税金
機械から1010と書かれた千円札が1枚出た。それを受け取り、しばらく待つ。するとまた1010と書かれたお札が出てきた。
(10はきっと税金だ‥‥!)
国民1人に1台支給された機械の前に1日中いる。
機械から1010と書かれた千円札が1枚出た。それを受け取り、しばらく待つ。するとまた1010と書かれたお札が出てきた。
(10はきっと税金だ‥‥!)
国民1人に1台支給された機械の前に1日中いる。
バスに乗り込むと、乗客の靴が気になった。男も女も、全員、よく磨かれた黒い革靴を履いている。服装はカジュアルだ。違和感が半端ない。
1人だけ、スリッパを履いた人物がいた。黒っぽいスーツにネクタイを締めて、ビジネスマンのようだ。スリッパのつま先から、白いソックスが見える。
バスは混んできた。座席はまだ空いているが、僕以外に、座ろうとする者はない。それでも僕は座った。目を伏せて、自分の靴を眺める。
そのまま視線を固定し、顔を上げない。
大学の教育学部の付属の幼稚園で、絵本の読み聞かせをしているところに、僕たちは乱入して、教育方針にクレームをつける。
先生から本を取り上げ、悪い王様が懲らしめられている場面を、僕は悲しそうに読む。間違ったことだ、こんなふうに吊るし上げるのは。
スーパーのレジ係の女のコは裸だった。どうしたの? と僕は驚いて訊いた。何の罰ゲームだよ?(怒って)替わってあげるから、早く奥で服を着て(優しく)
そうして僕はレジに立った。何年ぶりだろう、昔バイトでやったことがある。
しかし待っても、さっきの女のコは戻って来なかった。帰ったのかも知れないが、僕もそんなに長くやるつもりはなく。
知り合いが買い物にやって来た、驚いて「何やってるの?」と訊く。「ちょっとした罰ゲームだよ」「ふーん、何か悪いことしたの?」「服脱いでもいい?」
「何で? 馬鹿なの?」
「じゃ全部脱ごうかな」「死んで」
ホテルに到着したのは、朝だった。誰もまだチェックアウトしておらず、僕の休む部屋はなかった。清掃の人たちと一緒に、廊下で待っていると、客室のドアのランプが、赤くなった。「清掃なんか、要らないよ」と僕は言った。すぐに部屋に入って、休みたい。
なら、どこでも好きな部屋を選んでいい。ホテルの人たちがそう言うので、僕はあちこちドアを開けて、なるべく綺麗に使っている部屋を探した。
1つ、ほとんど使ってないように見える部屋があった。「あぁ、ここは、鳥が泊まった部屋だよ」ホテルの人は言った。
「窓から飛んで出て行く。知らぬ間に来て、知らぬ間にいなくなってる。鳥はベッドでは寝ないから、綺麗なんだよ」
帰宅すると、たくさんの人が、風呂に入る順番を待っていたが、僕はこの家の主人なので、好きなとき、割り込む権利がある
と、お手伝いさんの1人は、言っていたはずだったので、まず、テレビドラマを見ることにした(これもまた、どの番組を見るか、チャンネルの絶対的優先権は僕にある)
番組の終了時間に合わせて、ゆっくり、1枚ずつ服を脱ぎ、お手伝いさんに渡して、洗濯してくれるよう頼んだが、「テレビが終ってから、一気に脱げばいいじゃないですか」と、漏らしてしまうくらい、もっともなことを言われた。
僕たちは囚人だが、逃げていいことになった。塀の外に出され、どこでも好きなところへ行けと言う。僕はのんびりと歩いた。同じ檻の中にいた男と一緒に。みんなが逃げたのと、反対の方向に。
「こっちに何かアテはあるのか」と彼は訊いた。「ない」と僕。
「とりあえず歩けるところまで歩いて‥‥途中で自転車が盗めればいいな」
人気がどんどんなくなる。暗い林の中に分け入る。突然あたりが開けた。なぜか駐車場であった。車中で寝よう。どのドアもロックされてない。見ろよこの車。ランボルギーニじゃないか。キーがつけっぱなしだ‥‥
僕たちはそのスーパーカーを盗んだ。ガソリンは少ないが行けるところまで行く。
キーホルダーにはよく見ると名前が彫ってあった。「お前の女房の名前じゃないのか?」と彼が訊く。
大学の教室のようなところでコンサートはもう始まっていた。日本人のピアニストは黒板の前で話をしながら演奏している。彼女は喋るときにマスクをし、演奏するときに外すのだが、そうすると何を喋っているのかよく聞こえない。
客席は傾斜になっていたが段はなく、床は非常に滑りやすかった。後ろの方に座っていた人が持っていたペンを落すと、それはピアニストの足元までスーっと転がって行った。
道の真ん中にトラックが停められている。整備のようなことが行われている。それは「車検」だという。僕らは立ち往生。
