言った。

 

 

 

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結末

 

 友達がCDを持って家に遊びに来た。聴いてみるとまぁ何てことはない歌謡ロックなのだが、ベースラインがやたらと斬新で格好良くてハマった。その内に夕方になって、今日は毎回楽しみにしていたドラマの最終回。でも僕はなぜか、その結末を知っていた。期待外れかも知れないよ、とか言って何とか避けようとする。友達が失望するのを見たくなかったから。

 

 

 

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2019年11月24日

10階

 

 宇宙服に着替えて、10階まで行く。エレベーター・ホールには、人集りができていた。エレベーターが故障中なのだ。諦めて縦笛を吹いている人や、大声で叫んでいる人を掻き分けて、いちばん端っこのボタンを押すと、

 

 ポォーンと音がして、マイクロバスがやって来た。

 

 10階行きの代行バスだ。たぶん。何人かと一緒に、僕は乗り込んだ。けれどバスは、大学の敷地を抜けて、駅の方へ走っていく。

 

 

 

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レゴタウン

 

 そこは、レゴでできた町だった。建物も、街路樹も車も。それだけでなく、道行く人々も、みんなカラフルなブロックでできていた。自分の体はどうなっているんだろうと心配になったが、鏡を見る勇気はなかった。

 

 

 

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2019年11月23日

ソプラノ歌手

 

 私は刑務所に収監されるところだった。女になって、何をやったのかは覚えていない。ダサい囚人服に着替えるように言われると、衝動的に、私はソプラノ歌手のように歌った。「あんた、オペラ歌手だったの?」刑務官は驚いて言ったが、私にはここに来るまでの記憶がなかった。

 

 何かの理由で一時的に出所していたとかいう金髪の女が、ボーイフレンドの車でまた戻ってきた。再収監される前の最後の一発、という感じで車の中でヤっているのが見えた。見られているのに気づくと金髪はこちらに手を振って挨拶した。改めて思ったが私はとんでもないところに来てしまったようだ。

 

 

 

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2019年11月22日

ファミレス

 

 生まれ変わることがあるなら次は、仕事をしっかりやる、って人生がいいかな。僕はそう呟いた。そして夜は、自分に職業がある、という夢を見て、しっかり眠りたいと。

 

 けれど繰り返し僕が見るのは。

 

 昼近い朝、目覚めると、ホテルの部屋にいた。大きな窓の外に、24時間営業のスーパーの看板が見える。お腹がすいた、何か買いに行こう、と一緒にいた髪の長い女の人が言った。

 

 そこは東南アジアの都市だった。すぐ近くに見えたスーパーまでは、実際に歩くとかなりの距離があった。女の人とは途中ではぐれてしまった。スーパーで落ち合えばいいだろう、と思い構わず1人で行った。

 

 しかし、着いてみるとそこは、スーパーではなかった。ファミレスだった。女の人は、ウェイトレスの制服を着て、ソファに腰掛け、僕を待っていた。髪はショートになっていた。そして「ディナーの約束、覚えててくれたんだ」と言う。「ディナー?」

 

 でも確かに夜になっていた。

 

 

 

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2019年11月21日

持って生まれた

 

 そのアフリカ系の女性の母国語は仏語だったが、僕たちは教室で、主に日本語を使って会話していた。

 

「フランス語を持っているんだね」僕は彼女に訊ねた。「そうなの、私はフランス語を持って生まれてきたのよ」

 

 

 

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同窓会 消防士

 

 エレベーター・ホールの向こう側では、同窓会か披露宴的な集まり。きちんとした格好の男女が、廊下にまで溢れていた。僕は高校の校舎を改装したホテルにいた。ホールのこちら側の教室には人気がなく、携帯の電波も届かなかった。

 

 40人が入る広い9年1組の教室を、僕1人で使っていた。

 

 僕はその長い廊下を、端から端まで何度か行ったり来たりした。9年9組で行われている披露宴を観察して、また自分の教室に戻って。中央のエレベーター・ホール付近が、特に電波の入りが悪いようだった。

 

 するとスプリンクラーが故障したのか、本当に火事があったのかはわからないが、天井からシャワーのような放水があり、集まった人々はびしょ濡れになった。

 

 消防士のような格好をした何人かが、その放水で顔を洗っている。

 

 

 

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2019年11月20日

短冊

 

