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2024年1月30日

 ラジカセ                                                                  

 

 ベッドの足元に大きな窓があり、そこから熱帯の木々が見える。中途半端に文明化された原住民が住んでいる。ラジカセで日本のフォークソングを聴く半裸の人たちだ。いちおう電化はしているのだ。

 

 子供たちが窓から僕の部屋に入ってきて、ビールは要らないかと言う。ラジカセを抱えた大人たちもやってきて、日本語の歌詞の意味を教えてくれと僕に請う。僕は「政治的なメッセージだよ」と答えるに留めた。

 

 タイミングよくピィーッと汽笛が鳴った。轟音を立てて機関車が通り過ぎて行く。その音が彼らの不満の声を掻き消す。

 

 

 

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 青い錠剤                                                                  

 

 青い錠剤の瓶を渡された。僕は病気なのだと女は言う。

 

「僕は何の病気なの?」

 

「それは言えない。でも重い病気よ」

 

 青い錠剤は薬なのだ。

 

「これを飲めば治るの?」

 

「そう。でも気をつけて。飲み過ぎると死ぬから。少なすぎても死ぬ。病気が悪化して」

 

「何錠飲めばいいの?」

 

「それも教えられないわ。あなたが必要と思う分を飲みなさい」

 

 

 

 病気が悪化するなんて耐えられない。僕は迷わず全部一気に飲んだ。

 

「これで僕は死ねるの?」

 

 と訊いた。

 

 

 

 

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 フルフェースのヘルメット                                                                  

 

 その間中ずっと列車はトンネルの中を走っていた。窓際の席に座った君にとっては気の毒だった。もうすぐ目的地だった。君はトイレに行くと言い席を立った。

 

 君はトイレで着替えをしてきた。短パンをはいている。僕はその服と足を褒めた。真っ黒いフルフェースのヘルメットをかぶっていた。紫外線対策だと言った。僕が訊く前にそう答えた。列車はトンネルを抜けた。

 

 

 

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2024年1月29日

 動物                                                                  

 

 スーパーに、あのお年寄りが来ていた。よぼよぼの老人で、買い物中によく床で寝ている。小一時間寝て起きた後で、店員が呼ばれた。いちど横になってしまうと、自力では起き上がれないのである。何かの動物みたいだ。店員が二人掛かりで起こしている。

 

 

 

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 アニメオタク                                                                  

 

 制服を渡された。赤い半袖のシャツだ。それを着て仕事をするのだ。シャツの胸ポケには1万円札が何枚か入っていた。今日の給料だ。

 

 一緒に入った新人のバイトがいた。彼は赤い制服を着ていない。彼の制服のシャツには胸ポケットがなかった。ただ働きなんだろう。悲しいことだ。

 

 僕たちは改めて挨拶をした。よろしくお願いします。僕はアニメオタクです、と自己紹介した。それを聞くと彼は笑った。何が可笑しいのだろう。彼はゲーマーですと言った。

 

 

 

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2024年1月28日

 おじいちゃん                                                                  

 

 小さな男の子がいた。父が子供のときの姿になって夢に出てきたのだ。どうして僕はそんなことをしたのかわからない。男の子に「おじいちゃん」と声をかけた。何も反応がなくてよかった。彼の耳は聞こえないことを思い出した。でも僕がもういちど声をかけると、彼は走ってどこかに行ってしまった。

 

 

 

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2024年1月27日

 子供用                                                                  

 

 待ち合わせ場所に着いた。大学の構内である。友人はそこでビラ配りをしていた。彼がその仕事を終えるのを待っている。

 

 トイレに行った。そこには小さな子供しかいない。間違えて入ってしまったようだ。小便器がずいぶんと低い。大学に子供用のトイレがあるとは思わなかった。

 

 

 

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2024年1月26日

 二階建てのバス                                                                  

 

 二階建てのバスは五階建てのビルくらいの高さ。僕以外の乗客はみんな「上」に上がった。乗車すること自体をためらっていた僕に運転手が声をかけた。

 

「料金は無料」

 

