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2020年8月23日

頬が先か、空が先か                                                                  

 

 僕は双子の妹たちに、秘密のあだ名をつけていた。1人には「頬」と。頬を触った後に、空を見上げる癖があったからだ。もう1人には「空」と。こちらには空を見た後で頬に触る癖があった。

 

 本人たちには内緒にしていた。言ってしまうと、意識して順番を変えてくるおそれがあったから。

 

 年の離れた2人の兄がいて、彼らが父親代わりだった。本当の父親はどうなったのか知らない。母親もいたはずだが、家の中にはいなかった。

 

 広い家には使ってない部屋がたくさんあって、その部屋には母親の荷物や服が置いてあった‥‥

 

 僕と妹たちは、成人した後も同じ部屋で寝ていた。それぞれ別の部屋を貰っていたのだが、寝るときになると同じ寝室に集まった。妹たちがダブルベッドを使い、僕はソファで寝る。床で寝ることもあった。ベッドよりもそこが気持ち良かった。

 

 その日は起きると昼過ぎで、完全に寝過ごしてしまった。妹たちもさっき起きたばかりのはずだが、デカい顔をしていた。兄たちも食堂に集まっていて、ひさびさに全員集合だった。

 

 兄たちと双子がつくった極太のうどんが、既に食卓には用意されていた。食べながら双子の1人は、大型バイクの免許を取る話をしている。どうせもう1人も後から同じことをするはずだが、最初にやるのは「頬」だろうか、「空」なのかどっちだろう。

 

 後でシーツを干すときに訊いてみよう。庭の物干しのところに妹の1人を誘って、さりげなく同じ質問をする。頬を触るのが先か、空を見るのが先か、それで判断するのだ。長年一緒に暮らしているけれど、僕は未だに「頬」と「空」の見分けがつかない。‥‥それもまた妹たちには秘密だった。

 

 

 

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