« ダリと天才、紙一重 | トップページ | 靴下の穴 »

2005年5月28日

良いと悪いと

 双子の姉は、話のたびに妹の病状を下方修正してくる。事態が悪化しているわけではない。家族でも恋人でもない、言ってみれば部外者の僕には真実を話せなかったというだけで、もともと状況はこんなだったのだ。彼女はしばしば呼吸困難に陥り、酸素吸入のマスク他、さまざまな点滴のチューブに繋がれ、しかしそれでも「元気」だという、手術は成功したのだという。
 
 お姉ちゃんと直接会い、そこんとこ問いただしてみる。要するにこういうことらしい。

 1、彼女の心臓には生まれつき小さな穴が開いていた。
 
 2、しかし彼女はこの歳まで、特に大きな問題もなくそれでやってきた。心臓に穴が開いている状態が、「普通」だったのだ。
 
 3、手術で穴を塞いだ。
 
 4、世間一般的にはそれでOKなのかも知れない。だが心臓の穴が塞がっている、ということは、彼女の身体にとっては「異常事態」なのだ。

 身体はその急激な変化に対応できず悲鳴をあげている‥‥専門的なことは全くわからない、医学的にどうなのか、間違っているような気もするけど、イメージとしては、それほど外した解釈ではないと思う。無理矢理に自分に当てはめて考えてみれば、この「耳鳴り」だ。僕は生まれつき耳鳴りがしている。全ての背景にノイズが入る。でもそれで頭痛がしたり、音が聴こえづらかったり、何が問題があるわけではない。手術でいきなりこの耳鳴りを除去したらどうなるだろうと思うのだ。「無音」に対応できず、夜、眠れなくなったりするのではないか。精神的に不安定になり、体調を崩してしまうことだってあるかも知れないではないか。

              ☆

 改めて書くまでもないことだが、「正しいこと」が必ずしも「良いこと」だとは限らない。そして「間違っていること」の100%が「悪いこと」というわけでもない。うん当たり前か。でもそれは、身体にとっても、同じなんだな。悪いところを治したからといって、全てが良くなるわけではないんだな。というわけで、やっと面会が許され、お見舞いに行ってきました。思うことは山ほどあるのだけれど、その多くは書けそうにないことばかりです。
 
 何が良くて何が悪いのか‥‥僕にはもうわからないけれど、早く良くなって。

 

| |

« ダリと天才、紙一重 | トップページ | 靴下の穴 »

コメント

昨日は絵画を中心に最近の記事に目を通しただけだったのですが、今日は60%程読ませて頂きました。日中問題など思慮深い記事に共感します。3年程前北京に行った時に、肌で日本との長い隔たりを感じました。とても聡明でハンサムなぼくさん、作家や出版関係のお仕事をなさっている方なのではと思っていました。
刺激的な鋭いメッセージをこれから楽しみに寄らせて頂きますね。

投稿: 桃組工房 | 2005年5月29日 00:04

 良い面ばかりをみていただいているようで恐縮ですが、その裏には、無知と決めつけと独断と、ぞっとするような冷たい皮肉があるのがぼくです。

投稿: ぼく | 2005年5月29日 01:01

なるほど・・・・私も24時間耳鳴りしています。多分生まれつきなんでしょうけど、最近耳鳴りだったんだと気付きました。状態が正常だからといって必ずしも良いとは限らないんですね!!教訓です。

投稿: 恵理子 | 2007年9月 1日 15:55

正常ではないかも知れないけれど多数派であるところに属してみたいです。今度生まれたときは。

投稿: ぼく | 2007年9月 1日 23:28

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 良いと悪いと:

« ダリと天才、紙一重 | トップページ | 靴下の穴 »