 子供たちは手に空気より軽い紙片を持っていた。赤や青や黄や緑の、折り紙のような短冊のような紙だった。各自何枚か手に持ち、通りやビルの屋上に集まってくる。何万人いるのだろう。全員が子供だった。その町には大人がいなかった。そして何か子供たちだけに聞こえる合図があり、彼らは一斉にその赤や黄を、夏の青い空に浮かべるのだった。

 

 

 

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服を食べる

 

 僕はその人の服や靴を食べていた。全部食べてしまえば、その人の裸があらわれると期待していたが、違った。服がなくなると、その人は見えなくなってしまった。どこで誰と一緒にいるのか、僕はわからなくなり、見知らぬ人に向かって、とても変なことを質問していた。

 

 

 

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略奪

 

 寝室には、今まで開けたことのない引き出しがたくさんあって、そこには着たことのない服が大量に入っていた。着ないのだったら貰ってもいいかしら、と女の人が2人やって来て訊いた。そして僕の返事を待たず、赤や黄色の服をかっさらっていった。こんな派手な色の服を僕が着ることはないだろう。それでも全部持っていかれたら困るので、そう言った。しかし彼女たちはベッド脇の観葉植物にまで手を出した。

 

 

 

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2019年11月19日

震度2

 

 空が、僕の指先で揺れていた。空が地震だった。震度2が、手の届く距離に。

 

 

 

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2019年11月18日

ア・ロング・バケーション

 

 僕は引っ越すことになった。引っ越さねばならなかった。そう言うと何人もの友人知人が、ウチに来ればいいと僕を誘ってくれた。

 

 そんな中、僕の友人ということになってはいるが、正直誰なのかよくわからない男の人と、デパートの中を歩いた。そこは昔のレコードや、アンティークのオーディオ機材の売り場だった。その「友人」ということになっている人が、『ロング・バケーション』のLPを見つけた。ガラスのような透ける素材でできた青いレコードで、持つとずしりと重たい。

 

 試聴してみよう、と彼は言った。売り場のターンテーブルに乗せて‥‥

 

 

 

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2019年11月17日

そこだけ、まるで

 

 コンサートは既に開場していたが、その若い調律師は、まだピアノに齧りついていた。ぎりぎりまでつづけるようだ。

 

 スマホの時計で時間を確認しながら(残り時間30分‥‥)、作業を進める彼を、誰もが不安気に見つめていた。特に高音部の調律に手間取っているようだ。音の輪郭が明確に定まらず、そこだけ楽器の音に聞こえないのだ。ピアノの音が、まるで人間の声のようなのだ。

 

 

 

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2019年11月16日

大猫のこと

 

 22時過ぎ。僕は石段を下りていった。その大猫は上がってきた。すれ違うときに一瞬だけ目があったが、どちらも慌てて目を逸らした。こんな大猫(小人間)のことは、段を全部下りる(上がる)前に、忘れてしまおうと思うのだった。

 

 

 

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当たり

 

(お馴染みの)水平方向に動くエレベーターに乗った。動かしていた操縦士は未熟で、あちこちにぶつかり、可哀想なくらい減点されていた。これ以上何かあったら、免許停止だろう。僕が手に持っていたお菓子は「当たり」だったので、それでそれを慰めにあげることにした。

 

 

 

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2019年11月14日

靴下も

 

 サンタクロースが、僕に靴下をくれた。そうだった。僕は靴下が欲しかった。正確に言えば、靴下も欲しかった。サンタさんはどうしてそれをそんなに正確に知っているんだろう、と思った。

 

 

 

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真夜中の洗濯機

 

 真夜中の洗濯機が、綺麗なポリフォニーを奏で始めるのを聴いた。何だかすごいところに来てしまったみたいだ。外はもうあんまり寒くないよ、と僕は声をかけた。だからそんなに震えなくていい。

 

 

 

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連弾

 

 君が僕の隣に座ってピアノを弾き始めた。あーいや、逆なのだ。弾いている君の隣に何もしていない僕が座り始めたというか。君は僕の背中から手を廻して、低い方の鍵盤を弾く。左手は右手の2倍の長さがあるようだ。

 

 

 

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2019年11月13日

シティハンター

 

 丘の上の駅を上空から映した映像をチェックしながら、「自分で決めた創作上のルールを破ってしまった」とシティハンターの作者は言った。「‥‥があまりにも魅力的だったので」

