ジェットコースター
寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。
「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」
そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。
寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。
「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」
そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。
台車に乗っていくことにした。制服を着た係員が押してくれる。僕は荷物のように運ばれていった。貨物用の巨大なエレベーターに乗って陸に上がった。
昨日の夢にも出てきた、とんがり帽子の少女が僕を待っていた。下着が見えるのも構わず地べたに座っている。そして聞いたことのない歌曲を口ずさんでいる。
「シューベルトとどっちが好き?」と訊いてくる、その少女が係員にチップを渡した。
占い師は80歳の老婆だ。僕は頭を垂れた。だがその御神託を聞くのには体全体を地面と水平にしなければならない。床には布団が敷いてあり、僕は身を横たえた。しかし「顔をシーツにつけてはならない」、ほんの少しだけ顔を上げなければならなかった。
1円玉が何枚か落ちているのはスルーした。しかし10円玉は無視できなかった。僕はそれを拾い、女の子に渡した。女の子は魔女のようなとんがり帽子をかぶっていて、裸足だ。女の子の手に10円玉を握らせた。だが女の子は足をまっすぐ伸ばして地べたに座ったまま、身動きしなかった。
僕はしばらく1人で待った。彼女は織田信長の手を引いてその先まで送っていった。彼女と僕は裸足だった。そこに着くまでに鋭く尖った石を何度も踏んだ。きっと足の裏は血だらけだろう。信長だけが草履を履いていた。しかし信長は裸だった。体には無数の赤い切り傷があった。
ゼリーを食べていると男の先輩が来て言った。「バラの世話をする時間だ」
僕はゼリーを急いで食べ先輩の後を追った。
庭には椿か牡丹のようにバラの花が落ちている‥‥
先輩は手に持った鋏を何もない空中にかざした。
すると空からバラの花が降ってきた。まるでヒョウのように。「本降りだ」と先輩は言った。僕は傘を先輩に差しかけた。
僕はベッドに寝ていた。病院のベッドだったが体調は全然悪くない。僕は健康である。
女のコが1人見舞い(?)に来ていた。彼女は僕の頬にキスして去って行った。
毎日目が覚めるとそんなことが起きた。
ベッドに寝ている〜また別の女のコがいる〜彼女は僕の頬にキスして去る。
だがついに事態は変化した。ベッドには僕ではなく女のコが寝ていた。病気で入院しているのだ。
僕は彼女の頬にキスしようとした。病院から去ろうとして。
多言語を喋れる女生徒が、先生の代わりに授業をした。いろんな国の言葉で、簡単な自己紹介の挨拶をする。彼女が日本語を喋れるのを聞いて、僕は驚いた。この教室で日本語ができるのは、僕1人だと思っていた。
「今の、日本語でしょ?」と、隣の席の、クラス1番の美少女が、僕に話しかけてきた。そのコに話しかけられたのが嬉しかった。教壇の女生徒の日本語の挨拶を、そのコに繰り返した。教壇の女生徒は笑っている。僕もニヤけてきた。「もういちど言って」と美少女はお願いしてきた。
休憩で立ち寄った食堂の中で僕は眠ってしまった。その間にバスは出てしまった。友人たちはどうして起こしてくれなかったのだろう。その時点では自分がわざと置き去りにされたことに気づかなかった。僕はイジメられていたのだった。
