銭湯
バス停の横に、銭湯があった。バスを待つ間、風呂に入ろうと思った。僕の持ち物は、傘1つだった。今は、雨は降ってない。服を脱いで、ロッカーに入れた。傘は入らなかったので、持ったまま風呂に入った。
あぁ‥‥、しまった。次のバスは、何時だったか、時刻表を見るのを忘れた。僕は風呂を出て、裸のまま、バス停に戻った。体を隠すのには、タオルでなく、傘を使った。
バス停の横に、銭湯があった。バスを待つ間、風呂に入ろうと思った。僕の持ち物は、傘1つだった。今は、雨は降ってない。服を脱いで、ロッカーに入れた。傘は入らなかったので、持ったまま風呂に入った。
あぁ‥‥、しまった。次のバスは、何時だったか、時刻表を見るのを忘れた。僕は風呂を出て、裸のまま、バス停に戻った。体を隠すのには、タオルでなく、傘を使った。
映画の中で、名前が呼ばれた。席に座って、鑑賞していた男性が、「はい」と返事して、立ち上がった。
また、違う名前が呼ばれた。1人、立ち上がった。次々に名前は呼ばれ、全員が立ち上がった。
そうすると、前で立っている人が邪魔で、スクリーンが、見えなくなった。早く、僕の名前も呼ばれないかな、と思った。
泥の中を歩いていた。だが僕は汚れなかった。後ろからトラックが来て、泥を跳ねて行った。誰もが泥だらけになったが、僕の服はむしろ前よりも白くなった。
橋をつくろう、と言った。泥の海に橋を架けよう。僕は泥を捏ねて、橋をつくった。さっきのトラックが、その橋を渡って行った。
魚の呪いだ。中国人は非難された。オリンピックの観客は3人だけ。
下りのエスカレーターに乗っている。もう24時間以上乗っているが、まだ下に着かない。後ろにいる女の人たちは、ずっとハワイの話をしている。24時間ずっとだ。振り返って顔を見てやろうか。何かがおかしいとは思わないのだろうか。
205号室の前に立った。合鍵はもらっていた。自由に入っていいのだ。しかし僕は長い間ドアの前でためらっていた。
すると扉は開いた。若い娘たちがぞろぞろと出てきた。ばあさんの孫たちだろう。クラシックのコンサートに行くのだと言っている。
娘たちの母親らしき女性が、僕を招き入れた。お小遣いだと言って三万円を渡そうとする。
一万円札が2枚、残りの一万円は小銭で渡そうとする。ばあさんの姿は見えない。
椅子は小さすぎて座れなかった。体の小さい現地の人に合わせたものなののだろう。僕たちは巨人だ。そのバス停でバスを降りるとき、狭い降車口を破壊してしまった。
バスは走り去った。最初猛スピードで。それからだんだんゆっくりになって、突然止まった。一緒にいた2人の友達は、左の道へ行った。僕はバスがもういちど動きだすまで、その場にいた。それから、友人たちの後を追って、大股で歩きだした。
コンサートホールを出た。君と2人。僕たちが最後だった。ホールの照明が消えた。小さなホールだったが、暗がりで突然大きくなったように見える。
僕たちは駐車場に向った。車を停めたはずのところに、テーブルと椅子が「駐車」していた。向かい合って座る。インタビューが始まった。
‥‥牛乳について君は語っている。小さいころ牛乳が嫌いだった。しかしある工夫をしたら飲めるようになった。何をしたのか知りたい?
