59秒
1日が23時間しかなかったら、気づいて文句を言うだろう。いちばん身近な人に言うだろう。
1時間が59分しかなかったら、1分が59秒しかなかったら?
1秒、僅か1秒。文句は言わないかも知れない。たぶん誰にも、何も言わない。でも僕は、その僅か1秒に気づく。
1分は1日の内に何回か61秒になったり59秒になったりしていて、僕は59秒になったときだけ気がつく。
61秒になったときだけ気がつく人がいて、そういう人は占い師か巫女だろう。それじゃなかったら大金持ちで、みんなから羨ましがられる。
違うかな。
フィッツジェラルドは20代のころ、ときどき59秒にもなる1分に気づき、その失われた1秒についての哀しい小説を、いくつも書いた。
嘘ですけど。
ヘミングウェイは逆に、正確に59秒を書いたのです。1秒どっかに行ってしまった。
正確に書くことによってどこかに消えてしまう1秒、そのことが哀しいんだな。そっちの方が哀しい。
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