ポケットの中に映画の前売チケットがあった。この映画を観るためにバスに乗ったのだ。朝だった。食堂には誰もいない。僕は店を出て走った。全力疾走すればバスに追いつけるような気がしていた。何時間も前に出発したバスに。
その様子をカメラで撮影している人がいた。ドキュメンタリー映画をつくるのだという。フィルムには食堂で眠っている僕が映っていた。僕の体には布団が何枚もかけられる‥‥。いちばんの親友から電話があった。「置き去りにして悪かったな。でもいい映画が撮れると思ったんだよ」
「お前とは喋りたくない」と僕は言った。「今はエリカ様の声しか聞きたくない」
僕の服は僕の部屋にはなかった。隣の部屋にあった、そこには見知らぬ女が住んでいて、なかなか服を取りに行くことができなかった。
部屋に自分の服を取りに行くときには、いつも女の母親と一緒に行った。母親は茶色の大きな封筒を持って行く。
中身はわからない。中身なんかないのかも知れない。
その封筒を女が受け取ったのを見て、僕は部屋の中にある自分の服を探すのだ。
「たしかこのクローゼットの中に僕のお気に入りの革ジャンが架かっていたはずだけど?」
女はわざとらしく煙草に火を点ける。母娘から答えが返ってきたためしがない。
女の部屋は、いつも北と南の窓が開けっ放しだった。冬には煙草の火を消してしまうほどの強い北風が部屋を吹き抜けるのだ。
僕が浦島太郎のように亀を助けたと嘘をつきまくっていると竜宮城からお迎えが来た。「本当に助けたんだな」とみんなは言った。「嘘だと思っていたよ」
だが竜宮城の人たちは知っていたのだ。僕は半ば拉致された形だった。「許してください」と請う。「もう嘘はつきません、解放してください」
僕は例の箱を持たされて解放された。帰ったら必ずこの箱を開けろと言われて。開ければどうなるのかはわかってる。しかし開けなかったらもっとひどいことになるかも知れない。
広大な空港の中を走るバスにもう何時間も乗っている。僕は席には着かずに立ったままずっとスマホをいじっていた。席は空いていて運転手も乗客も座るように勧めたが僕は聞かなかった。
いくら広いとは言っても空港だしこんな何時間も乗っているとは思わなかったからだ。やっと到着した。
しかし僕の乗る飛行機の出発時刻はとうの昔に過ぎていた。だめもとでカウンターに行って払い戻しを受けられるか訊いてみようと思ったがその航空会社のカウンターは8階か9階にあるよとか抜かす案内所の人もいい加減だった。諦めた方がよかったのだろう。
足腰を鍛えるためいつものように僕はエスカレーターではなく階段を上った。そうすると振り出しに戻っていた。また僕は空港の中を走るバスの車内で1人立っていた。「着席なさってください」と運転手が言う韓国語が今度ははっきりと聞き取れ僕も大人しく従った。先はまだまだ長いのだ。
その絵に描かれていた鳥は動いた。
「目がおかしくなったのかと思った」と僕は言ったが、「本当に動いているのよ」と彼女が答えたので安心した。
鳥は絵の中から飛び出すと巨大な蚊になった。ドローンのように飛び回っていたがやがて僕の腕に止まった。
「これに刺されたらどうなるの?」と僕は不安になって訊いた‥‥
「血がなくなって死ぬよ」
「でも刺したりはしないんだよね?」
蚊は刺した。
「私、暗殺がしたいんだ」
彼女はそう答えた。
蚊は僕の血をちゅうちゅう吸っていたが、僕はまだ生きている。
彼女は怖がらせようとして「暗殺」と言っただけなのだ。
僕は持ち歩いていた鏡に、常に自分を映して見ていた。見ていないと僕は消えてしまうからだ。しかしふっと目を逸らしてしまった。僕は消えて、隣に若い男が現れた。それは若いころの僕だった。その隣には醜い老人がいた。老人は四つん這いになり、犬のように首にリードをつけられていた。