 

 

 

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地球は何回まわった

 

 朝早く駅まで行って、用事を済まし、また自宅に戻った。そのちょっとの間に、何年もの時が流れたみたいだ。家には、作業服を着た知らない人がたくさんいた。

 

 僕はこれから海外に行く、つもりだった。荷造りは8割以上済ませてあった。何だかよくわからないが、まぁいい。予定より早いが、出発してしまおう。着替えのTシャツを何枚か詰めれば、それで出発できる。

 

 だが家の中をいくら探しても、衣装ケースが見つからなかった。僕の服は、どの部屋に行ったのだろう。

 

「まだですか」という顔で作業服が僕を見ている。そういうことなんだろう。今はいったい、何年何月何日の何時で、僕が出かけている間に地球は何回まわったのか、訊いてみたかったけど‥‥

 

 

 

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2019年11月11日

目と声

 

 オザケンの歌が聞こえてきたが、歌詞が、少し違うようだった。誰でも好きな人を好きになる自由がある、というのだが、歌い方も違う。声も違う。気づけば歌っているのは自分だった。と思ったけど、やっぱり違う。

 

 目で歌が歌えるなら、何が歌われるだろう。声に目がついていて、とても近くにいて、僕たちを見ているような声で。

 

 

 

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小さな風船

 

 小さな女の子と手を繋いで歩いていた。僕はシルクハットをかぶり蝶ネクタイ、女の子もずいぶんと古風なスタイルだ。女の子は豆粒ほどの大きさの風船をいくつか持っていた。そして「明日晴れたら」と言うのだった。「お空に浮かべるの」。僕は黙って半透明のガラス天井の向こうの空を見上げた。

 

 

 

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睡眠明け

 

 サロンでは全身に茶色い体毛の生えた大柄な女が、冷凍睡眠明けのマッサージを受けていた。体毛が濃すぎて男女の区別が難しいが、たぶん女だ。遠慮して退席しようかと思ったが、太古の昔からやってきたその女には、服を着る習慣がないようだった。寒さは毛で防ぐのだった。

 

 

 

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浴槽付きカフェ

 

 風呂場のドアを開けるとカフェだ。僕は裸のまま歩いて行き、キープしておいた自分の浴槽に浸かった。浴槽付きのテーブルはこの店で1席だけ。コーヒーを注文して、湯船で寛いだ。

 

 服を着た客が僕の席にやってきて、あなた日本人でしょ、と訊く。そして日本語の書いてあるメモを僕に渡して、何が書いてあるのか読んで欲しいと頼んだ。

 

 

 

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2019年11月 9日

犬に飴玉

 

 君に靴をプレゼントしようと思ってスマホを見ていた。フランス製の厚底靴がいいだろう。靴底にスピーカーが内蔵されていて、歩きながらラヴェルのピアノ曲が聴ける。フランスのエスプリが感じられる靴だと、宣伝にもある。‥‥すばらしい。

 

 君はチャウチャウ犬を連れて僕に会いに来た。「一緒に散歩に行こう‥‥」僕たちは線路の上を歩いた。歩くのに疲れると、線路の上で休憩した。僕は着ていた黒いTシャツを脱ぎ、上半身裸で日光浴をした。持っていた飴玉を、犬にあげた。「すぐ飲み込んでしまわず、口に含んでおくんだよ‥‥」でも犬には、それが難しいようだった。

 

 

 

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修理工

 

 目を閉じて、しばらくしてから目を開けると、白い天井が見えた。僕は修理工的な服を着て、アパルトマンの床に寝転び、天井を見上げている。修理工なのだ。何を修理するのかは知らないが、とても直せるとは思えなかった。僕はもういちど目を閉じ、いつもの自分に戻ってから、目を覚ました。夜中の1時だった。

 

 

 

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2019年11月 8日

スカーフを2枚

 

 一緒に写った写真は少ない。なぜか知らない。

 

 4、5年前、とあるカフェで誰かに撮ってもらった写真がある。

 

 その写真の君はスカーフを2枚巻いている。

 

 その日は、僕たちは会う約束などしてなかった。僕は君のことを考えながら出鱈目に散歩していた。今ごろはどこで何をしているのだろう、と(そしたら町角で偶然に出会った、まぁそういうこともある)。

 

 

 

