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2019年11月30日

トウモロコシ戦争

 

 ‥‥爆音がして、

 

 ‥‥ヘリコプターが飛んできた。人々が集まってくる。ヘリは三方を壁に囲まれた空き地に、トウモロコシを投下していく。

 

 

 

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見慣れた光景

 

 スーパーは24時間営業のはずだったが、電気が消えている。暗闇の中で、店員も買い物客も動きを止めていた。僕1人だけが動いていた。

 

 ケーキをカゴに入れ、レジに並ぶと、明かりが点いた。止まっていた時間が、また動き出した。

 

 そういえばスーパーの店員は、浴衣姿だった。茶色い浴衣。何かの特売か。レジに並び順番を待っていると、外国語の叫び声がした。意味はわからないけど、切迫した響きだ。

 

「大変だ」と言っているのだろう。

 

 それでみんなで行ってみると、売り場の天井から雨漏りがしていて、ケーキやパンが台無しに‥‥。

 

 あぁ、僕は雨漏りには驚かなかった。いつどこで見たのかは思い出せない。でもそれは見慣れた光景だった。ただこの乾燥した土地で、雨が降り出したことは驚きだ。僕は外に出て、灰色の空を見上げた。

 

 

 

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2019年11月29日

黒いスラックス

 

 午後3時頃起きて1階に下りていくと、見知らぬ小太りの男がいた。黒っぽいスラックスに、セーター。女房の客だろうか? だが女房は女房で、あなたの知り合いでしょ、という顔で。僕たちはお互い、顔を見合わせて固まる。

 

 心の中に、お前はこうなっていたかも知れないんだぞ、という声がした。誰の声だろう? だが不意に、僕は悟った。

 

 

 

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2019年11月28日

虹彩

 

 ところで僕は、深く考えることもなく、虹は夏のものだと思い込んでいた。冬になって、寒くなっても、目の前に虹が見えるのは、だから変だった。

 

 左の瞳の中に、小さな虹がかかっていた。

 

 そのせいで、前が見えづらい。日が落ちて、暗くなっても、瞳のその輝きは消えなかった。

 

 

 

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授業のある日

 

 この部屋から週5日、僕は語学学校に通っていたのだが、今日は授業のある日なのかどうか、わからなくなってしまった。君や君の母親に、今日が何日の何曜日なのか訊いてみても、ただ笑うだけで、何も答えてはくれない。超高層ホテルの、上の方の部屋だ。大きな窓は開け放たれ、青いカーテンが揺れていた。僕はベッドの上で、あぐらをかいて、下界を見下ろしている。吹いてくる風に、寒さも怖さも感じられないのが、不思議だった。

 

 

 

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ベートーベン推し

 

 クラシック専門のCDショップで、中年の夫婦に話しかけられた。お薦めのディスクがあったら、教えてくれないか、と。君のような若いリスナーは、どんな演奏を聴くのかな? 僕はもちろん、君の弾くベートーベンを推した。そして彼女が弾いているんです、と一緒にいた君を紹介しようとした。けれど君は、「もう若くないから」と言い、照れて逃げてしまった。

 

 

 

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半身

 

 鏡に映った自分の顔を見ているとき初めて、僕は左目を失明していることに気づいた。というか、僕の顔の左半分が、黒い影の中に消えていた。顔だけではなかった。僕は右半身だけの存在になっていた。

 

 いつからこんなことになっていたのだろう。しかし、今日はもう遅い。僕はなくなった左側を下にして、ク・ハラのポーズでベッドに横になった。すると右目に2倍の量をさした目薬が、涙のように溢れて、左下の影の中に消えていった。

 

 

 

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2019年11月27日

妖精の棺桶

 

 妖精と結婚していた男がいる。かなりの高齢だ。小さな妖精は何十年も昔に亡くなっている。その亡骸が屋根裏に安置してあると聞きつけ、僕たちは調査に向かった。

 

 これで妖精の実在が証明できる(かも知れない)。老人の許可を得て、屋根裏へ。梯子をかけて上がった。埃だらけの茶色い箱があった。震える手で蓋を開けた。これが妖精のものなのか、しかし、中には一房の髪の毛があるだけだった。