若いころの僕がそんなふうに老人を散歩させているのだとわかり、僕は僕を憎んだ。その老人と消えてしまった僕とは年は幾つも違わない。
僕の髪は、だんだん短くなっていった。せっかく伸ばした髪なのに。
それに気づいた友人の1人が、「そうか、死んだんだな」と言った。「死ぬと、髪は短くなっていくんだよ」
「爪もそうだ。切ってもないのに、短くなる。これ以上短くならないところまでいったら、そこで本当に死ぬ」
「まだ死にたくない」
「葬式をやってやる。成仏しろよ」
彼はそう言って、僕の頭をバリカンで刈った。ヒゲを剃られて、足の爪まで全部切られた。そこは床屋のような死体置き場で、大きな鏡があった。
目のない女がいた。彼女は僕を見つめていた。どうしてそんなことができるのだろう。僕は混乱したまま彼女に近づき、話しかけた。「えっと、1万ウォン貸してくれって言ったら驚くかな?」
「全然」と目のない女は答えた。
「えっと、僕は驚いているんだよ。えっと‥‥」
「何に?」
「えっと、それは言えない」よく見ると彼女には口もなかった。
「ムカつく」彼女はそう言って僕の首を締めた。
「ねぇ、まだ1万ウォン貸してほしい?」
「うん‥‥」
その答えを聞いて、彼女はさらにきつく、きつく僕の首を締めた。
海外で賞を獲った話題の映画を観るために、僕たちは並んだ。列は、映画館の外の、土手にまでできていた。そこに、有名な映画監督の、A氏の姿が見えた。「こんなところに‥‥」と僕は言った。独り言のつもりだったが、驚いたせいで、大声になってしまった。
「試写会に、招待してもらえなかったんですか?」僕は、声をかけた。「落ちぶれたもんでな」A氏は答えた。それで周囲の人々も、A氏に気づいたのだ。A氏は、彼らによって、土手の下に突き落とされた。
この学校の女生徒には全員片足がない。男子生徒は僕しかいなかった。先生は耳の聞こえない年寄りのゾウガメだ。
今日先生が持ってきたカゴの底に、魚が一匹残っていた。切り身の魚だったが、ピチピチ跳ねている。僕はそれを先生に見せようと思ったが、ゾウガメ先生はもういなかった。授業は終ったのだ。
女生徒はフラミンゴのように立ち、僕の前で義足を外し、足の付け根をボリボリ掻く。学校にはその女生徒以外、誰も残ってなかった。
そんな時間だっけ、と僕は教室の時計を見た。
窓辺に炊飯器があった。ご飯が炊きあがっている。僕はそれを手でつかみ取り、窓の下の貧しい人たちに投げてやる。彼らは僕に気づかない。窓をそっと閉める。外は雨だ。
昼食の時間だった。僕は1人で食べるつもりだったが、裸の名前を知らない少年が僕の隣に座った。その子には体毛が全然なく、肌の色も真っ白だった。そのせいで年齢不詳だった。
知られてないことだが、白黒のフィルムには音声が録音できるのだ。36枚撮りのフィルムに、およそ1時間の録音ができる。撮り終えたフィルムを、手動で、1時間かけて、ゆっくりと巻き戻す。そうすると、逆回しになった音声が聞こえてくる。現像するとその音声は消えてしまう。
その軽トラはライトを点けたまま歩道に駐車していた。エンジンはかかってなかった。鍵はつけっぱなしだ。すぐにバッテリーがあがってしまうだろう。僕はライトを消そうと車内に乗り込んだ。決して車を盗むつもりではなかった。
若い母親の運転する車が後ろからついてきた。大きなペットショップの駐車場から出てきた車だ。助手席に小さな女の子が座って、何やらでたらめな歌を歌っている。ノロノロと走る僕を追い越して行った。
するとパトカーのサイレンが鳴った。追い越し禁止の区間だったが、捕まったのは僕の方だった。
床にたくさんのガラケーが落ちていた。僕は全部拾った。バスの車内だった。「落しましたか?」と乗客1人ひとりに声をかけて回った。しかし落とし主は見つからなかった。