 ところで写真をじっくり見てみると、僕たちの背後の壁の模様の中に、文字のようになっている部分があると気づく。光の加減か、それはSIと読める。英語のIFだ。仮定のもしも。

 

 フランス語のSIにはSOやVERYの意味もある。とても。

 

 否定の疑問に対して肯定で答えるYESの意味もある。

 

 あなたちは恋人同士ではないのですか? いえ(SI)、恋人同士です。などと使う。

 

 

 

 IF SO VERY YES. 2人で写った写真は、それが1枚あればいいのかも知れない。

 

 もしかしたら、とても、はい、はい、はい。

 

 

 

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置き忘れ

 

 友人とコンサートに行くのだが、僕はチケットを家に置き忘れてきてしまう。まぁ大丈夫だろう、今どき紙のチケットなど必要ない、スマホで予約と入金が確認できるなら、追い返されることはない、とタカをくくっているが、どうも風向きが怪しい。そもそも僕たちが並んでいるのは、コンサートホールではない。開店前のレストランなのである。

 

 

 

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2019年11月 7日

50

 

 その名前のない男はサンコンという名の子犬を連れていた。サンコント、フランス語か? 何で犬の名前が50なんだ? 僕は訊いたが、その答が語られることはなかった。男はどこかに行ってしまった。バケツをひっくり返したような

 

 雨の中。アズテック・カメラのレコード・ジャケットみたいなポーズで、僕は何かを期待していた。というより、祈っていた。天から20ユーロ札が50枚降ってこないか、とか。

 

 

 

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2019年11月 6日

天使と蝙蝠

 

 僕は天使のように眠る、と君は言うが、僕は天使がどのように眠るのか知らない。想像することすら難しい。「たぶん」と君は言う。「そういうふうに眠るのよ」「長い時間眠るってこと?」「たぶんね」

 

 窓から外を見ると、雪のように白い蝙蝠が舞っていた。そう雪のように。あるいは天使のように。

 

 

 

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ヤンマー

 

 ヤンマーというのは、綴りはちょっと違うけど、どこだかの国の言葉で「くだらないお喋り」の意味で、格好いいなと思った。発動機の会社につけるにはもったいない。昔気質のロックバンドか、レコード・レーベルの名前みたいだ。僕は君に言った。目を閉じてからもずっと、ずっとくだらないお喋りをつづけよう。×××みたいな音楽で、この眠りの世界を満たそう。

 

 

 

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振りかざす

 

 御利用の方は携帯電話を振りかざして御合図してください、と「町の灯油配送センター」の車が言っている。知能を持たない女の人の声だ。それで用もないのに振りかざしてみたが、車は止まらなかった。

 

 

 

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賑わい

 

 かつて経験したことのないほど長大なエスカレーターに乗っていた。数百メートル下の広場に下りようとしている。下は多くの人で賑わっている。その賑わいに参加するのだ、という使命感に僕は燃えていた。

 

 エスカレーターの動きは遅く、到着には無限の時間がかかりそうだったが、乗っている人々にはイライラも焦りもない。みな自分こそが、その賑わいに欠かせない最重要人物なのだという、自覚と、誇りを持っている。そして振り返るまでもなく僕は、自分が最後尾だと知っていた。自分がその賑わいのジグソーパズルの、最後の1ピースだと知っていて、満足だった。

 

 

 

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2019年11月 5日

バス待ちの幽霊

 

 太り始めた三日月の光が、オリオン座の輝きを消してしまった。それを残念に思いながら、夜更けの町を1人歩いた。いつものバス停に、いつもの幽霊。黒っぽい服を着た、背の高いおじいさんの幽霊は、バスが来るまで、成仏できないのだろう。

 

 

 

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中駒川駅 スキー

 

 寝室を誰かに覗かれている。僕はその観察者の眼を意識しながら、寝返りを打ったり、わざとわけのわからない寝言を言って、夢を見ているふりをする。

 

 そう最初は寝ているふりだったが、そのうち本当に寝てしまい、夢を見始めた‥‥

 

 ‥‥僕は中駒川駅に行こうとしていた。たぶん実在しない駅だ。何番線に乗ればいいのか、駅員に訊いた。その駅員は口がきけなかったので、僕たちは紙とペンで筆談した。

 

 駅員の声を聞き、書き取るのに集中していると、僕の口から涎が出て、止まらなくなった。ペンも紙もベトベトになり、何も書けなくなった。あなたも障害者だったんですね、という目で見られて、堪らなくなり、僕は逃げ出した。

