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2020年3月31日

風のウイルス

 

 その半透明のビニール袋のような生き物は「ウイルス」だと言った。目も耳もなかったが、口はあった。口の中には歯もあって、風に飛ばされないように必死に僕の服に噛みついていた。しかし風はそう強くはなかった。

 

 

 

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テレビ電話

 

 モニター画面に向かって話しかけた。そちらに行きたい。僕は語りかけた。画面には冬の午後の庭が映っていた。どうしてだか僕はそこが山の上だと気づいた。空は晴れていたが明るくも暗くもなかった。

 

 返事をしばらく待っている。すると画面の外側から僕の名を呼ぶ懐かしい声がした。

 

 

 

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英語

 

 シャルロット・ゲンズブールみたいな顔立ちを見てフランス人と判断したが、その華奢な女性はアメリカ人だった。「フランス語は、私話せないの」と言って笑った。「英語です。それと日本語も少しなら」。その声色を聞いて女性がまだ十代なのではないかと僕は疑い始めた。

 

 

 

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2020年3月30日

ほぼ日 ビートルズ

 

 新聞のテレビ欄を見てみる。夜の10時から特番があった。糸井重里の会社が解散したので、特集するというのだ。クリスマスツリーの件で批判を浴び、そこから経営が傾いていったのだろうか。だがその時間にテレビを点けてみると、ビートルズのコンサート映像が流れていた。どの局もビートルズの解散をトップで報道していた。

 

 

 

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金髪の息子

 

 洗面台に僕の金髪の息子がいる。排水口に興味を示して覗き込んでいる。歯を磨きたいから、どいてくれないかなと声をかけた。お父さん、裸で風邪を引いてしまうよ。

 

 しかし息子は、聞こえないのか日本語がわからないのか、無視している。いや違う。歯を磨くだけなのに全裸になるのはなぜだろう、と疑問に思っているのだ。

 

 

 

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斜め横の椅子

 

 大きな窓の向こうに湖が輝いている。きらきらと。僕たちは長方形のテーブルで食事をしていた。窓にいちばん近い席は空席だった。僕はずっとその席を見ながら食べていた。斜め左横の椅子を。するとそこに君がやって来て座った。

 

 

 

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無観客試合

 

 ヤクルト対巨人。神宮球場。無観客で行われたプロ野球の試合だった。 客席にかけられたビニールのシートの青が溶け出すほどの、ひどい雨が降っていて、中止にしても良かったのではないかと思う。

 

 そうヤクルトの投手は大学生の女のコだった‥‥。アメリカ人の留学生だ。剛速球を弾き返された。ライナーを顔で受けて、たぶん鼻が折れてしまった。

 

 

 

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2020年3月28日

出発

 

 バスは出発する前に町中を一周した。別れを惜しむように。運転手は最後に町を見ておきたかったのだ。それから停留場に戻ってきて、僕を乗せた。

 

 本当にゆっくり、ゆっくりと動き出した。町から離れたくないんだな、と思った。僕にしても、戻ってくるつもりはなかった。それでも新しい出発は、少し怖かった。

 

 

 

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赤いタオル

 

 バスの中には、赤いタオルが大量に干してあった。全部僕のタオルだ。長い旅に出る。何年もバスに乗る。時間をかけて、大陸を横断する。乗客は僕1人だった。それで車内を、自分の部屋のように改造してしまった。赤く染めてしまった。

 

 

 

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下着職人

 

 僕は新婚で、毎日女房の下着を手づくりしていた。胸の型をとって、ピッタリのブラジャーをつくる。オーダーメイドだ。

 

 アツアツですね、と誰かが言った。羨ましい。本当にそう思いますか、と僕は冷静に答えた。

 

 

 

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オリジナル曲

 

 君の部屋で、君の新しいCDを聴いた。初めて聴く演奏、曲はラヴェルのように聴こえるが、たぶんオリジナルだろう。ヒール靴で階段を駆け下りていくような曲だった。君と、君の友達と、僕と、3人で部屋にいた。僕は、絶句するくらい感動して、涙するぐらい驚いたのだが、辛うじて平静を装っていた。どうしてそういうふうに装ったのかわからない。

