小銭
椅子に乗り、そこから高い食器棚の上に登り、そのさらに上の方に設置されている棚の中を覗き込むと、そこには古い乾電池や、小銭がたくさん入った小箱があった。
そこで名前を呼ばれた。誰にも教えてない、僕の昔の名字で、僕を呼ぶ者がいる。母のように背の高い女性だった。食器棚から飛び降りた。
彼女は、よじ登るために僕が最初に使った椅子を持っていて、その椅子の座面からは水が涌き出しているのだが、それはなぜかと僕に訊いた。
僕のズボンの尻は、濡れていた。わかんないけど、もう座れないね、この椅子には。僕はそう答え、手に握りしめていた小銭を、宝物だと言って見せた。
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