キーを借りる
歩くと往復30分かかる。僕は久しぶりに楽をしたくて、君にクルマを貸してくれないかと頼んだ。
「いいよ、キーを貸すよ」
引っかかる言い方であった。キーを貸してくれるということは、クルマを貸してくれることではないのか?
僕はマンションを出た。クルマは駐車場ではなく、近くの湖のほとりにある。
マンションの隣に、僕の家があった。壁がピンク色に塗り替えられていたが、誰がいつの間にやったことだろう。人が住んでいるみたいだった。庭には洗濯物が干されている。
湖は‥‥その家の中にあった。家よりも大きな湖が、家の中に。たくさんのクルマが、駐車しているのが見えた。借りたキーを僕はかざして、クルマのエンジンをスタートさせた。すべてのクルマのエンジンが、一斉にかかった。
わからない。どのクルマを、僕は貸してもらったのか。
とりあえず、家に入ろう。家の中に入ろう。ここは、僕の家だ。しかし玄関のドアは、そのキーでは開かなかった。
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