 それでも僕は乗らなかった。運転手の真っ赤な制服。黒目がほとんどない瞳。何だか気味が悪い。15分後に出るはずの次のバスがもう来ていた。

 

 

 

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 バブル                                                                  

 

 海には一隻の船も浮かんでない。そんな広々とした海を見たのは初めてだった。僕は少し不安になる。港から船に乗ったはずだった。今日の正午に。船はどうしたんだろう。海はどうしてしまったんだろう。僕の顔の周りでバブルが弾けた。

 

 僕は浜辺にいた。浜辺の砂は極度に乾燥している。波が何度押し寄せても濡れることがない。日差しは強かったが少し寒かった。僕は君が脱いだ服を拾って着た。長袖のシャツが1枚。それは浜辺に脱ぎ捨ててあった。

 

 

 

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 泡                                                                   

 

 空気中に泡が生まれた。まるで水中のようだった。そこかしこに大きな泡がある。それがゆっくりと上空へ昇っていく。

 

 行く手にまた突然の泡が生まれた。僕は目を閉じて頭から泡に突っ込む。

 

 そこはまったくの無音の世界だった。目を瞑っていたのに光に目が眩んだ。僕は眩しくて耳を塞いだ。

 

 

 

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2024年1月25日

 パジャマ                                                                  

 

 春を抱きしめる。春の匂いを嗅ぐ。いつもとは違う匂いがする。少し不快な匂い。それは服の匂い。春はその服を脱ぐ。そしてパジャマに着替える。そして「寒い」と言う。

 

 

 

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 列車                                                                   

 

 特急列車に乗るチケットを買った。列車はもうホームに来ている。長い長い列車だ。

 

 僕と君は乗車せず、ずっとホームで話をしている。

 

 手に持った荷物が重いので、足元に置いた。すると人がやってきて、その荷物を盗った。でも僕たちは気にしない。発車の時刻が過ぎた。

 

 泥棒は列車に乗り込み、列車は出発した。僕たちはまだ立ち話をつづけている。ホームは、列車に乗らなかったカップルで溢れている。

 

 

 

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2024年1月23日

 蝸牛                                                                  

 手品師が使うようなシルクハットを背負ったカタツムリが歩いていた。

 

Ka

 

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2024年1月22日

 旗                                                                  

 

 上空を飛ぶ旅客機の機首に一角獣のような竿が生えている。竿には旗が掲げられていて、それは飛行機よりも大きな旗だ。不思議なことに旗は風の流れに逆らうような形ではためいている。周囲に子供たちが集まってきた。

 

 子供たちは飛行機に掲げられているのと同じ色の旗を片手に持ち、空いた方の手を空に向って振っている。

 

 

 

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2024年1月21日

 1円玉                                                                  

 

 ボウリングの球が重くて持てない僕に渡されたのは1円玉だった。それを虚心に転がしていると野球に誘われた。僕はピッチャーを任せられた。1円玉をフリスビーのように投げる。

 

 

 

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2024年1月20日

 ウサギとカメ                                                                  

 

 その女のコ、自動車に撥ねられた女のコは、僕の目の前で撥ねられたんだった。びっくりした。ショッキングである。心臓に悪い。できれば見なかったことにしたかった。記憶から消してしまいたかったけれど、そういうわけにもいかない。

 

 僕は彼女の魂をおぶって、病院まで歩くことにした。ところがそれは重かった。体より魂の方が重い人はいるのだ。圧し潰されそうになりながら、四つん這いになって歩く僕を見て。立派だと褒めてほしい。彼女の体を乗せた救急車が、僕を追い越して行く。

 

 

 

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2024年1月19日

 もっとも奇妙な月                                                                  

 

 その人から教わった。4月はもっとも奇妙な月だと。

 

「残酷ではなくて、奇妙なんですね?」

 

「なぜ残酷だと思うの?」

 

「有名な詩があるじゃないですか」と言いかけたところで

 

「これを丸めてちょうだい」

 

 渡されたのは女の下着だった。

 

「さっきまで私がはいてたものよ。嬉しい?」

 

「丸めるって‥‥?」

 

「クルクルと」

 

「は」

 

 僕は言われたとおりにした。

 