 

 

 

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鑑定士

 

 東南アジアに半日だけ滞在して絵画を3枚購入した。そして帰国した。

 

 空港の税関で一悶着あった。特別な申告が必要だとか、贋作の疑いがあるので没収だとか‥‥

 

「あなたねぇ、こんなもん持ち込んで、ただで済むと思ってるの?」

 

 コロンボ刑事のような雰囲気の男は、空港専従の美術品鑑定士らしい。

 

 

 

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2019年11月26日

カメレオン

 

 ヨーロッパから帰国した。独裁者が僕を面接したいという。今すぐ空港で。コートのポケットにプラスチック製の拳銃を忍ばせて僕は向かった。

 

 生きて帰れないかも知れない、と君には告げてあった。独裁者には超能力があるらしい、噂によると。拳銃のことなど、お見通しなのだろう。

 

 100cm X 60cm くらいの狭い金属探知ゲートを抜けて、面接室に入る。するとすぐ目の前にいた。カメレオンのような目をした独裁者が。

 

 左右の目は別々の方を向いている。両眼とも僕を見てなかった。

 

 

 

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大地主

 

 女房は外出していた。赤ん坊は部屋で眠っていた。とても、よく眠っていた。だから僕も出かけても大丈夫だろう、と思った。家の周りを少し散歩するだけだ。もしかしたら市場まで行って、果物を買ってくるかも知れない。リンゴやバナナを。でもそれだけだ。

 

 けど家から少し離れると、僕は心配になった。赤ん坊を家に置き去りにしてきたことが。ベビーカーで連れて来れば良かったではないか。ベンチに腰掛けると、僕の白いズボンの尻は汚れてしまった。ウンコを漏らしたみたいに。フランス語を話す観光客が、街路樹や公園のベンチや、動物の形をした石を指差し、これは全部あなたのものなのですかと訊いてくる。

 

 どこまでがあなたの家の敷地なのですか?

 

 そう、僕はまだ家から一歩も外に出ていない‥‥

 

 

 

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2019年11月25日

ザラザラした舌

 

 その路面電車を追いかけて、運転士が走ってくる。異常に足が速い、と思ったら大猫だった。飛び乗ってきた。人間の運転士と交代して、大猫がハンドルを握った。

 

 やがて電車は、神社のような駅に着いた。僕は大猫と一緒に降り、少し話をした。外見からでは、彼女は人間とまったく区別がつかない。けど舌がザラザラしているのは、やっぱり猫だからだ。キスしなければ人間と同じだね、と言うと、大猫は飛びかかってキスしてきた。ザラザラした舌で味見するように僕を舐めた。そして「私は人間なんかとは全然違うのよ」と言った。

 

 

 

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結末

 

 友達がCDを持って家に遊びに来た。聴いてみるとまぁ何てことはない歌謡ロックなのだが、ベースラインがやたらと斬新で格好良くてハマった。その内に夕方になって、今日は毎回楽しみにしていたドラマの最終回。でも僕はなぜか、その結末を知っていた。期待外れかも知れないよ、とか言って何とか避けようとする。友達が失望するのを見たくなかったから。

 

 

 

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2019年11月24日

10階

 

 宇宙服に着替えて、10階まで行く。エレベーター・ホールには、人集りができていた。エレベーターが故障中なのだ。諦めて縦笛を吹いている人や、大声で叫んでいる人を掻き分けて、いちばん端っこのボタンを押すと、

 

 ポォーンと音がして、マイクロバスがやって来た。

 

 10階行きの代行バスだ。たぶん。何人かと一緒に、僕は乗り込んだ。けれどバスは、大学の敷地を抜けて、駅の方へ走っていく。

 

 

 

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レゴタウン

 

 そこは、レゴでできた町だった。建物も、街路樹も車も。それだけでなく、道行く人々も、みんなカラフルなブロックでできていた。自分の体はどうなっているんだろうと心配になったが、鏡を見る勇気はなかった。

 

 

 

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2019年11月23日

ソプラノ歌手

 

