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2017年1月16日

みんな、死ぬほど、踊らせてあげる。

 朝起きて1階に下りてきて、台所の温度計を確認すると2℃だった。なるほど寒かった。とりあえずゴキブリは死ぬだろう。僕だって死にそうだ。朝食をつくりコタツのある部屋に持って行って食べる。後片付けもせずそのままコタツで手がけている翻訳の直しをほんの少し進めた。

『10月のこと。女生徒たちに人気があった、男の先生が、私にこう言った。君、ピアノをやってるんだって? 良かったらみんなの前で、何か弾いてみてよ。え? クラスの馬鹿女どもの前で? ためらったけど、私は弾くことにした。音楽で自分を表現する。これはいい機会だと捉えて。三たび私は、ショパンを選んだ。さぁ私と一緒に、ダンス、ダンス。みんな、死ぬほど、踊らせてあげる。』

『で、演奏が、終わった。その後の沈黙を、沈黙が埋めていく。唖然として私を見るみんなの、その沈黙に、さらに重い沈黙が、次々と、重なっていく。』

『ピアノがまた私に、新しい世界を開いてくれたのだ。クスクス笑う声も、あざけりの言葉も、消えた、完全にね。誰かが、たぶんいちばん臆病な誰かが、おずおずと、私に拍手した。みんなが、それにつづく。ピアノのある教室は、絶叫のような拍手で満たされた。』




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