「どう、奇妙でしょ? それとも残酷?」

 

「え〜と、難しいです」

 

「嘘、簡単なはずよ」

 

「いや、作業そのものは簡単です」

 

「それならもっとお願い♡」

 

「クルクルと‥‥」

 

「クルクルと」

 

 たしかに奇妙だった。その女の人は下着を何百枚も重ねてはいていた。

 

 

 

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 人差し指                                                                  

 

 駅まで歩いた、わざとゆっくり(わざと遅刻するつもりで)。

 

 同じ学校の制服を着た人が何人かいた。みんな知らない顔だった。その内の1人が駅の手前で道を逸れた。電車には乗らず、歩くつもりなんだろう。

 

 迷わず彼の後を追った(自分の遅刻を確実なものにするために)。

 

 ついて行った(そうすると誰もいない工場の中だった‥‥)。

 

 

 

 ガラス張りの天井を通して空の様子が見えた。

 

 急に人差し指を突き出す手の形をした黒い雲が出てきて、西を差した。目を向ける。

 

 晴れた西の空から雨が落ちてくる。黒雲は光を発する(すごい‥‥)。

 

 僕は持っていた一眼レフを取り出し写真を撮る。しかしカメラには28mmのレンズしかついていない(おまけにフィルムが数枚しか残ってない‥‥)。

 

 

 

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2024年1月17日

 ガンタンク                                                                  

 

 ガンキャノンがノコギリでザクを切っていた。ザクは堅くてなかなか切れなかった。そこにガンタンクがやって来てこう言った。

 

「咳をしても1人‥‥」

 

 ガンキャノンは大砲からゴホゴホと火を吐いてザクを燃やし始めた。

 

 

 

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2024年1月16日

 黒こげ                                                                  

 

 彼女たちが何ていう名前なのか知らなかった。あだ名は知っていた。「ジェイ」と「ヒロ」っていうんだった。もう1人あだ名がないコがいて、そのコのことは結局何もわからなかった。目立たない感じのコだった。

 

 おそらく10代だった。彼女たち3人と僕は自転車で町を走っていた。そのあだ名のないコは自転車を持ってなくて、ヒロの後ろに乗っていた。

 

 すると彼女がその子供たちを見つけたんだった。子供たちが直立不動の姿勢で夕日を見ているのを。長く見つめすぎたせいで子供たちの眼は焼き切れていた‥‥

 

 ジェイとヒロは気味の悪い子供たちに近づき、恐る恐る訊ねた。「大丈夫なの?」「いったいどうしちゃったのよ?」

 

 あだ名のないコはそんなことはしなかった。優しく話しかけたりはしなかったってこと。彼女は子供たちの焼け焦げた眼にいきなり直接手を触れ、こちらを振り向き、何か叫んだ。それはそれは大きな声で。でも何て言ってるのか。僕の耳には全然聞こえなかった。

 

 

 

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2024年1月15日

 将棋室                                                                  

 

 鉄道の駅の上がマンションだった。これは便利だなと思っていると、住人が下りてきた。シャワーのお湯が出ないと苦情を言っている。駅員がマンションの管理人を兼ねているのだ。

 

 ガラス張りの部屋の前を通り過ぎた。おそらくマンションの施設だろう。図書室のようだが、将棋を指している男たちが何組もいる。マンションの住人が、非番の運転士たちを相手に将棋を指しているのだ。

 

 

 

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 ミニトマトのヘタ                                                                  

 

 子猫が部屋に入ってきた。餌をあげようかと言うと、窓の外にいた母猫が言った。「私の娘を誘惑するつもりかい?」

 

「みすぼらしいニンゲンの分際で‥‥」

 

 聞こえないふりをして僕は冷蔵庫を開けた。そこにはミニトマトのヘタが大量に保存してある。子猫と母親のところに持っていった。「これを食べるといいよ」

 

「何だいこれ? 私たちネコ族を馬鹿にしてるのかい?」

 

「1年かかって溜めたんだ。全部あげるよ」

 

 

 

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 飛行機の私の席                                                                  

 