その工夫した牛乳を飲んでみたいよ。
君は試行錯誤の写真を見せてくれた。ピンク色の牛乳、青い牛乳、黒い牛乳。
何か一言発言するたびに、僕の顔は大きくなった。風船のように、膨らんだ。喋らないように気をつけた。しかし喋らなくてはならない場面もあった。決して広くはない会議室の中だった。僕の顔はみんなを圧迫した。
クイズは早押しだった。イントロを聞いて曲を当てる。全部日本の歌謡曲とポップスだった。僕たちは全問正解して優勝した。他の出場者たちは1問も答えられなかった。
クイズ番組に回答者として出演した。若い韓国人の友達とチームを組んだ。これは出来レースだと彼は漏らした。事前に回答を教えてもらっているやつらがいる。そいつらが必ず勝つ。そうなのかなと僕は思う。
宝くじで1兆円ほど当たった少女がいた。彼女は全額を出身国の政府に寄付した。貧しいアフリカの国だった。彼女は祖国の英雄になった。そのニュースをテレビで見た。
僕も実は1億円が当たったのだ。その知らせを聞いて死んだ父が生き返った。父はとりあえず5千万円をドル建てで預金しておけとアドバイスしてきた。そして残りの5千万円をおれによこせ。おれが10倍にしてやると言った。
お手伝いロボットに入力した。「食事」「入浴」「洗濯」の順でボタンを押すと、ロボットは食パンをトーストしてくれた。それが夕食だった。僕が期待していた食事ではなかった。
「お風呂が沸きました」とロボットが言った。僕が服を着たまま入ると、ロボットは褒めた。「いいアイディアですね」「そうかい」
荒地にピクニックに行く。弁当を広げる。プラスチックのスプーンを持って来た人がいる。私服の警官が、それを見つける。
「このプラスチックは、あと80億年は分解しない」彼は言う。
「そのへんに捨てちゃだめだぞ。必ず持ち帰るんだ」
帰り僕たちはコンビニに寄る。プラスチックのスプーンを全部返す。たくさんもらい過ぎた。
なぜか女の子の格好をさせられて、小学生のバレリーナたちと一緒に、白鳥の湖を踊ることになった。
舞台に出る直前まで、僕はリュックを背負っていた。大きなリュックだ。「何が入っているの?」と小学生の保護者たちは訊いた。「何も入ってません」
僕がリュックを下ろすと、保護者たちが集まってきて、中を覗き込む。
バレエは、無事に終わった。舞台裏に戻って、リュックを見ると、男物の服が入っている。「さぁ、早く着替えなさい」と保護者たちは言う。
王国は歩いて行ける距離にあった。
僕は王国にその女を連れていった。女は逃げることもできたはずだった。しかし黙って僕についてきた。そして僕の5番目の妻になることを承諾した。
彼女は他の妻たちよりも10歳以上年上だった。そして10kg以上太っていた。地下牢のような新居に、僕は彼女と一緒に入った。ハーレムの4人の妻たちが、僕たちを見に来た。「一緒に入るかい?」と僕は檻の外の妻たちに訊いた。
「見てるだけでいいわ」と妻たちは口々に答えた。
午後3時、妹と母が僕の部屋の掃除にやってくる。彼女たちが床を雑巾掛けしている間、僕は下に下りて、用意されていたご飯を食べる。
頃合いを見て部屋に戻る。妹たちはいない。部屋の床には綺麗に畳まれた服が置いてある。窓の外には洗濯物が干してある。どれも僕の服ではない。もう乾いたようだ。僕はそれを取り込み、畳んで床に置く。そしてしばらく何もせずに待つ。でも何も起こらない。
窓の外に貧しい身なりの母娘が立って食事する僕を見ている。
食べ終わり歯を磨きに洗面所へ行くとそこにも貧しい娘は立っている。洗面台の中に頭を突っ込み、口を大きく開けてこちらを見上げた。僕が口を濯いだ水を飲むつもりなのだ。
彼女の母親が見ている前で、僕は先程の食事で歯に詰まった食べカスと共に、娘の口の中に吐き出す。
七回表の攻撃の前、円陣を組んだ。ふつうの、丸い円陣だ。その回の裏、相手チームも円陣を組んだ。四角い円陣だった。そんなの見たことがない。
その次の回の裏、相手チームはまた円陣を組んだ。今度は星型の円陣だった。観客がざわめいた。
連中の言うとおりだった。
地球は平らだった。全人類が端っこから落ちそうになっている。
僕は双子の妹の片割れを見つけた。引っ張り上げる。
彼女の夫もついでに助けた。もう1人の妹を探したが見つからない。
おまえの分身はどこにいるんだ? と訊いたが妹は何のことかわからない様子。
わざと僕の目の前でタバコを吸い始めた。彼女は怒っているんだ。僕を怒らせようとしているんだ。
起きているときに見た、怖いぐらいはっきりとした夢だった。幻覚を見ているように感じられた。僕は飛行機に乗っていたのだが、突然その幻覚の中に落ちていった。君がエッセイ本を出版したのだ。その本の中に僕のことが書いてある。「彼は私にとっていちばん大切な友人だった」と。
「彼が生きている間に、そのことを充分に伝えられなかった」