バスが停まった。その停留所で全員が降りた。もう誰も乗ってこなかった。僕は何台ものガラケーを抱えて、このバスはどこまで行くのだろう、と思っていた。
僕が遅れて到着すると、みんなはもう食べ終えていた。予約していたレストランだった。奥に防音のカラオケルームがあった。何人かの仲間とそこへ移動した。食事は温め直してもらって、歌いながら取ることにした。
日本語の歌を探した。日本の歌はけっこうあったが、どれも歌詞が韓国語になっていた。僕はオリジナルの歌詞で歌おうとしたが、歌詞を忘れていた。
例えば医者は医者と、消防士は消防士といった具合に、同じ職業の人としか結婚してはいけないという法律である。生まれてきた子供も同じ職業に就かなくてはならない。違反者には高額の罰金が課せられる。そういう法律があるんだよ、と彼らは言った。
黒いマントを羽織った偉い人と、その人のクローンが。彼らは結婚していた。そういうのが流行っていた。僕もいつか、いつか自分のクローンと結婚するのだ。
僕は靴下を履いたまま風呂に入っていた。体を洗うとき靴下を濡らさないようにするのが大変だった。それで長風呂になってしまったのだ。2時間は入っていたと思う。
やっと風呂から上がった。女房が待っていた。彼女は僕の靴下に触れて「濡れているじゃない!」と非難した。「汗をかいたんだよ」と僕は言い返した。僕は靴下を脱ぎ、洗濯機の中へ放り込んだ。
音の塊を撮影しようとしているカメラマンがいる。しかし上手くいかないので僕に頼む。その塊をスタジオの中に入れてくれと。外だからだめなんだ。
僕は音の塊をつかまえる。塊は鼻クソのように小さい。しかしどうして鼻クソを思い浮かべてしまったのだろう。
音の塊は目に見えないし匂いもないが、ばっちいもののように思えてきた。
食料品店で絵画が売られている。タイトルは「熱中したもの」。2割引のシールが貼られて、食品と一緒に。
消費期限を見てみた。明日までだった。
何が描かれた絵なのだろう。僕には何も見えない。熱中したもの。
‥‥僕が熱中したもの。
ドアを開けるとセールスマンがいた。笑わない男のセールスマンが1人、ただ突っ立っていた。僕は鍵をかけず、そのまま出かけた。セールスマンは部屋の中に入るか、ためらっていた。
部屋にはとても大勢の人。話し声が、廊下に漏れてくる。血縁関係はないが、僕は彼らと一緒に住んでいた。マンションの、高い階にある、広いワンルームだ。
引率の先生はもう来ている。生徒たちも制服のワイシャツを着て待っている。僕は何も着てなかったので、みんなが僕の周りで輪になって、通行人の目から僕を隠した。
そのようにして学校まで行った。1時間目は体育だった。みんなのロッカーには体操服が入っていた。みんなは下着まで全部着替えた。
僕のロッカーには体操服もなかった。その代わりアイスクリームが入っていた。僕はそれを食べ始める。半分ほど食べた時点で、みんな着替え終わった。
電気屋に来た。家のテレビが壊れたのだ。これを期に薄型テレビに買い替えてもいいかも知れない。
しかしその店にはブラウン管テレビしかなかった。薄型の液晶はないんですか? 僕がそう訊くと、店主は小さな鍵を僕に渡した。それは寝室の鍵だった。ドアを開ける。僕の寝室だ。中に2台の薄型テレビが設置してある。値札はついたままだ。
大根者のラブストーリーをテレビでやっている。あれは「だいこんもの」じゃないよ、「おおねもの」だよ、そう教えられた。それでも何のことかわからない。
君は「出かけましょ」と僕を誘う。何回目だろう。コマーシャルに入るのを待った。僕はわざとテレビのテイッチを切らずに出かける。
みんなさ。みんな、買ってるんだな。それだから、おれも買おうと思ったんだよ。で、買ったんだ。
何を?