 飛行機の私の席に男の人が座っていた。トランプ大統領によく似た馬鹿そうな人だった。「そこ、私の席なんですが‥‥」と声をかけると「え、なに、俺にカマ掘ってほしいって言うの? はははは」と機内中に響き渡る大声で返された。

 

 トランプ氏は機外に叩き出された。その後で私を気の毒に思った若いCAさんが、私をビジネスにアップグレードしてくれた。でも私は女だった。だから気にしてないのと言うと、彼女は何かおもしろい冗談を聞いたかのように笑い、あなたは何もわかってないのねと言った。

 

 

 

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2024年1月14日

 標本                                                                   

 

 学生たちが立てこもっている教室に軍の兵士と踏み込んだが誰もいない。そこはテレビドラマに出てくるようなステレオタイプの理科室で、お約束の人体模型やホルマリン漬けの標本があった。

 

 兵士が指差す標本の壜に僕は近づいた。それは人間の標本だった。立てこもっていた学生の1人だ。壜を割って中身を取り出し兵士には「逮捕しろ」と命じる。

 

「逮捕って‥‥これ『標本』ですよ‥‥」

 

 教室の隅にはアラビアンナイトに出てくるような壷がたくさんあった。きっと中に学生たちが隠れているに違いない。案の定だ。僕は壷の1つに手を突っ込み、学生のヌルヌルする体を掴んで外に引っ張りだした。

 

 

 

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2024年1月13日

 少年の僕                                                                  

 

 少年の僕は白いワンピースを着て眠っている。隣に女が同じ服を着て寝ている。

 

 なんで女の子の服を着せられているのだろうと不思議に思いながら、先に目を覚ましたのは僕だ。

 

 隣で寝ている女の人を見る。彼女は僕の母親ではない。

 

 ひどい寝汗をかいている。何度も寝返りをうつ。

 

 やがて彼女は目を覚ます。起き上がり、汗で濡れたワンピースを脱ぐ。下着はつけていなかった。

 

 僕をじろりと睨む。

 

 彼女は断りもなく僕の服を脱がせる。小さな下着も剥ぎ取った。そしてそれらを身につけた。

 

 すると大人だと思っていた彼女の体は縮んで人形のようになった。実際、人形だった。服を全部着てしまうと、彼女は動かなくなった。

 

 

 

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 更衣室                                                                  

 

 パーティー会場へ向うリムジンの僕の隣に、ジャージ姿の少女たちが乗りこんできた。

 

 運転者の隣(助手席)にもスーツを着た大人の女性が座った。少女たちの引率の先生か、それとも母親だろうか。

 

 少女たちは僕の目の前でドレスに着替え始めた。

 

 ここは移動式の更衣室じゃないぞ、という建前の、憮然とした表情を保ちながら、僕は本音の部分でラッキースケベを満喫した。

 

 

 

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 講話                                                                  

 

 体育館で、講話があった。前の方にいた背の高い男性たちは、みんな起立して、その話を聞いていた。話の後で催される、コンサートを楽しみに、僕は来たのだ。やっと、講話は終った。

 

 男たちが着席すると同時に、アバの「ダンシング・クイーン」がかかった。後ろの方に座っていた女のコたちは、ステージに上がり、踊り出した。男たちは座ったまま、その様子を見ていた。

 

 

 

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2024年1月12日

 開かない                                                                  

 

 姿見を抱えて電車に乗った。その鏡を棚の上に。電車は50mくらい動いてまた停止した。駅だった。

 

 ホームにはたくさんの人がいた。並んで電車が来るのを待っていた。だが電車の扉はなかなか開かない。10分、20分と時が過ぎた。まだ開かない。

 

 

 

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2024年1月11日

 ロッカーの鍵                                                                  

 

 駅で僕は裸だった。みんな暖かそうな服を着ていたが、寒くはなかった。手に小さな鍵を握りしめていた。ロッカーの鍵だった。僕の服はその中にある。

 

 走った。股間を片手で隠しながら。もう一方の手には鍵。誰かの声がした。「隠すことはないじゃないか」「何をだい? 鍵を?」

 

「そうさ、鍵だよ」誰もお前のキンタマなんて見ない。

 