 

 君は君の友達と、女同士の関係ない話をして盛り上がっている。

 

 

 

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2020年3月26日

10 / 11

 

 君にあのとき、あのタイミングで愛してると言っていたら何が起きていたのか知りたくて。僕はその答えを、近い未来に探すことにしたのである。

 

 10年という時間を11年かけてゆっくり、ゆっくりと進むタイムマシンに乗って。君から見れば、僕は少しのんびり動いているように、ややじれったく感じられただろう。

 

 

 

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寝間着姿

 

 僕が家の外に出て用を足していると、君と君の友達も手を洗うために出てきた。家は広くて、部屋も幾つもあるのに、水が流れるようになっている場所は、そこしかないのだ。僕は明かりを消して、ビデオを見ている途中だった。広い居間で寝転がって。そうするとそこに、君と君の友達が外出先から帰ってきたのだ。

 

 もう寝よう、と君は言った。寝間着の代わりにしているワンピースに着替えて。君の友達はその寝間着姿を、SNSにアップしよう、と言い出した。2人でふざけて、写真を撮り合っている。僕はビデオを終了しようとするのだけど、やり方がよくわからない。

 

 

 

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2020年3月23日

傍観する

 

 ノックの音がした。人の気配がした。ドアの外から「西成さんのお宅ですか?」と声がする。僕の名ではない。無視していると、声の主は強引にドアをこじ開けた。

 

 男が2人、土足で上がりこんできた。家の1階を物色し、あれこれ写真を撮っている。その様子を傍観する僕のことは、目に入らないようだ。2人には僕が見えないのかも知れない、と思った。

 

 

 

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白いネギ

 

 それは2階のベランダから逆さに伸びる木だった。1階の玄関の扉に、ネギに似た葉が垂れ下がっている。試しに、収穫した。どう見ても白ネギにしか見えない。

 

 食べられるかどうか、匂いを嗅いだ。

 

 

 

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2020年3月22日

手術

 

 ミニスカートの女子高生が、僕に礼を言った。明日は手術なの、励ましてくれてありがとう。そうだった、忘れてた。手術に失敗したら、このコは死ぬかも知れないのだ。しかしそのわりには、元気そうじゃないか。病室から抜け出して、散歩なんかして‥‥

 

 突然に僕は気づいて、

 

「励ましていたのは、僕じゃないよ、僕の双子の弟だよ」と言った。

 

「そう、なら励まされていたのも、私じゃないかも、私の双子の妹かも」

 

 

 

「妹さんの手術はうまくいった?」と僕は恐るおそる訊いた。

 

 

 

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知らない

 

 夜道を歩いていると、四角いセダンから男たちが降りてきて、壁や駐車している車に蹴りを入れ始めた。

 

 そして、去って行った。歩きつづけていると、へこんだ車から、弟の嫁が顔を出し、義兄さん、今のは何だったの、と訊いた。

 

 

 

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シャチが原因

 

 貨物を輸送する飛行機から飛び降りた3人(男、女、おじさん)は、パラシュートを開いて、海に浮かぶ汚れた雪片に着地した。

 

 雪はおじさんの足元だけを残して全部溶けてしまい、海に落ちた男女は、大きなシャチに変身した。

 

 おじさんはシャチにパラシュートの紐をかけ、水上スキーの要領で、海岸まで曳いてもらった。

 

 おじさんを海岸まで送り届けたシャチは、波打ち際でしばらく、ヒレでバシャバシャと通行人に水をかけたりして、遊んでいた。

 

 そんなわけで海岸通りを散歩していた僕は、びしょ濡れになってしまったのだ。

 

 

 

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2020年3月21日

飛行場のように広い駐車場

 

 朝、駐車場でストレッチをした。車で一夜を明かしたら、腰が痛くなってしまった。他の車からも続々と人が出てきて、見ていると、建物の中に向かうようだ。彼らの後について、僕も列に並んだ。

 