 私は刑務所に収監されるところだった。女になって、何をやったのかは覚えていない。ダサい囚人服に着替えるように言われると、衝動的に、私はソプラノ歌手のように歌った。「あんた、オペラ歌手だったの?」刑務官は驚いて言ったが、私にはここに来るまでの記憶がなかった。

 

 何かの理由で一時的に出所していたとかいう金髪の女が、ボーイフレンドの車でまた戻ってきた。再収監される前の最後の一発、という感じで車の中でヤっているのが見えた。見られているのに気づくと金髪はこちらに手を振って挨拶した。改めて思ったが私はとんでもないところに来てしまったようだ。

 

 

 

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2019年11月22日

ファミレス

 

 生まれ変わることがあるなら次は、仕事をしっかりやる、って人生がいいかな。僕はそう呟いた。そして夜は、自分に職業がある、という夢を見て、しっかり眠りたいと。

 

 けれど繰り返し僕が見るのは。

 

 昼近い朝、目覚めると、ホテルの部屋にいた。大きな窓の外に、24時間営業のスーパーの看板が見える。お腹がすいた、何か買いに行こう、と一緒にいた髪の長い女の人が言った。

 

 そこは東南アジアの都市だった。すぐ近くに見えたスーパーまでは、実際に歩くとかなりの距離があった。女の人とは途中ではぐれてしまった。スーパーで落ち合えばいいだろう、と思い構わず1人で行った。

 

 しかし、着いてみるとそこは、スーパーではなかった。ファミレスだった。女の人は、ウェイトレスの制服を着て、ソファに腰掛け、僕を待っていた。髪はショートになっていた。そして「ディナーの約束、覚えててくれたんだ」と言う。「ディナー?」

 

 でも確かに夜になっていた。

 

 

 

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2019年11月21日

持って生まれた

 

 そのアフリカ系の女性の母国語は仏語だったが、僕たちは教室で、主に日本語を使って会話していた。

 

「フランス語を持っているんだね」僕は彼女に訊ねた。「そうなの、私はフランス語を持って生まれてきたのよ」

 

 

 

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同窓会 消防士

 

 エレベーター・ホールの向こう側では、同窓会か披露宴的な集まり。きちんとした格好の男女が、廊下にまで溢れていた。僕は高校の校舎を改装したホテルにいた。ホールのこちら側の教室には人気がなく、携帯の電波も届かなかった。

 

 40人が入る広い9年1組の教室を、僕1人で使っていた。

 

 僕はその長い廊下を、端から端まで何度か行ったり来たりした。9年9組で行われている披露宴を観察して、また自分の教室に戻って。中央のエレベーター・ホール付近が、特に電波の入りが悪いようだった。

 

 するとスプリンクラーが故障したのか、本当に火事があったのかはわからないが、天井からシャワーのような放水があり、集まった人々はびしょ濡れになった。

 

 消防士のような格好をした何人かが、その放水で顔を洗っている。

 

 

 

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2019年11月20日

短冊

 

 子供たちは手に空気より軽い紙片を持っていた。赤や青や黄や緑の、折り紙のような短冊のような紙だった。各自何枚か手に持ち、通りやビルの屋上に集まってくる。何万人いるのだろう。全員が子供だった。その町には大人がいなかった。そして何か子供たちだけに聞こえる合図があり、彼らは一斉にその赤や黄を、夏の青い空に浮かべるのだった。

 

 

 

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服を食べる

 

 僕はその人の服や靴を食べていた。全部食べてしまえば、その人の裸があらわれると期待していたが、違った。服がなくなると、その人は見えなくなってしまった。どこで誰と一緒にいるのか、僕はわからなくなり、見知らぬ人に向かって、とても変なことを質問していた。

 

 

 

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略奪

 

 寝室には、今まで開けたことのない引き出しがたくさんあって、そこには着たことのない服が大量に入っていた。着ないのだったら貰ってもいいかしら、と女の人が2人やって来て訊いた。そして僕の返事を待たず、赤や黄色の服をかっさらっていった。こんな派手な色の服を僕が着ることはないだろう。それでも全部持っていかれたら困るので、そう言った。しかし彼女たちはベッド脇の観葉植物にまで手を出した。