 ロッカーに到着。声の主が待ってた。「漏れそうだぜよ」持っていた鍵で僕がロッカーを開けると、彼はその中に小便をした。

 

 

 

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 ストリッパー                                                                  

 

 ユニクロで服を買うと、1ヶ月後にプレゼントがもらえる。今日がその日だ。店員が家に来た。

 

 プレゼントを持ってきた店員は変わった腕時計をしていた。針がない。腕時計の中にはグレーのスーツを着た男女がいた。スーツを着たままで激しく踊っている。僕へのプレゼントも腕時計だ。金色の文字盤、茶色い革バンド。同じく針がない。その時計の中には、赤い服を着た男がいた。「この人もダンサーですか?」と店の人に僕は訊いた。「ストリッパーです」。彼は店の人と一緒に脱ぎ始めた。

 

 

 

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 黄色い小便                                                                  

 

 シーツは黄色だった。タオルも黄色だった。そしてホテルの部屋は狭かった。立て掛けた棺桶のようだ。立ったまま眠れるだろうか。入室をためらっていると、隣の棺桶から男が出てきた。彼は部屋の前の床に小便をした。ずいぶんと黄色い小便を。

 

 

 

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2024年1月10日

 健康診断                                                                  

 

 健康診断を受けた。A4サイズの問診票には名前を書く欄しかなかった。おそらくこれは心理テストなのだと思った。紙いっぱいに大きく名前を書くのが健康的でいいだろう。はみ出すくらいの勢いで名前を書く。余白には自分の似顔絵(福笑いを意識してわざと崩した笑顔、あざといまでに完璧だ)。

 

 富士山と鷹と茄子のイラストも書いた。これで申し分なく健康と判定されるだろう。

 

 

 

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 漫画の吹き出し                                                                  

 

 その場所は目で見るより先に感じでわかるのだ。ここがそうなんだなと。僕の独り言は漫画の吹き出しのように空中に浮き、君はそれを見て訊いた。なんて読むの? この日本語‥‥

 

 でも読めなくてもちゃんと意味はわかってる。僕たちはやっと着いたのだ。テレビのワイドショーの時間だった。その黄色い蝶ネクタイの司会者が僕の体の中に入ってきて‥‥勝手に喋り出す‥‥

 

 

 

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2024年1月 9日

 有力者たち                                                                 

 

 地元の有力者たちのテーブルに豪華な食事が運ばれてきた。彼らより1時間も前に注文した僕たちの料理はまだ来ない。

 

 僕たちが有力者たちのところへ「挨拶」に行くと、「君らは何を歌いに来たのか」と有力者の1人は訊いた。

 

「歌いに来たんじゃありません」

 

「じゃあ帰れ」

 

「わかりました」

 

 有力者たちはイタリア語の歌を合唱し始める。

 

 僕たちは元の席に戻るのに飛行機を使った‥‥

 

 1時間未満のフライトで機内食はなかったが、意外にも地元の有力者たちは僕たちの座席をビジネスクラスにアップグレードしてくれていた。

 

 

 

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 ミニスカート                                                                  

 

 椅子から10mほど離れた位置にテーブルがあった。その向こう、10m先にも椅子があり、君は座った。

 

 カフェだ。遠距離恋愛の。

 

 注文した飲み物が来た。中間地点にあるテーブルに置かれた飲み物を取りに立ち上がった。

 

 君は滅多に穿かないミニスカートを穿いている。もう僕たちは座らず、テーブルの脇に立ったまま話をした。

 

 

 

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2024年1月 6日

 雑巾                                                                  

 

 殺人をした。完全犯罪なので捕まることはない。壁に付着した血を雑巾で拭いた。拭かなくてもよかったのだが。ここは僕の部屋ではないのだし。いらぬことをしてしまった。おばあちゃんの形見の雑巾が汚れてしまったではないか。

 

 テレビを点けた。ワイドショーの時間だった‥‥

 

 

 

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 オーディション                                                                  

 

 駅まで行ったけど、また家に帰ってきた。今は6時。オーディションは8時からだ。7時過ぎに家を出ればいいだろう。

 