 

 

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2020年3月20日

シルエット

 

 エレベーターの、光る半透明の天井を見上げると、椅子があるのが気になった。僕はあの椅子が欲しかった。天井の向こうにある、あの椅子に座りたかった。

 

 オール・イズ・オールライト・ヒア、と君は英語で言う。ここではオールがオールライトなのだ、と。ヒアというのはどこなんだろう、と僕は思った。君の「今ここ」の、当たり前のすべてに僕はなりたかった。

 

 

 

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家具なし

 

 君の家で暮らすことになった。広い部屋が幾つもある。何も置いてないから広く見えるだけだと君は言った。確かに家具は何もなく、部屋にあるのは小さなピアノだけだった。ベッドもなくてどうやって暮らしているのだろうと思った。

 

 各部屋に掃除機をかけた。僕はダイソンの中に溜まった埃を水洗トイレに流そうとした。日本ではそうしている。それ以外の大きなゴミは、どこに捨てればいいのだろう。

 

 

 

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2020年3月19日

張りぼて

 

 見上げるような庭の巨木は、中身のない、張りぼてだった。ティッシュ・ペーパーの箱のように、薄く折り畳めてしまうのだ。畳んだ巨木に腰掛けて庭の緑を眺めていると、少し悲しい気持ちになった。庭は確かに広い庭だが、これも折り畳んでしまえば、手のひらサイズなのだ。

 

 

 

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2020年3月17日

霊柩車

 

 霊柩車を呼んだらタクシーがやって来た。

 

「これはタクシーですか?」と僕は訊いた。違う、霊柩車だと運転手は答えた。

 

「僕は霊柩車に乗りたかったのですが‥‥」はい、どうぞ。

 

「でもこれはタクシーですよね‥‥」いいえ、霊柩車です。

 

 結局僕は乗らずに歩いた。車は僕の行きたかった場所とは反対の方角に走り去った。

 

 

 

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2020年3月15日

競馬場にて

 

 競走馬の代わりに人間が走る競馬で、今日僕たち4人は、初めてのレースに出た。

 

 いちばん前を、ムキムキの筋肉マンが歩いた。

 

 走って追い抜きたかったけど、後ろの僕の気配を感じるたびに、彼は振り向いて威嚇のポーズを取るのだ。

 

 仕方なくマッチョマンの後ろを、ゆっくり歩いていった。観客からヤジが飛んだ。

 

 

 

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パルコ風のデパート

 

 そのパルコ風のデパートは改装中だった。入ったところで気づいて、すぐに引き返した。

 

 僕は手にカエルの絵が書かれたカードを持っていた。もう必要なかったけど、ゴミ箱が見つからなかった。

 

 

 

 店先にテーブルが何台か出ていた。お洒落なカフェのようだが、なぜか男性の1人客しかいなかった。スタイル・カウンシルみたいな男たちがみんな1人でコーヒーを飲んだり、本を読んだりパスタを食べたりしているのだ。

 

 

 

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テント

 

 テントの下では、難民たちが肩を寄せあっていた。日差しと足元の自然の大地を異常に怖れていて、影から出て来ようとしなかった。

 

 老人の妻は、疲れたと言い地べたに横になった。背の高い夫は、立ったままで眠ると言った。足に紙袋を巻き付けて、これで平気だと言うのだ。なんのつもりなのか、まるでわからなかった。

 

 

 

 僕は、出発しようとした。眼下に輝く湖が見えた。しかしアクセルを踏んでも、車は動かなかった。ブォーというエンジンの空回りする音が、大きくなったただけだった。

 

 坂道の途中でギアをニュートラルに入れ、ブレーキから足を離しても、車は落ちていかなかった。止まったままだった。

 

 

 

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拳銃

 

 顔のない2人と一緒に、僕は坂道を下りていた。

 

 傾斜を利用して突然筋トレを始める僕に、2人は呆れていた。

 

 ふと見ると、拳銃が落ちていた。拳銃ではなく、拳銃の形をした財布なのかも知れない。銃弾の代わりに、札束が入っているのだから。

 