 

 

 

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2019年11月19日

震度2

 

 空が、僕の指先で揺れていた。空が地震だった。震度2が、手の届く距離に。

 

 

 

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2019年11月18日

ア・ロング・バケーション

 

 僕は引っ越すことになった。引っ越さねばならなかった。そう言うと何人もの友人知人が、ウチに来ればいいと僕を誘ってくれた。

 

 そんな中、僕の友人ということになってはいるが、正直誰なのかよくわからない男の人と、デパートの中を歩いた。そこは昔のレコードや、アンティークのオーディオ機材の売り場だった。その「友人」ということになっている人が、『ロング・バケーション』のLPを見つけた。ガラスのような透ける素材でできた青いレコードで、持つとずしりと重たい。

 

 試聴してみよう、と彼は言った。売り場のターンテーブルに乗せて‥‥

 

 

 

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2019年11月17日

そこだけ、まるで

 

 コンサートは既に開場していたが、その若い調律師は、まだピアノに齧りついていた。ぎりぎりまでつづけるようだ。

 

 スマホの時計で時間を確認しながら(残り時間30分‥‥)、作業を進める彼を、誰もが不安気に見つめていた。特に高音部の調律に手間取っているようだ。音の輪郭が明確に定まらず、そこだけ楽器の音に聞こえないのだ。ピアノの音が、まるで人間の声のようなのだ。

 

 

 

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2019年11月16日

大猫のこと

 

 22時過ぎ。僕は石段を下りていった。その大猫は上がってきた。すれ違うときに一瞬だけ目があったが、どちらも慌てて目を逸らした。こんな大猫(小人間)のことは、段を全部下りる(上がる)前に、忘れてしまおうと思うのだった。

 

 

 

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当たり

 

(お馴染みの)水平方向に動くエレベーターに乗った。動かしていた操縦士は未熟で、あちこちにぶつかり、可哀想なくらい減点されていた。これ以上何かあったら、免許停止だろう。僕が手に持っていたお菓子は「当たり」だったので、それでそれを慰めにあげることにした。

 

 

 

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2019年11月14日

靴下も

 

 サンタクロースが、僕に靴下をくれた。そうだった。僕は靴下が欲しかった。正確に言えば、靴下も欲しかった。サンタさんはどうしてそれをそんなに正確に知っているんだろう、と思った。

 

 

 

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真夜中の洗濯機

 

 真夜中の洗濯機が、綺麗なポリフォニーを奏で始めるのを聴いた。何だかすごいところに来てしまったみたいだ。外はもうあんまり寒くないよ、と僕は声をかけた。だからそんなに震えなくていい。

 

 

 

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連弾

 

 君が僕の隣に座ってピアノを弾き始めた。あーいや、逆なのだ。弾いている君の隣に何もしていない僕が座り始めたというか。君は僕の背中から手を廻して、低い方の鍵盤を弾く。左手は右手の2倍の長さがあるようだ。

 

 

 

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2019年11月13日

シティハンター

 

 丘の上の駅を上空から映した映像をチェックしながら、「自分で決めた創作上のルールを破ってしまった」とシティハンターの作者は言った。「‥‥があまりにも魅力的だったので」

 

 

 

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地球は何回まわった

 

 朝早く駅まで行って、用事を済まし、また自宅に戻った。そのちょっとの間に、何年もの時が流れたみたいだ。家には、作業服を着た知らない人がたくさんいた。

 

 僕はこれから海外に行く、つもりだった。荷造りは8割以上済ませてあった。何だかよくわからないが、まぁいい。予定より早いが、出発してしまおう。着替えのTシャツを何枚か詰めれば、それで出発できる。

 

 だが家の中をいくら探しても、衣装ケースが見つからなかった。僕の服は、どの部屋に行ったのだろう。

 

「まだですか」という顔で作業服が僕を見ている。そういうことなんだろう。今はいったい、何年何月何日の何時で、僕が出かけている間に地球は何回まわったのか、訊いてみたかったけど‥‥

 

 

 

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2019年11月11日

目と声

 