『水』という劇だった。僕は水の役に応募した。面接では作品について何か意見を求められるだろうか。意見を述べていいのだろうか。

 

「この建物のどこかに、誰も入れない部屋があるよ」と面接官は言った。

 

「そうですか‥‥」

 

「その部屋の中に、すごくいいものがあるんだ」

 

「う〜ん、でも誰も入れないんですよね?」

 

 面接官は僕の言葉を無視してつづけた。

 

「いいものって何だと思う? 駅だ」

 

「えっ、駅?」

 

「その駅に、どこにでも行ける列車が来るんだよ」

 

「でも、誰も行けないんでしょう? その駅には」

 

 

「なぁ、君はそんなに列車に乗りたくないのかい?」

 

 

 

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2024年1月 4日

 混雑した列車                                                                  

 

 満員の特急列車の中で座る席を探してさまよっていると(指定席を買えばよかった)、背中から声をかけられた。僕は振り向いたが、背後には誰もいなかった。車内はガラガラ、座る席はいくらでもあった。

 

 僕はもういちど前を向いた。そこはやはり年末の混雑した列車だった。

 

 

 

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 AKIRA                                                                  

 

 玄関のドアを開けて中に入った。細長い廊下がまっすぐにつづいていた。廊下の脇には棚があった。ごちゃごちゃといろいろなものが置いてある。古いレコードや本である。

 

 話にはそこでよくわからない飛躍があって、僕は着ていたものを全部脱ぐ。驚いたことに僕の体は女だった。ドアにノックがあった。混乱していた僕は居留守を使うことにしたが、訪問者は鍵を開けて中に入ってきた。若い男で、彼がこの部屋に住んでいるのだ。

 

 彼は僕の体をちらっと見たが、何も言わない。これを買ってきたよと、かばんから古いレコードを取り出した。ターンテーブルはあるの? と僕は訊いた。ないよ、と彼は答えた。

 

 

 

「『AKIRA』って読んだことある?」「貸してあげようか?」僕たちはそんな会話をした。フランス語で。

 

 

 

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 ライン                                                                  

 

 新幹線に乗った。指定席の中にぽつん、ぽつんと自由席はあった。それを繋げていくと文字になることがわかった。1号車にはアルファベットのLが、2号車にはIが。自由席で書かれた言葉は LINE なのかも知れない。

 

 

 

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 ツマミ                                                                  

 

 座席にはツマミがあった。「このツマミを回してはいけません」と注意書きがあったので回した。とくに何も起こらない。ツマミは消えていた。

 

 ふっと予感がして財布を見た。あまりいい予感ではない。財布の中には千円札が6枚あったはずだ。しかしそれは1枚の六千円札になっていた。

 

 

 

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2024年1月 2日

 白い雨                                                                  

 

 白い雨が降っている、と言うと笑われた。それは「雪」だ。

 

 君が眠っている間こっそり家を抜け出した。朝までには帰るつもりで。裸足で町をうろついた。

 

 ホームレスが眠っているのを見た。彼は老人だった。何年も剃ってないヒゲが白かった。それも雪なのか。

 

 そう言うと君はやっぱり笑った。でも全部本当にあったことだ。

 

 

 

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 空飛び                                                                    

 

「でもあなたは空を飛んできたじゃない」と彼女は言う。

 

「それは、僕が空に飛ばされたからだよ」と僕は答える。

 

 僕の体重はとても軽いのだ、よく風に吹き飛ばされる。

 

 しかし彼女は僕を疑っている。

 

 もう僕の目を見ない。長い髪を手でいじっている。また風が吹く。

 

 

 

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 引き出し                                                                  

 

 20歳も年下の双子の妹たちが、引き出しを開け母親の金を盗んでいる。僕の目の前でそれを堂々とやる。妹たちの目には、僕は見えてないのだ。

 

 僕は安心して、彼女たちの前で服を脱ぎ、小便をしてから、風呂に入った。

 

 しばらくすると、母親が帰ってきた。母もまた、10代の小娘のような姿をしていた。風呂の扉を開け見ていると、彼女もまた、別の引き出しを開け、金を盗った。

 

 

 

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