 僕はそれを拾って、持って行くことにした。2人の後を追って、背中から引き金を引く真似をした。

 

 

 

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2020年3月14日

映画 映画館

 

 映画『ぼく』で「ぼく」を演じていたのは「かれ」だった。違うじゃないか、と思ったが誰も気づかないようだった。ぼくが映画の外側から見つめているのを、かれも知らないのだ。そのままにしておいた。そのままにして映画館を出た。外国のようだった。外には君の目と唇が待っていて、どうだったかと訊いた。

 

 その日はいつも以上に思ったことを口にできなかった。

 

 

 

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2020年3月13日

緑のホームレス

 

 信号は赤だったけど、車は来ないので渡った。そしたらホームレスに注意された。いけませんマダム、信号は赤ですよ。マダムじゃないので無視した。

 

 

 

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2020年3月12日

独裁者の書いた小説

 

 雑誌に独裁者のインタビューが掲載された。件の小説は夢を元にして書いたという。「‥‥ 若いころ3度だけ夢を見た。どれも非常に長い夢で、記憶に鮮明に焼き付いている。何十年経っても忘れない。人生で見た夢はそれで全部だ。それを記録した‥‥」

 

 そう、あの独裁者がファンタジー小説を書いて出版したときは、みんな驚いたものだ。世間一般に知られている冷酷非情なイメージとはまるで反対の物語だったので、もしかしたら僕たちは間違っていたのではないかと思ったのだ。

 

 

 

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女の子を泣かせる

 

 生まれたばかりの赤ん坊は、はっきりした意識を持って、僕を見つめていた。何分見ていても、いちども瞬きしなかった。僕は不安になった。その不安が、目から目に伝わり、やっと赤ん坊は泣いたのだった。

 

 

 

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2020年3月11日

論文

 

 友達が風呂場から出てきた。薄くなった髪を乾かし、アデランスを装着して、僕の隣に座った。そして言った。「この映画について、批判的な論文を書いているんだ」

 

 友達の家に遊びに行くと、彼はシャワーを浴びているところだ。待つ間僕は、玄関脇に置かれたモニターで、映画を観ることにした。懐かしの『トレインスポッティング』だ。

 

 

 

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肉の保存

 

 買い物を終えて、エレベーターで下に向かった。エレベーターの天井には、肉など、どうしても冷やしておく必要があるものを、保存するスペースがある。僕は食パンや果物を手に持って、肉は天井に置こうとするのだが、手間取ってしまった。1階に着いてしまい、また上昇しようとするエレベーター。閉まりかけた扉を足で止め、なんとか肉を天井に収めた。

 

 

 

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武士

 

 武士のような話し方をする2人だった。拙者は、とか、でござる、などと言う。袴のような、太いズボンを穿いている。刀の代わりに持っているのは、楽器だ。ケースに入った楽器だ。何かを追いかけて、武士のように走って行く。

 

 

 

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掃除機

 

 後ろの窓は小さく、僕の席からはあまり外が見えなかったけど、それでもそれは見えた。道を走っているのは、自動車ではなく掃除機だった。誰が操縦しているのだろう、と思った。交通ルールを守って走っているようには見えなかった。何度も、何度もぶつかりそうになった。僕の乗った車はその度に歩道に乗り上げ、ギリギリのところで掃除機をかわすのだった。

 

 

 

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2020年3月10日

パレード

 

 マーチング・バンドは解散の危機だ。行進には参加できない、と2人のメンバーが訴え出た。

 

 なら1人でも演る、とトランペットを持った男は言い、実際にそうした。

 

 2人は楽器を持ち、慌ててあとから追いかけた。賑やかなパレードは、広場を通り過ぎようとしていた。

 

 

 

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卒制

 

 窓に大きな写真の作品を貼っていたので、外の景色が見えなかった。カーテンを閉めると、その写真も見えなくなった。

 

 美大の卒業制作なんだ、と僕は答えた。訊く人もないのに。

 

 

 

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箱入り娘 自動掃除機

 