僕は誰にも名を知られてない三流の小説家である。また詩人でもある。1冊の、ほとんど売れることのなかった詩集の作者として知られていた。
彼はやってきて僕の向いに腰掛け、その詩集だよと答えた。
バスケの3点シュートの練習をしている。チームメートたちはバスケットボールの代わりにカボチャを使って練習している。
‥‥理解し難い。
がぼっ、ぐちゃっ、と(不快な音)。
僕は食パンを使う。3点ラインの、さらに外側から次々とシュートを決める。
パフッ、パフッ。
「でもさ、食パンだろ?」とチームメイトは言う。
僕は白ネギでライフル銃をつくろうとしていた。スーパーに行った。いろいろ探したが銃身に適したネギはなかった。(まっすぐなネギが欲しかったのだが。)
妥協して曲がったやつを3個買い、試作した。それを持って砂場に行き、子供を撃つマネをした。ただのネギですよと僕は言った。見ればわかる。子供の母親が怪訝そうにこちらを見た。
「この世界に入ったばかりの自分を見ているようだ」と、そのベテランコーチは新人の僕にアドバイスをくれた。
「スポーツの世界で『人間』をやろうとしちゃだめだ。人間以外のものを目指せ」
「たとえば‥‥たとえばゴリラとか?」
「いいぞ、ゴリラ、お前はゴリラだ。戦うゴリラだ。ゴリラはどう戦う?」
「あぁ、コーチの言わんとするところがわかってきました」
役に立つアドバイスだなと僕は思った。
立ち上がるとジーンズの尻ポケットに入れていたチケットがなかった。椅子の上に落ちていた。これで今日2回目だった。
これから3回目と4回目がある。僕はそれを「覚えていた」。なのに1回目のことを思い出せないのは不思議だ。
君のツアー・マネージャーが僕を呼んでいる。
チケット販売の窓口に君がいた。他にも窓口はあったが、そこにだけ長蛇の列が出来ていた。みんな直接君からチケットを買いたがっていた。
「このあとコンサートがあるんでしょ?」
「そうだよ」と言いながら君は販売した当日券にサインを書いている。アーティスト本人のサイン入りチケットなんてすごいな‥‥
「別に何でもないです」と僕は答えた。何も訊かれてないのに。
バッグを何個も抱えたその人は僕の前に来た。バッグから「それ」を1つひとつ取り出して僕に見せた。全然知らない人だった。「それ」が何なのかもわからない。見たこともないものだ。
その人の前に、たくさんの人が座った。ほとんどが、若い女性だった。全員が、黒いドレスを着ていた。長い、黒髪だった。彼らに向って、突然その人は言った。
「俺はオーケストラをつくるぞ」
「今ここで、オーディションをやるぞ」
女性たちは立ち上がって、バイオリンを取りに家に戻った。
僕1人だけが、その人の前に取り残された。「行くぞ」とその人は言った。
「ついて来い。お前は1次審査合格だ」
でもなぜかその人は、僕から目を逸らした。こちらを見ようともしなかった。
今日パーティー会場で僕は、腕が3本ある女の人を見た。そのとき初めて、自分には腕が1本しかないことに気づいた。
僕は腕が3本ある女の人に近づき、彼女の名前を呼んだ。名前! 名前をなぜ知っていたのだろう。僕はもう、自分には名前がないことに気づいていた。
いつの間にか僕はバルコニーに出ていた。出てはいけないバルコニーに。誰が忠告してくれたのだっけ。そこに出てはいけないよと。そこには女たちがいた。そして下の通りには、男たちがいるというわけだ。男だけで構成された群衆が。
僕が飛び降りると、何人かが下敷きになって潰された。僕の犠牲になったというわけだ。
鏡には、黒いターバンを巻いた僕が映っていた。その上に僕は、黒い帽子をかぶった。マンションの一室だった。家具はほとんどない。広い。ただ部屋の真ん中に、丸いテーブルがある。テーブルの上には、どう調理したらいいのか悩むような食材がある。(しかしどのみちここには、調理器具もない。)
僕はテーブルの脇に、ノートパソコンが入ったバッグを置いた。
僕の父親だと名乗る若い男が、段ボール箱を何箱も抱えて、その部屋にやってきた。引っ越してきたのだ。もう1人太った男を連れていた。引っ越し業者のようだったけどわからない。父は彼に、空になった段ボール箱を引き取ってくれるよう頼んだが、断られた。「私もこの部屋に住むんですから」と引っ越し業者の男は言った。
僕がそれを眠らせると、それは眠りの中で、ポーという音を鳴らして、あぁ‥‥、うるさい。僕はそれから、逃れるようにして、目を覚ます。
どこか遠くで、汽笛が聞こえる。3時間しか寝てない。汽車が来る。僕は乗り込む。
(僕が眠らせたものは、僕の傍らで、眠りつづけている。)