「切り離された日曜日だけの世界」
日曜日の僕は双子の姉妹の髪の毛の本数を数えている。夢の中の話だ。何度数え直しても、二人の髪の毛の数が違うのだ。
「当たり前」と、彼女らは口を揃える。
双子とはいっても二卵性だから、
「血液型も身長も」「靴のサイズも違うよ」
それでも、と僕は思う。
双子なのだから、どこかに同じところがあるはずだ。
僕は数え続ける。二人の睫毛の数を。一分間の心拍数を。
「無駄よ」と、二人は言う。
「だいたい、そんな物を数えて何がわかるの?」
事実、感情さえ脳内の電気信号の発露であり、すべては計測可能な数値に置き換えることができるのだ。僕は大脳生理学の講議を始めた。見下したような口調になったのだと思う。
「ふん」
「じゃ私達も、いいことを教えてあげるよ」
二人は僕に囁いた。内緒だが、女のコはみんな双子なのだと。
「視力や体脂肪率や」
「薬指の長さが少し違うだけ」
笑い声。
嘘だと思うなら「計測」してみなさい。
☆
僕は彼女らをひどく怒らせてしまったらしい。というのもそれ以来、僕は忘れることができないのだ。二年前の十一月二十九日の船橋市の最高気温を。一年前の七月十七日の日経平均株価の終値を。円周率の百万桁と光速度とフランツの定数。この世の計測された数値すべてを。
双子は忘却を僕に決して許さない。
ちらとでも耳目にした数字は残らず記憶となり蓄積される。
膨大なトリビアに押し潰されそうになり、僕は引き蘢った。テレビも見ず、本も雑誌も読まず。もはや誰とも話さない。
しかし記憶は容赦なく蓄積され続ける。二週間前の夕食で食べた御飯粒の数、僕はその時何度の咀嚼をした? ‥‥やめて・くれ。
唯一、眠りだけが僕の救いだった。夢だけは正確に記憶できない。時が経てば忘れることさえできるのだ。
僕はその中に逃避した。僕はしだいに一日の睡眠時間を増やしていき‥‥それが二十四時間を超えてからはあっという間だった。
今、僕は月曜から土曜まで百四十四時間を続けて眠る。ただ日曜日を待ち続ける。
☆
もう一度彼女らに会っても、僕はまた双子だと気づかないかも知れない。まるで似てないのだから。
でも二人はさり気なく聞いてくるはずだ。
手始めに僕の誕生日か何かから‥‥
何を聞かれても正確な数値を答えなければならない。その上で謝罪し今度は、世界を‥‥つまり彼女らを除く、すべて、を初期化してくれと請うつもりだ。
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