 また赤ん坊が生まれた。何人目だか忘れた。男女男女男、と順番に来て、次はやっぱり、女の子だ。生まれたばかりの娘を箱に入れて、抱きかかえ僕は運んだ。

 

 車に乗って、家に帰る。車は2ドアのクーペで、前席を倒して、乗り込むのに苦労した。後席は散らかっていた。一緒にいた息子は、母親と買い物をしてから戻ると言った。

 

 じゃあ誰が運転するんだ、と箱入り娘を抱えながら僕は訊いた。自動運転よ、と女房は答えた。ドアが勝手に閉まって、車は動き出した。

 

 石畳の路地を、何台もの掃除機が行き交っている。ぎりぎりのところですれ違った。ホースが擦ったような気がする。ふぅ。乱暴な運転だが、あれも全部自動運転なのだ。

 

 

 

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西の風

 

 昼間だが寝ようと思う。服のままベッドに入った。窓は開け放したままだった。春の暖かい風が吹いていた。レースのカーテンがたなびいている。少し風が強すぎるような気もする。

 

 そばで誰かが何か言ったような気がする。昼間から寝ることについて、大陸からの強い風について。そして黄砂について。でも僕は目を閉じていた。既にすでにすでに。

 

 

 

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2020年3月 8日

ストーカー X2

 

 僕のことを大好きな女の人が、僕に家を買って、ここに住みなさいと与えてくれた。その人は結婚していて子供もあったので、一緒に住むことはできなかったが、ときどき食事をつくって、家に持ってきてくれた。初めのうちは嬉しかったが、だんだんとウザくなってきて、電話にも出ないようになり、縁が切れた。「早く家を明け渡してください」。数年前にそんな手紙が届いたが、引っ越しの費用がまったくないので、ずっと無視している。

 

 

 

 よく知らないが誰かが死んだらしい。その誰かの遺産を相続する権利が、僕にはあるらしい。弁護士から手紙がきた。どもありがと。実に興味深い。手続きよろしく。返事を書いて送ったら、電話がくる。相続は辞退しろと。しつこいので着信拒否にしたら、裁判だという。よほど僕が好きなのだろう。金だけ渡して、さっさと消えて欲しい。

 

 

 

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寝癖

 

 ずっと寝癖のままだった。目を覚ますと列車だった。眠りに落ちたのは列車ではなかったはずだ。それはともかく、髪の寝癖は悪化していた。

 

 僕の赤いヘアブラシは洗面台に置いたまま。絡まった髪の毛がなくなって、新品のようになっている(ありがとう)。けどもったいなくて使えないのだ。

 

 

 

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2020年3月 7日

記念碑

 

J’ai l’impression qu’il y a tant de choses que je ne sais pas en toi, que je ne le saurai pas éternellement? ぐらいのことは言えるようになった記念に。

 

 

 

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細長い虫

 

 畳の上でシャワーを浴びた。畳の上には髪の毛のように細長い奇妙な虫がいる。刺すやつだ、と僕は思う。血を吸うやつだ。シャワーのお湯をかけてやっつけた。髪の毛はゆっくり、ゆっくりと夏のベランダの方に流れていった。

 

 

 

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天使

 

 どうしようもなくめちゃくちゃなステップを踏んで、ウェディングドレス姿の君と手を繋いで、僕たちは赤い階段を踊りながら下りていく。

 

 君は耳の後ろに、天使の羽を飾りつけている。本物なんて見たことがないのに、天使なんていないのに、僕はそれを本物の天使の羽だと思い込み、あぁ君は天使なのだと思い込む。

 

 

 

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2020年3月 6日

二重の網戸

 

 夜に、これから自転車で登校しなければならないのに、雨が降り出したようだ。どのくらいの降りなのか、確認しようと思って窓を開けた。ガラス戸を、それから網戸を。

 

 網戸がどうして二重になっているのか気になる。

 

 

 

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形見のチケット

 

「俺が死んだら、その搭乗券を持って、飛行機に乗ってくれ、俺の代わりに行ってくれ」と年上の友人は言った。そしてチケットを渡した。

 

「それ、まるで死にゆく人の最期のメッセージみたいですよ」と僕は言った。

 

「そう、だから言ってるじゃないか。俺は死ぬ、これは最期のメッセージなんだよ」と彼は当たり前のように答えた。

 

 僕は別のチケットを、自分のお金で買った。それでまだ彼が行きているうちに飛行機に乗った。行きたいところは別にあった。そこに行ったら帰って来れなくなることもわかっていた。死に別れるのと一緒だ。本当はどちらが先に死ぬのだろう?