どうやら僕は死んだらしい。いや死んだのは間違いない。もう僕は飛行機には乗ってなかった。明るい部屋でその本を読んでいる。いちど死んで生き返ったのだ。君の本を読む間だけ、生き返ったのだ。読み終えればまた死んでしまうのだろう。死にたくない。いやだ。僕はできるだけゆっくりとその本を読もうとした。本は韓国語で書かれていた。よかった、韓国語なんて死んでいる間に忘れてしまった。死にたくない。
「私を忘れてしまったの?」と韓国語は言った。「それをよかったなんて思うの?」
気づくと飛行機の中だった。僕は韓国の映画を観ていた。とても感動的な映画で僕は泣いていた。映画には日本語の字幕がついていた。でもそれを読まなくても僕には韓国語がわかった。
その女性はエレプと名乗った。本名エレン・プなんとか。エレンと呼ぶことにする。
僕は訪ねていった。エレンのブースを。彼女は自分で書いた小説をそこで売っていた。「立ち読みしていい?」と僕は訊いた。
「立ち読みって言い方、あまり好きじゃなかったな‥‥ 」
エレンはいつも過去形で話した。私はエレプと呼ばれていたのよ。
彼女をエレプと呼ぶ人はなかった‥‥
僕の右半身と左半身は別の夢を見ていた。それぞれ夜の間別の場所に行ってきたのだ。朝になって2人は帰ってきた。僕にはよくわからない言葉でお互いにどこで何をしてきたのか報告しあっている。「わかるように話してくれよ」と僕は請うた。しかし彼らは僕を無視していた。顕在意識というものを完全に見下しているようだった。「あんたの見たという夢をときどき聞かせてもらっているよ」と彼らの1人は言う。「オレらにはちと暴力的すぎるんだな」
みんな「魔王がいる」と言った。そのとおり、さっきまではいた。でも今はもういない。
みんなは引き止めたけど僕は魔王がいた場所に歩いていく。そこは都会の一角だったが野生の動物がいた。
魔王がいなくなったので動物たちも戻ってきたのだ。
僕は動物たちに訊いてまわった。「魔王なんかいないよね?」答えはなかった。
大型のネコ科の肉食獣が僕を襲おうとした。そいつにも訊いた。「魔王なんかいないよね?」
「そうだね、いないね」とそいつは答えた。
喫茶店でコーヒーを注文したが出された飲み物は水だった。水の入ったコップが2つ。僕が座る席を探していると同じく水の入ったコップを2つ持った女と目が合った。
女は自分にコーヒーを出さなかった店に傷つけられたふりをしていた‥‥
店内にやけに細長いポスターが貼ってあった。小さい文字でびっしりと何か書いてある。僕は女と一緒に書いてある文章を読む。背の低い女は下から、僕はポスターの上の方から読んでいく。それが上から読んでも下から読んでもまったく同じ文章だと先に気づいたのは僕だった。
僕が赤い花を描きたいと言うとその白い花は血を流して自らを赤く染めた。逆だったかも知れない。白い花が突然血を流したりするので僕はそんな夢を見たのだ。
僕は赤い絵の具を持ってなかった。誰もその色の絵の具は持っていなかったので白い花の子供たちももう安心である。
その黒い帽子をかぶると、人間でもフクロウのように首を360度回すことができる。帽子は世界中で流行している。着用率は8割を超えている。僕はかぶってない。
下りのエスカレーターである。後ろに立った人が悪戯で僕にその帽子をかぶせる。そして僕の頭をつかんでクルクルと何回転もさせる。
昨日まであった店が、今日はなかった。すると何の店だったか、もう思い出せない。店のあった場所を通り過ぎて、振り返った。しかし、振り向いてはいけないのだった。
空気にまでモザイクがかけられている。モザイクをかけられた人たちが、お互いの中を出たり入ったりしていた。
大量の洗濯物が洗濯機の中で回っていた。これが本当に全部僕の洗濯物なのだろうか。白いシャツはまだ生きていたみたいで、洗濯槽から袖を出し僕に助けを求めた。手を伸ばすと、ゾンビになった他の洗濯物たちが僕を掴み、中に引きずり込もうとしてきた。
東大出身者専用の入口から入った。そこから入ったのは僕1人だった。中でその他の大学出身者と一緒になり、彼らとは出口も同じだった。何だったのかよくわからない。
帰りはみんなと同じところから入って、1人東大出身者専用口に向った。すると行きはいなかった職員が立っている。彼は「留学先はどこですか?」と質問してきた。
廊下にはステンレスの流し台があって温水が出た。そこで僕はポケットの中のものを洗った。それが何だったのかわからない。汚れは落ちたのか? タオルで拭いてまたポケットに戻した。
それから鏡を見た。美が映っていた。僕は美しかった。髪が長かった。目が黒かった。鏡に顔を近づけた。近づけば近づくほど僕は美しくなった。美しくないものは鏡から遠ざかっていった。
黄色い犬。ライオンのように黄色い、僕の大好きな犬。大きさもライオンくらい。「おんぶしてあげるよ」と言った。「僕はお前が好きだから」
「ボクは重いよ」と犬は答えた。
「平気だよ、お前が好きなんだ」
