無題
写真のコンテストだった。撮った写真を1枚、大きく引き延ばし出展した。野生の熊を写したカラーの作品である。
「これは『熊』というタイトルの作品だね?」誰かが僕に訊いた。
「タイトルはないんだ。『無題』ということになると思うよ」僕は答えた。
審査を待つ間、僕たちは予想しあった。作品が入賞するかどうか。そこにいた全員が、『熊』が3位入賞を果たすと予想して、実際にそのとおりになった。
『熊』を撮った大柄な写真家が小さくガッツポーズをしたところを、僕はカメラに収めた。
『無題』の話をする者はなかった。