 オザケンの歌が聞こえてきたが、歌詞が、少し違うようだった。誰でも好きな人を好きになる自由がある、というのだが、歌い方も違う。声も違う。気づけば歌っているのは自分だった。と思ったけど、やっぱり違う。

 

 目で歌が歌えるなら、何が歌われるだろう。声に目がついていて、とても近くにいて、僕たちを見ているような声で。

 

 

 

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小さな風船

 

 小さな女の子と手を繋いで歩いていた。僕はシルクハットをかぶり蝶ネクタイ、女の子もずいぶんと古風なスタイルだ。女の子は豆粒ほどの大きさの風船をいくつか持っていた。そして「明日晴れたら」と言うのだった。「お空に浮かべるの」。僕は黙って半透明のガラス天井の向こうの空を見上げた。

 

 

 

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睡眠明け

 

 サロンでは全身に茶色い体毛の生えた大柄な女が、冷凍睡眠明けのマッサージを受けていた。体毛が濃すぎて男女の区別が難しいが、たぶん女だ。遠慮して退席しようかと思ったが、太古の昔からやってきたその女には、服を着る習慣がないようだった。寒さは毛で防ぐのだった。

 

 

 

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浴槽付きカフェ

 

 風呂場のドアを開けるとカフェだ。僕は裸のまま歩いて行き、キープしておいた自分の浴槽に浸かった。浴槽付きのテーブルはこの店で1席だけ。コーヒーを注文して、湯船で寛いだ。

 

 服を着た客が僕の席にやってきて、あなた日本人でしょ、と訊く。そして日本語の書いてあるメモを僕に渡して、何が書いてあるのか読んで欲しいと頼んだ。

 

 

 

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2019年11月 9日

犬に飴玉

 

 君に靴をプレゼントしようと思ってスマホを見ていた。フランス製の厚底靴がいいだろう。靴底にスピーカーが内蔵されていて、歩きながらラヴェルのピアノ曲が聴ける。フランスのエスプリが感じられる靴だと、宣伝にもある。‥‥すばらしい。

 

 君はチャウチャウ犬を連れて僕に会いに来た。「一緒に散歩に行こう‥‥」僕たちは線路の上を歩いた。歩くのに疲れると、線路の上で休憩した。僕は着ていた黒いTシャツを脱ぎ、上半身裸で日光浴をした。持っていた飴玉を、犬にあげた。「すぐ飲み込んでしまわず、口に含んでおくんだよ‥‥」でも犬には、それが難しいようだった。

 

 

 

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修理工

 

 目を閉じて、しばらくしてから目を開けると、白い天井が見えた。僕は修理工的な服を着て、アパルトマンの床に寝転び、天井を見上げている。修理工なのだ。何を修理するのかは知らないが、とても直せるとは思えなかった。僕はもういちど目を閉じ、いつもの自分に戻ってから、目を覚ました。夜中の1時だった。

 

 

 

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2019年11月 8日

スカーフを2枚

 

 一緒に写った写真は少ない。なぜか知らない。

 

 4、5年前、とあるカフェで誰かに撮ってもらった写真がある。

 

 その写真の君はスカーフを2枚巻いている。

 

 その日は、僕たちは会う約束などしてなかった。僕は君のことを考えながら出鱈目に散歩していた。今ごろはどこで何をしているのだろう、と(そしたら町角で偶然に出会った、まぁそういうこともある)。

 

 

 

 ところで写真をじっくり見てみると、僕たちの背後の壁の模様の中に、文字のようになっている部分があると気づく。光の加減か、それはSIと読める。英語のIFだ。仮定のもしも。

 

 フランス語のSIにはSOやVERYの意味もある。とても。

 

 否定の疑問に対して肯定で答えるYESの意味もある。

 

 あなたちは恋人同士ではないのですか? いえ(SI)、恋人同士です。などと使う。

 

 

 

 IF SO VERY YES. 2人で写った写真は、それが1枚あればいいのかも知れない。

 

 もしかしたら、とても、はい、はい、はい。

 

 

 

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置き忘れ

 