犬は僕の背中に乗って、ウンコをした。
「どうしてウンコするの?」
「ボクは重たいから、体重を軽くしようと思った」
「こんなちっちゃいウンコ1つじゃ、変わらないよ」
「もっとたくさんほしい?」
犬は次々にウンコをした。「もう充分かな?」
「これを全部食べてね、残しちゃだめだよ」と言った。
ホテルの部屋で寝ているところに清掃の人が入ってきて枕カバーを交換した。僕は目を覚まさなかった。
清掃の人がしたのは「あなたは夢を見ているんですからね」と言いながら枕カバーを交換することだけだった。足をくすぐられたような気もするがわからない。ゴミは残ったままだ。
扉が開いた。僕は降車した。背後で扉が閉まった瞬間、本を忘れたことに気づいた。本は座席の上にあった。
「焦ることないよ」と友達は言った。「また扉が開くのを待てばいいよ」
そのとおりだった。電車は出発せず、いつまでもホームに停まっている。僕は待った。
そこは原宿のピテカンだった。もうなくなったはずなのにまだあった。しかし僕の目の前で店の明かりは消えていった。また入れなかったのだ。
僕は尻ポケットの、お札でパンパンに膨れた財布に触れた。
物置小屋のようなプレハブが僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。木の机の引き出しに財布を入れ、床で眠った。
そうすると夢の中で僕はピテカンの前に戻っていた。
しかし同じことだった。今日の営業は終っていた。男性が1人残って店の掃除をしていた。「お金を払いましょう」と僕は声をかけた。「中に入れてください‥‥」
学校の教室のようなところだった。夜も遅く次々と明かりは消えていった。僕はお札でパンパンに膨れた財布を尻ポケットに入れ、廊下を歩いた。
物置小屋のような一室が僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。
木の机の引き出しに財布を入れ、また教室に戻った。
しかしもう授業は終っていた。男が1人残って教室の掃除をしていた。
「手伝いましょうか?」と僕は声をかけたが彼は首を横に振った。
大きな水色の封筒を持って銀行の窓口に並んでいる。封筒の中には白い紙が1枚入っている。何か書いてあるはずだが僕には白紙にしか見えない。
窓口の人がその紙を見る。裏にも何か書いてあるみたいでじっくりと時間をかけて読んでいる(僕には裏と表の区別もつかないのだが)。彼は「わかりました」と一言。僕に札束を渡した。
何もかもが石でできた部屋に大男が何人も泊まっていた。朝のシャワーを浴びながら歯を磨き柔軟体操をしている。部屋には扉がないので廊下から中の様子が見えた。僕は部屋の前をウロウロして男たちの様子を窺っている。早くチェックアウトしないかな。どうなってるのか部屋の中をじっくり見てみたい。
君は僕に言った。お揃いの刺青を入れよう。痛そうだから厭。痛くなんかないよ。
君はもう入れていた。私を見て。
これと同じ刺青を入れてきて。
僕は袖を捲った。二の腕に入れようかな。あなた、何言ってるの?
私と同じ場所に入れてくるのよ。
僕の隣にいる男性は業界の有名人だ。1つの仕事にいいねが2万個平均。僕をフォローしてくれていたが僕は無視していた。うどんを食べ終わって出て行く。立ち上がると天井に頭がつきそうなくらい背が高かった。驚異の座高の低さだ。
僕の注文していたうどんが来た。食べようとすると年配の女性が僕の向いに座った。彼女は仕事の依頼をしてきた。「記憶だけを頼りに○○の絵を描いていただけませんか?」
それは僕が昔していた仕事だった。今はもうしてない。
彼女はその業界にいた頃の僕をよく知っているようだった。
でも今の僕が何をしているのかは聞いてないのだろう。
僕は地下で、スペースを借りていた。「さて」といった。スペース「さて」
地下に下りる前に、いろんなチラシをもらった。音楽や、アートのイベントのチラシ。チラシを「さて」に持ち込んで‥‥
どうもしなかった。
「さて」には段ボール箱が届いていた。
中身は絵の具のこびりついたままのパレット。たくさんのパレットだ。
未来から来た男が少女に未来のニュースを語った。少女は黙って聞いていたがその内に泣き出した。涙が溢れ出る前に少女は逆立ちをした。少女の涙はオデコの上に流れた。
そこで少女は逆立ちをやめた。だが少女の流した涙は彼女の瞳には戻らず、空高く昇って、雲になった。黒雲は白く明るい雲になり、やがて空に溶けた。
僕はその俳優からの依頼で絵を描いた。彼が出演した映画の様々な場面を1枚の絵にしてほしいというものだ。描き上がった絵を見て彼は文句を言った。なんで女優たちとのラブシーンがないんだ? おれに嫉妬しているのか?
それはそうかも知れない、と僕は思った。彼とリムジンに乗っていた。リムジンにはコタツが設置してあった。すごくいい趣味だねと僕は褒める。絵は描き直すことも捨てることも可能だった。