見物客
君に手を引かれて、橋を渡った。河岸では花火が打ち上げられている。大勢の見物客がいた。見物客たちは、地べたに座って、夜空を見上げている。そしてなぜか、身動きひとつしなかった。時間が止まったようだったが、彼らの話し声は聞こえた。
動かない唇から、言葉たちは永遠に途切れない涎のように流れ出していた。
僕たちは彼らの間に腰を下ろした。そして口を動かして話をした。そんな僕たちを見て周囲の涎は増々多く流れた。「あの2人、不倫中なのよ」という涎も見えた。「このあとで、ホテルに行くのよ」
僕たちはその場を離れた。