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2020年5月 9日

4秒待つ                                                                  

 

 サイズの大きな制服を着て、制帽を目深に被ると、僕は男なのか女なのか、自分でもわからなくなる。若いのか年寄りなのか。僕は、電車の車掌をしていた。車内を進行方向に歩いて行くと、連結部分に差し掛かった。行き止まりのようにも見えるが、

 

「この緑のレバーを押し下げて、4秒待つのよ」と女性が教えてくれた。彼女は乗客でも乗務員でもない。ここで暮らしているホームレスなのだ。彼女にチップを渡すと、連結部が開き、僕は前の車両に移ることができた。大事なのはチップで、4秒待つ必要はなかった。

 

 

 

 列車の先頭まで行って、また引き返してきた。前を歩いていた老女が転んた。助け起こそうとすると、老女はお菓子の包みに身を変えた。気がつくと僕は、お菓子に向かって「大丈夫ですか?」と語りかけているのだった‥‥ 

 

「気をつかわないで頂戴」と老女は答えた。「そんなお菓子、‥‥ もう要らないわ」「そうですか‥‥」要らないなら、僕が貰ってもいいだろう。そのお菓子を食べながら、連結部まで戻った。 ホームレスへのいい土産ができた。

 

 

 

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