 

 足に短いスキーを履いて、手には傘を2本持ち、駅構内を滑るように移動する‥‥

 

 ‥‥そこで目を覚ますと、裸でベッドに寝ていた。見知らぬ女の隣だった。枕もシーツも涎で濡れていた。そして観察者はまだいた。

 

 

 

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2019年11月 4日

大樹

 

 タイタニックのような大きな客船で航海していた。船の脇にはロープで樹がくくりつけてあった。誰かが海の向こうの、引っ越し先まで運ぶのだ。枯れないよう、根は海水に浸けてある。だが強い風が吹いた次の日、見に行くと真っ二つに折れていた。大樹は半分の高さになってしまった。残った幹も蛇のようにくねくねと曲がってしまった。枝を強剪定しておくべきだったね、と人々は言う。

 

 

 

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2019年11月 3日

乾いた音

 

 ステージに君は現れた。拍手が止むのを待って話し始めた。半分も聞き取れなかったが、僕の話らしい。らしいというか、間違いなく僕の話だ。僕の両隣に座った客が「あ、この日本人か?」という表情でこちらを見つめてくる。

 

「愛してるって、これだけはっきり言われてるのに、気づかないとか、コイツ間抜けか?」

 

 そして「立て、立て」と言う。君もステージの上から真っすぐ僕を見ている。僕は椅子から立ち上がった。そうすると君が登場したときよりも大きな拍手だ。何か喋らなければならないような雰囲気だった。

 

 とりあえず「フランス語は僕にはちょっと難しくて‥‥」と切り出し時間を稼ぐが、何のセリフも思いつかない。「とにかく自分が馬鹿だということはわかったよ、それで‥‥」少しの笑い声。

 

「だから、ちょっと教えて欲しいんだ、アイ・ラブ・ユー・フォーエバーって、フランス語で何て言うのかな?」「ウィル・ユー・マリー・ウィズ・ミーって、何て言えばいいのかな?」

 

 客席の誰かが、それをフランス語にしてくれて、僕はそのまま繰り返す。それをそのまま繰り返して言った。君は答えず、直接には何も答えず、ただ笑みを浮かべて、ピアノの前に座った。

 

「ショパンや、ラフマニノフの作品は、私がどうしても言いたいけど、どうしても言えないすべてを、代わりに言ってくれるの、いつも‥‥」

 

 客席は静まり返った。君と僕の他には、誰もいないみたいだった。僕は立ったままで、君の指が最初に鍵盤に触れるときの、あの乾いた音を聴いた。

 

 

 

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八百屋さんの小さなトラック

 

 八百屋さんの小さなトラックに乗せてもらい、僕たちは映画館に行った。親友のお父さんは八百屋だった。銀河鉄道スリーナインの映画が見たいと言うと、野菜と一緒の荷台に僕たちを乗せて、連れて行ってくれた‥‥。

 

 見た夢そのものは忘れてしまったが、その夢を見て思い出したことを、まだ覚えているので、記録しておきたい。40年ほど昔、小学生だったころの記憶が、鮮やかに蘇ってきたのである。

 

 

 

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パンクのTシャツ

 

 乾燥してよく晴れた日で、洗濯物干しにはうってつけだった。洗濯物はもちろん、布団や枕、クッション、ソファなど、いろいろバルコニーに並べた。そうすると何を勘違いしたのか、小柄なおばさんがやって来て、Tシャツを売って欲しいと言う。「そのパンクのTシャツが欲しいのよ」

 

 ピストルズのTシャツのことだろう。売り物ではない、僕たちはガレージセールをやっているわけではない、と説明したが、聞く耳を持たない。法外な値を言えば諦めて帰るだろうと思い、1万円だと告げると、財布から金を取り出して払うではないか。千円で買った着古しのTシャツが、10倍の値で売れるとは。

 

 

 

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2019年11月 1日

日本語の町

 

 町は日本の町だったが、そこに住んでいるのは、白人ばかりだ。日本語の看板や、日本語の表示を見ても、何が書いてあるのかわからず、戸惑っている様子だ。通り過ぎて行く僕に、訊きたいことがあるのだろう、すがるような目で見つめるが、何も話さない。彼らは日本語ができないのだ。

 

 