 友人とコンサートに行くのだが、僕はチケットを家に置き忘れてきてしまう。まぁ大丈夫だろう、今どき紙のチケットなど必要ない、スマホで予約と入金が確認できるなら、追い返されることはない、とタカをくくっているが、どうも風向きが怪しい。そもそも僕たちが並んでいるのは、コンサートホールではない。開店前のレストランなのである。

 

 

 

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2019年11月 7日

50

 

 その名前のない男はサンコンという名の子犬を連れていた。サンコント、フランス語か? 何で犬の名前が50なんだ? 僕は訊いたが、その答が語られることはなかった。男はどこかに行ってしまった。バケツをひっくり返したような

 

 雨の中。アズテック・カメラのレコード・ジャケットみたいなポーズで、僕は何かを期待していた。というより、祈っていた。天から20ユーロ札が50枚降ってこないか、とか。

 

 

 

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2019年11月 6日

天使と蝙蝠

 

 僕は天使のように眠る、と君は言うが、僕は天使がどのように眠るのか知らない。想像することすら難しい。「たぶん」と君は言う。「そういうふうに眠るのよ」「長い時間眠るってこと?」「たぶんね」

 

 窓から外を見ると、雪のように白い蝙蝠が舞っていた。そう雪のように。あるいは天使のように。

 

 

 

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ヤンマー

 

 ヤンマーというのは、綴りはちょっと違うけど、どこだかの国の言葉で「くだらないお喋り」の意味で、格好いいなと思った。発動機の会社につけるにはもったいない。昔気質のロックバンドか、レコード・レーベルの名前みたいだ。僕は君に言った。目を閉じてからもずっと、ずっとくだらないお喋りをつづけよう。×××みたいな音楽で、この眠りの世界を満たそう。

 

 

 

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振りかざす

 

 御利用の方は携帯電話を振りかざして御合図してください、と「町の灯油配送センター」の車が言っている。知能を持たない女の人の声だ。それで用もないのに振りかざしてみたが、車は止まらなかった。

 

 

 

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賑わい

 

 かつて経験したことのないほど長大なエスカレーターに乗っていた。数百メートル下の広場に下りようとしている。下は多くの人で賑わっている。その賑わいに参加するのだ、という使命感に僕は燃えていた。

 

 エスカレーターの動きは遅く、到着には無限の時間がかかりそうだったが、乗っている人々にはイライラも焦りもない。みな自分こそが、その賑わいに欠かせない最重要人物なのだという、自覚と、誇りを持っている。そして振り返るまでもなく僕は、自分が最後尾だと知っていた。自分がその賑わいのジグソーパズルの、最後の1ピースだと知っていて、満足だった。

 

 

 

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2019年11月 5日

バス待ちの幽霊

 

 太り始めた三日月の光が、オリオン座の輝きを消してしまった。それを残念に思いながら、夜更けの町を1人歩いた。いつものバス停に、いつもの幽霊。黒っぽい服を着た、背の高いおじいさんの幽霊は、バスが来るまで、成仏できないのだろう。

 

 

 

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中駒川駅 スキー

 

 寝室を誰かに覗かれている。僕はその観察者の眼を意識しながら、寝返りを打ったり、わざとわけのわからない寝言を言って、夢を見ているふりをする。

 

 そう最初は寝ているふりだったが、そのうち本当に寝てしまい、夢を見始めた‥‥

 

 ‥‥僕は中駒川駅に行こうとしていた。たぶん実在しない駅だ。何番線に乗ればいいのか、駅員に訊いた。その駅員は口がきけなかったので、僕たちは紙とペンで筆談した。

 

 駅員の声を聞き、書き取るのに集中していると、僕の口から涎が出て、止まらなくなった。ペンも紙もベトベトになり、何も書けなくなった。あなたも障害者だったんですね、という目で見られて、堪らなくなり、僕は逃げ出した。

 

 足に短いスキーを履いて、手には傘を2本持ち、駅構内を滑るように移動する‥‥

 

 ‥‥そこで目を覚ますと、裸でベッドに寝ていた。見知らぬ女の隣だった。枕もシーツも涎で濡れていた。そして観察者はまだいた。

 

 

 

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2019年11月 4日

大樹

 

