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2020年9月16日

弱肉強食の海                                                                  

 

 僕の父親は海に棲む大きな魚だった。その魚の群れの中で僕は育った。仲間たちが僕を守ってくれてはいたけれど、泳ぎのできない僕は弱肉強食の海で常に死と隣り合わせだった。

 

 その日もいつものように海面をぷかぷか漂っていると、サメの姿が見えた。サメは人間の僕を食べようと狙っているのだ。僕は安全なバスタブの中に避難した。いつもの避難所だ。サメは父や仲間たちに向かって行った。

 

 父は蛇のようにサメを尾っぽの方から丸呑みにした。その口の先からサメの大きな頭が出たままだった。サメは逃げ出そうと暴れたが、僕たちの仲間のワニに頭部を齧られてしまった。

 

 さてサメの葬式は陸で行われることになった。僕が葬式に出る。バスタブの船に帆を張って1人で港を目指した。血なまぐさい大海原よさらばだ。戻るつもりはなかったが誰にもさよならは言わなかった。

 

 

 

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