クリスマス
捨てられていた子猫を拾い上げた。僕の耳に音楽が聞こえてきた。クラシックの名曲だと思うが、どうしてもその題名を思い出せなかった。
僕は子猫を放した。そうすると音楽はやんだ。題名は思い出せないままだったが、気分は楽になった。
(猫を抱き上げるとまた音楽が聞こえてくるんだろう。どうせ題名は思い出せないんだろう。もやもやするんだろう。そんな音楽ならない方がいい‥‥)
もういちど猫を抱き上げた。自分がどんな気持ちになるか試してみるために。しかしもう音楽は聞こえてこなかった。
代わりに聞こえてきたのは知らない女の声だった。
「クリスマスに電話したのよ」と彼女は言った。「でもあなたは電話に出なかった」
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