 

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水の駅

 

 ピチャンというか、トポォンというか、そういう感じの、水が滴り落ちる音がした。それが発車の合図だった。駅ではいつからそんなふうになったのだろう。電車の扉が閉まる音も、何となく水っぽかった。とてもよく晴れた日だった。

 

 

 

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2019年10月31日

シロ

 

 11階の僕の部屋に来ていた女優が出て行った。寝室にいた若いカップルに何か言われたらしい。僕は慌てて後を追った。上着を着る暇もなかった。階段の手すりを滑って下りた。11階もあるこの建物にはエレベーターがない。そのおかげであっという間に追いつくことができた。

 

 女優は腕に濡れた黒い犬を抱いていた。どこのドブに落ちたのだろう。シロという名の黒犬だ。何日か前にいなくなってしまったのが、名前を呼んだら帰って来たという。今。突然。こんなところで。こんな夜中に。

 

「クロ、よかったね、クロ」「クロって呼ぶと噛まれるよ」「だって黒いじゃん」「おしっこかけられても知らないよ」

 

 女優は僕に「車の鍵をあげる」と言った。僕が家まで運転して行くことになった。彼女は免許を持ってないのだ。

 

 

 

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オレンジの皮

 

 女房と娘が食べ終わるのを待って、僕はテーブルとイスを庭に運び出した。デザートのケーキを、どうしても太陽の下で食べたかったのだ。

 

 そこでは名前も顔もない誰かが、僕にオレンジの皮の素晴らしい効用を説明してくれる。

 

 

 

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2019年10月30日

アフリカの大猫

 

 新幹線は速度を落として走行していた。そして停車駅ではない駅に停車した。「靴を濡らさないように注意してください」と車内放送があった。するとゴーッという音がして大量の水が床上を流れて来た。

 

 水は一瞬で引いたが、足はびしょ濡れになってしまった。何が起きたのか、僕は説明を待った。しかし、騒ぎ出す乗客もいた。訴えてやるとか何とか、前の方に座った女性グループが息巻いていた。

 

 スーツを着た弁護士の男が、集団で訴訟を準備する、と言って乗客の名前と連絡先を訊いて回る。その様子を冷めた目で見ていた若い女が、僕の隣にやって来て言った。「そんなこと、どうでもいいと思わない?」

 

 僕が顎の下を撫でてやると、その女性は大猫のようにゴロゴロ喉を鳴らした。外は、いつの間にかアフリカの大地だった。確かに裁判など、どうでもよかった。

 

「ハウ・アー・ユー?」と女は言った。「アイム・ファイン・サンキュー!」と僕は答えた。僕たちはそこで列車を降り、一緒に旅をつづけることにした。

 

 

 

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老人と少年

 

「親孝行をしなさい」と言う、そのおじいさんの目には、僕は10代の若者と映るらしかった。最初何を言われているのかまったく理解できなかったが、テキトーに話を合わせている内に、そのおじいさんが僕を10代の少年だと思い込んでいるらしいことに気づき始めた。

 

「わしがあんたくらいの歳のころは、バイクやクルマに夢中だった」と言う。「今どきの若者は、ゲームなんだよな?」僕は若者ではないし、ゲームにもまったく興味はないのだが、「そうなんですよ」と答えて、おじいさんを安心させた。本当は50を過ぎていると言うわけにはいかなかった。

 

 

 

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食事の時間

 

 クラシックのピアノを聴きに来たつもりだったが、ステージに現れたのはギタリストだった。常に痰がからんでいるような喋り方をするおじさんだ。1曲弾いたあとで、「じゃあ、とりあえず食事にしようか」と言う。困ったことに食事代込みのチケットを買わなかったのは僕だけのようだ。まさか演奏の途中で食事の時間になるとは思わなかった。

 

 

 

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2019年10月28日

白と赤のソース

 

 どっかの国の、大きなホテルの中の、広いレストランに君といた。僕たちが頼んだのはコース料理だったが、ウェイターはビュッフェのフルーツやデザートの大皿を持って来て、前菜として自由に取っていいと言った。

 

 ビュッフェの会場に来た。皿を持ってうろついていた。背の高い白人の女性が、白いソースと赤いソースを味見している。夫らしき男性に、白の方がおいしいと言うのだが、男性は赤を取った。肝心の料理はもう何も残ってなかった。

 

 

 

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