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2005年8月 2日

バレリーナが「鼠」だった頃の

「スポーツ選手並みのカラダとテクニックの上に、精神力、容姿まで要求される、最高に厳しい芸術」

「なまじ、美術界に足つっこんでた私達ですから」

「もうアタマあがんない訳なのよね」

「ダンサーを観るにつけ、自分のぬるさ再確認っつか、ごめん、ワタシの表現なんて自己満足だった! と」

「美を表現する人間がどれほどまでに厳しいところで闘っているのかとね‥‥」

              ☆

 美のために、舞台の一瞬の輝きのためだけに、すべてを犠牲にするバレリーナたち(会話の引用はこちらから)、だがバレエがそんな「芸術」として確立するのは20世紀に入ってからのことだ。正確には1909年。5月。オペラ座でのバレエ公演を拒絶した(!)傲慢なパリとその市民は、古びたシャトレ劇場に舞い降りた両性具有の天使の足許に平伏すことになる。

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 ヴァツラフ・ニジンスキー。

「天才の蒐集家」と呼ばれたバレエ・リュッスのオーナー、ディアギレフの秘蔵っ子である。彼がパリに進出して以来、伝統的な芸術とバレエの世界は一変し、二度と元に戻ることはなかったが、中性的な魅力を持つ男性ダンサーを前面に押し出したバレエ・リュッスの公演が「総合芸術」として大きな話題となった、その影で、未だバレリーナは「鼠」と蔑まれ、下層の貴族や成り上がりのブルジョワジーの好色な視線に曝される存在だったのだ。

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 書こう書こうと思っていて、こんなに間が開いてしまった。
 
 だからドガが描いた「踊り子」を、今日バレエを習っている、恐らくは裕福であろう少女と混同してはならない。日に僅か5、6百円というカネのために親に売られ、非人間的な訓練を長時間強いられた「鼠」たち‥‥

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 劣悪な雇用条件の元で厳しい訓練を受けた彼女たちには、2年目になると稀に出演の機会を与えられることもあったが、3年目以降の保証は何もなく、解雇されればそのまま娼婦にまで落ちぶれることもあったという。

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 それを、わざわざだ、「スナップショット(覗き見)」の技法で捉えた、この上流階級出身の画家の眼差しには、愛と紙一重に、ネガティブな皮肉が混じる。芸術は、常に綺麗事だけでは成り立たない何かを教え、僕は心に刻むのだ。


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コメント

oh! 美しい♪ 彼とは・・・。

投稿: 桃組工房 | 2005年8月 2日 19:59

 彼とは? 見てきたようなことを書いてしまいましたが、桃組さん、NIJINSKYには詳しそうですね。てゆうか、詳しいマニアが沢山ついてるんだろうな‥‥困った。

投稿: ぼく | 2005年8月 2日 20:15

両性具有って、天才というか有能な人が多いんじゃないですか?具体的に名前を挙げろといわれたら困るけど。
ぼくさん、勇気アルネー。

投稿: ヤヤー | 2005年8月 2日 20:29

ぼくさんの載せた写真でヴァツラフ・ニジンスキー初めて見たんですよ。
昔の人っぽい鍛えた体型なのかと思ったけど、男の人だとは思わなかったので、びっくり! 妖艶ですよね。

投稿: 桃組工房 | 2005年8月 2日 20:48

 ニジンスキーを題材にした、小説やマンガはいっぱい読みましたけど、さて彼が本当はどんな人だったのかというと、まったく知らないんですよ。両性具有というか、この人もジェームス・ディーンと同じくバイセクシャルですよね。女性と結婚するんですけど、それに嫉妬したオーナー、ディアギレフ(もともと彼の愛人だった)からバリエ・リュッスを解雇されてしまいます。
 しかしまぁ、残された写真の、美しいこと美しいこと。腕や足などよく見ると、結構筋肉モリモリなのに、全体の雰囲気はまさに女性のそれなんですよ。てか、しまった、また知ったかぶりで墓穴掘ってますが、これニジンスキーの記事じゃありませんからっ。斬り。衣干すてふ切腹。

投稿: ぼく | 2005年8月 2日 20:54

ザンネンッ!

投稿: ヤヤー | 2005年8月 2日 21:05

今年下半期はバレエをみまくる予定の
くるっぱーです、こんにちは。

絵をかき始めた頃予備校の先生に
「自然の美しさにかなう絵は描けないんだよ
でも 描くんだよね なんだろね」と
問わず語りされたことがあります。

彼は その言葉どおり「自然の風景」に
ついて言っていたのですが
バレリーナの動きや水泳選手の動き、
いや とにかく一流のアスリートの動きを
見ると その無駄のなさ、美しさに
単純に頭をたれてしまいます。
そしてなぜかその先生の言葉を思い出すのです。
彼らの動きは「自然」ではなくて
ものすごーーく「不自然」とも思えるのですが。
言いたい事がうまくまとまりませんでした。
えへへ。

投稿: くるっぱー | 2005年8月 2日 22:17

バレリーナっていつの時代でも女の子の憧れだと思っていました。
ドガの絵の裏にそんな真実があったとは知りませんでした。
日本で言うなら昔の舞子さんのような,感じかも知れませんね。

投稿: 桃組工房 | 2005年8月 2日 22:33

 嘘を含むのが真実。夢を内包するのが現実。そして物事を自然に見せるためには、物凄く不自然な何かが必要なのでしょうか。世界に対して不自然を要求する種類の自然とは、まったく、なんなんでしょうね。禅問答のような問いには、問いで返す以外にないとは思うのですが、くるっぱーさんのコメントに、或いはその先生の言葉に、返事を書こうとして、もう小一時間もパソコンの前で固まっています。言葉が出てきません。「バレエ」や、「一流のスポーツ選手の動き」の他に、ぼくはちょっと前に書いた「バランスアート」を思い出しました。バレエか、久しぶりにぼくも見たいです。

投稿: ぼく | 2005年8月 2日 23:36

‥‥と、苦しみぬいて書いたら、いつの間に桃組さんからのコメントが! 物事には必ず裏があって、ぼくはその成り立ちを見極めるのが好きなんですよ。アートとは、そんな新たな視点を提供してくれる媒体であると考えます。「嘘も本当も口を閉じれば同じ」「夢も現実も目を閉じれば同じ」‥‥デビューの頃の宇多田ヒカルは、そう歌っていて、それも好きなんですけどね。

投稿: ぼく | 2005年8月 2日 23:43

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