干物
地べたに座っていた見知らぬ人が、僕にそれを渡した。干物だろうか。それは臍の緒だという。誰の? えっ、まさか。そのまさかだよ、あんたのさ。
食べてごらん。食えるわけないだろ? いや、あんたは食べる。勝手に決めるなよ。
食べた者に、永遠の沈黙をもたらすのさ。は? それって死ぬってことだろ? わかってないな、これは言葉を必要としない世界へ行く鍵だよ。
喋れなくなるってことか? あんた、本当に馬鹿だな。
喋れなくなるんじゃない、喋る必要がなくなるんだ。
感情、意志、欲望、そんなものを口に出す必要がなくなる。
僕は理解される、誰もが僕を受け入れる。
みんなが僕の前では黙る。
みんなは「沈黙」になった。僕が「理解」になった。そうして世界を満たした。
| 固定リンク | 0
コメント