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2019年10月30日

アフリカの大猫

 

 新幹線は速度を落として走行していた。そして停車駅ではない駅に停車した。「靴を濡らさないように注意してください」と車内放送があった。するとゴーッという音がして大量の水が床上を流れて来た。

 

 水は一瞬で引いたが、足はびしょ濡れになってしまった。何が起きたのか、僕は説明を待った。しかし、騒ぎ出す乗客もいた。訴えてやるとか何とか、前の方に座った女性グループが息巻いていた。

 

 スーツを着た弁護士の男が、集団で訴訟を準備する、と言って乗客の名前と連絡先を訊いて回る。その様子を冷めた目で見ていた若い女が、僕の隣にやって来て言った。「そんなこと、どうでもいいと思わない?」

 

 僕が顎の下を撫でてやると、その女性は大猫のようにゴロゴロ喉を鳴らした。外は、いつの間にかアフリカの大地だった。確かに裁判など、どうでもよかった。

 

「ハウ・アー・ユー?」と女は言った。「アイム・ファイン・サンキュー!」と僕は答えた。僕たちはそこで列車を降り、一緒に旅をつづけることにした。

 

 

 

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