名字がラッキーという人と、名前がラッキーという人では、どちらがより「ラッキー」だろうか。
つまり幸田ラッキーと、幸子ラッキーとでは、どちらが。
.
仕事で、偶然に「ラッキー」という名前の人に会った。
luckyは、幸運の意味だ。変わった名前だ。
仕事とは、将来性はゼロのくせに、責任だけはそれなりにあるという、最高にやる気の出る仕事である。
ミセス・ラッキーは、自動車メーカーの、下請け工場で、油まみれになって働いている。
将来性の少なさ、責任の不自然な重さという点では、僕の仕事と、どっこいどっこいだろうか。
.
ラッキーさんは、中国人だ。5〜6年前に、日本に来た。
日本人の男と結婚した。来日して僅か1週間後のことだ。
ラッキーさんと結婚した男は、ラッキーさんと知り合う直前まで、ラッキーさんの妹と同棲していた。
.
妹は、男のことが嫌いだった。ずっと以前から別れ話が出ていた。
出てはいたのだが、「お前を失うぐらいなら僕は死んだほうがましだ」と、男が泣き叫ぶので、なかなか、別れられずにいたのである。
そのうちに男は、バスルームでハラを切ったらしい。
しかも救急車は前もって自分で呼んであったらしい。
それで完全に冷めた妹は、自分とそっくりの姉を中国から呼び寄せ、男にあてがったのだ。
.
「私とは合わなかったけど、彼はイケメンだし、背も高いし、お姉ちゃんそういうの好きだし」
「お姉ちゃんとは、合うかも知れないな、と思ったの」
.
妹はそのとき、ハラキリさんとは別の、そこまでハンサムでもない日本人の男と、急速に関係を深めつつあった。
「あいつ馬鹿だから、私たちが入れ替わったことにも、気づかないのよ」
「悪い妹だな」と新しく恋人になった背の低い男は思った。その評価は変化することがなかったが、ハラキリ男についての判断は、今もって、保留している。
.
ちなみに彼女の新しい、お利口さんの恋人というのは、僕だ。
.
一方でラッキーさんも、すぐに男を嫌うようになった。
嫌うようになったのは、男がハラを切るからではない。
今も男が妹のことを好きでいるからだ、と彼女は言う。
「でも知ってる? 中国では、姉妹はとても仲がいいの」
.
名前を聞いた。それで姉妹だと知ったのだ。ラッキーさんの本名は、「大切にする」という意味の中国語だった。
対して妹は、姉には幸せになってほしいと平然と口にする僕の中国人の恋人だが、「理解する」という意味の名を持つ。
より正確には「理解したもの」か。僕は本当のことを少し打ち明けて、ラッキーさんにキスした。
けど話すまでもなかった。彼女は、最初から全部知っていたみたいだった。
.
いつの間にか、問い自体が変わってしまう中で、つねに同じ答を出しつづけよという、ゲームがある。
そこには、同じひとつの問いかけに対し、無限に変化をつけた答えを出すプレイヤーがいて、勝ちつづけている。
ゲームの名は?
.
また無敵のプレイヤーは誰か、答えよ。
「理解したもの」になり姉は、唐突なキスと、僕の真実や嘘に、驚かない。
「あなたは、さびしくないの?」
短い時間、抱き合いさえした。
最近のコメント