 

 もらったチケットは形見にするつもりだった。

 

 

 

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2020年3月 5日

縫い物

 

 目を覚ますと君は隣で縫い物をしていた。

 

 

 

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なぞなぞ

 

 寝たときは5階だったが、起きると7階にいた。なぞなぞみたいな夢だ。寝るときは5階、起きると7階、それなぁに?

 

 

 

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2020年3月 3日

ガラス張りの建物

 

 異常に細長い飛行機。目立つ空席、果てしなくつづく通路‥‥。何千mも歩いて、やっと出口に辿り着いた。

 

 降りると、もう真夜中だった。接続する鉄道の駅からは、だいぶ離れてしまった。道路の真ん中に光るガラス張りの建物があり、中には制服の警官がいた。駅へはどちらの方向に行けばいいのか、訊いてみるつもりで足を向けた。

 

 

 

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2020年3月 2日

人形

 

 椅子に腰掛け休んでいると、僕は人形と間違えられた。女のコが僕を見て、「よくできてる」と感想を漏らした。

 

 老人とその孫がやってきたところで、僕は立ち上がった。「人形が動いた」と孫は驚いて言った。「そうだねぇ」と老人は言った。

 

 

 

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ガラス製のピッケル

 

 1352号室、とメモが残っている。美容室を経営している女友達の家に遊びに行った。彼女は自慢のコレクションを僕に見せてくれた。総ガラス製のピッケルだ。もちろん実用にはならないが、美しいことは間違いない。

 

 そこに着信があった。彼女の美容室でスタッフが1人欠勤した。僕は代わりをやってくれないかと頼まれた。無理だろう。しかし曖昧に返事をする。とにかく店に向かおう、ということになった。

 

 結局成り行きで、僕が客の女性の髪を切ることになった。手の届くところに小さな冷蔵庫があり、開けてみると中には乳酸菌飲料の小壜が3本入っている。ストロベリー味、濃厚バニラ味、とあと何かの味。

 

 どれがいいですか、と僕は客に訊いた。ヘアカットのお客様に1本サービスです。

 

 

 

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2020年3月 1日

ビートルズ

 

 若い女性ファンの黄色い歓声は、悲鳴のようにも聞こえた。僕たちも今となっては、逃げることしか考えてなかった。マネージャーが用意してくれた黒い車が、入口に付けてある。だが僕たちはビートルズの映画みたいに、追いかけてきた熱狂的ファンに囲まれていた。もう出発しなければならないのに、ホテルから出られそうになかった。

 

 

 

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蜂の巣

 

 バルコニーの青い日除けの下で食事をしようと考えたが、女房は涼しい屋内から出ようとしない。僕には家の中は涼しすぎるような気がする。涼しいを通り越して寒いくらいだ。窓を開けて外の空気を入れた方がいいだろう。

 

 しかし南側の窓は壊れて開かなかった。西の窓のすぐ外にはミツバチの巣があって危険だった。そして女房が冷蔵庫を開け閉めする度に、部屋の気温は下がっていくようだった。

 

 

 

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わざと遅らせた時計

 

 わざと遅らせた時計を腕に巻いて眠ると、その分だけ長く夢を見ていられるのだと聞き、8時間半遅らせた時計で試してみた。すると「まるで夢のようだ」という言葉を1回、「もううんざりだ」という言葉を10回聞く間だけ余計に、僕は夢の中に滞在することができた。

 

 いや聞いたのではない。僕が自分でそう言ったのだ。

 

 

 

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