 タイタニックのような大きな客船で航海していた。船の脇にはロープで樹がくくりつけてあった。誰かが海の向こうの、引っ越し先まで運ぶのだ。枯れないよう、根は海水に浸けてある。だが強い風が吹いた次の日、見に行くと真っ二つに折れていた。大樹は半分の高さになってしまった。残った幹も蛇のようにくねくねと曲がってしまった。枝を強剪定しておくべきだったね、と人々は言う。

 

 

 

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2019年11月 3日

乾いた音

 

 ステージに君は現れた。拍手が止むのを待って話し始めた。半分も聞き取れなかったが、僕の話らしい。らしいというか、間違いなく僕の話だ。僕の両隣に座った客が「あ、この日本人か?」という表情でこちらを見つめてくる。

 

「愛してるって、これだけはっきり言われてるのに、気づかないとか、コイツ間抜けか?」

 

 そして「立て、立て」と言う。君もステージの上から真っすぐ僕を見ている。僕は椅子から立ち上がった。そうすると君が登場したときよりも大きな拍手だ。何か喋らなければならないような雰囲気だった。

 

 とりあえず「フランス語は僕にはちょっと難しくて‥‥」と切り出し時間を稼ぐが、何のセリフも思いつかない。「とにかく自分が馬鹿だということはわかったよ、それで‥‥」少しの笑い声。

 

「だから、ちょっと教えて欲しいんだ、アイ・ラブ・ユー・フォーエバーって、フランス語で何て言うのかな?」「ウィル・ユー・マリー・ウィズ・ミーって、何て言えばいいのかな?」

 

 客席の誰かが、それをフランス語にしてくれて、僕はそのまま繰り返す。それをそのまま繰り返して言った。君は答えず、直接には何も答えず、ただ笑みを浮かべて、ピアノの前に座った。

 

「ショパンや、ラフマニノフの作品は、私がどうしても言いたいけど、どうしても言えないすべてを、代わりに言ってくれるの、いつも‥‥」

 

 客席は静まり返った。君と僕の他には、誰もいないみたいだった。僕は立ったままで、君の指が最初に鍵盤に触れるときの、あの乾いた音を聴いた。

 

 

 

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八百屋さんの小さなトラック

 

 八百屋さんの小さなトラックに乗せてもらい、僕たちは映画館に行った。親友のお父さんは八百屋だった。銀河鉄道スリーナインの映画が見たいと言うと、野菜と一緒の荷台に僕たちを乗せて、連れて行ってくれた‥‥。

 

 見た夢そのものは忘れてしまったが、その夢を見て思い出したことを、まだ覚えているので、記録しておきたい。40年ほど昔、小学生だったころの記憶が、鮮やかに蘇ってきたのである。

 

 

 

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パンクのTシャツ

 

 乾燥してよく晴れた日で、洗濯物干しにはうってつけだった。洗濯物はもちろん、布団や枕、クッション、ソファなど、いろいろバルコニーに並べた。そうすると何を勘違いしたのか、小柄なおばさんがやって来て、Tシャツを売って欲しいと言う。「そのパンクのTシャツが欲しいのよ」

 

 ピストルズのTシャツのことだろう。売り物ではない、僕たちはガレージセールをやっているわけではない、と説明したが、聞く耳を持たない。法外な値を言えば諦めて帰るだろうと思い、1万円だと告げると、財布から金を取り出して払うではないか。千円で買った着古しのTシャツが、10倍の値で売れるとは。

 

 

 

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2019年11月 1日

日本語の町

 

 町は日本の町だったが、そこに住んでいるのは、白人ばかりだ。日本語の看板や、日本語の表示を見ても、何が書いてあるのかわからず、戸惑っている様子だ。通り過ぎて行く僕に、訊きたいことがあるのだろう、すがるような目で見つめるが、何も話さない。彼らは日本語ができないのだ。

 

 

 

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水の駅

 

 ピチャンというか、トポォンというか、そういう感じの、水が滴り落ちる音がした。それが発車の合図だった。駅ではいつからそんなふうになったのだろう。電車の扉が閉まる音も、何となく水っぽかった。とてもよく晴れた日だった。

 

 

 

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