後ろからワーゲンがやってくる。ピカピカのビートルだ。僕はボンネットに顔を映す。
書店で雑誌を見ている。本棚の上の方が駐車場になっている。そこに停めてある車は売り物だ。雑誌に取り上げられている車から売れていく。
販売員はルイ・ヴィトンの服を着ている。靴もルイ・ヴィトン、しかし泥だらけだ。僕の頭上で、彼らは顧客と契約を交わす。広げたページの上に泥が落ちて来た。
蛇の丸焼きのバゲットサンド。
モノについた名前を剥がすのが僕の仕事。
この場合は蛇の鱗を剥がせばいい。
そうすりゃ誰も蛇とは気づかない。
このカフェでは車も売っている。
カフェから車を剥がして捨てる。
車と鱗を捨てる場所を探して、表の駐車場をうろついた。
ルイ・ヴィトンの服を着た人の前に捨てた。彼が拾えばいいと思って。
靴もルイ・ヴィトンだが、
泥だらけだ。
「すみません警察です」
「はい?」
「お伺いしますが、この辺りには『蜂蜜』という名前の人が多いですよね」
「蜂蜜?」
「表札がすべて『蜂蜜』なのです。そのわけをご存知ですか?」
「ご存知ないです」
「ちなみにあなたのお名前は?」
「蜂蜜ではありません」
「では何というのでしょう? 身分証を拝見してもよろしいですか?」
‥‥これが警官による「職質」ってやつか、初めて受けた。しかし今ドキはずいぶん丁寧だなと思った。
寝ているとき掛け布団を奪われた。犯人はすぐにわかった。僕はナイフで彼を刺した。彼の妻と子供たちも刺した。しかし布団は取り戻さなかった。
興奮してすっかり目が冴えてしまった。
キッチンに行き水を飲んだ。女があらわれた。豊満な胸を半分以上露出している。
「暑いですね」と胸から目を逸らさずに僕は言った。「暑くて眠れないです」と彼女は答えた。
旅行から帰ると右腕右足に蕁麻疹ができていた。僕は早く寝ることにした。おそらくはただ悪いだけの夢なのだ。
しかし蕁麻疹は消えなかった。気づくと左腕にも何かができていた。それは白い文字のように見えた。何て書いてあるのだろう。
一緒に暮らしていた女にその文字を見せた。彼女は口に出して読んだ。外国語のようである。「何て言ったの?」僕が訊ねると、同じ音が彼女の顔に開いた穴から流れ出た。僕がいつも入れている穴からは、赤ん坊が出てきた。赤ん坊も同じ言葉を喋って、僕の左足を蹴った。
それは、チャンスだった。
お会計をしてもらっているとき、太陽の角度がうまい具合に変わって、レジのお姉さんの目を眩ませた。
僕は、金を払わずに、その品物を持って店を出た。
外は、灼熱の地獄だった。お金をきちんと払った人たちも、僕と一緒に業火に焼かれたのは、かわいそうだった。
双子の妹の1人にだけキスをして、もう1人には絶対にしなかった。
妹たちは僕に何でもいろんなことを訊いてきたけど、そのことだけは訊こうとしなかった。
訊かれたら答えようと思っていた話がある。それは最初は一言だった。キスを繰り返すたびに長い説明になった。そのうちにそれは「物語」になって、何かの理由ではなくなった。
10代のころの僕たち3人は、その物語の中を生きていたのだ。
お互いに絶対に明かすことのない秘密を1つだけ抱えている、という物語を僕たちは共有していた。
大人になれば、僕たちはバラバラになって生きるだろう。
バラバラになってしまえば、僕たちは平凡な人間だろう。
しかしその語られることのなかった物語が誰かの口から語られるとき、僕たちは再び特別な人間になって、結びつき輝くだろう。
そう固く信じていた。
彼女が高級ブランド服を買うのは、いったい何の研究のためだったか。
「幼稚園児になった気分の研究」
泥んこの地べたに座っている。
僕にも隣に座るように言い、汚れた手で僕の顔やシャツに触れる。
「高かったんだぞ、このシャツ」だが彼女の着てるスーツと比べれば大したことはない。
僕は歌っていた。ふと思いついたにしては、長い旋律を。
最初から君は、五線譜に採譜していた。僕が歌い終わると、1つだけ短く質問をした。
「コードは?」
僕が考えていた進行は、ハ長調からイ短調へ、最後にまたハ長調に戻ってくるという、単純なものだった。
僕の答えを聞いて、君は笑った。「ふん、まぁいいわ」というような笑い。君が音楽的な質問をして、僕が答えると、君はよくそんなふうに笑うのだ。
それから君は、ピアノに向かった。右手でハ長調のアルペジオを弾いて、左手で先程のメロディを奏でた。ペダルは、ほぼ踏みっぱなし。途中で、テンポが変わる。
そうすると、鏡の世界に入ったように、ピアノの鍵盤が逆転した。左側から高音、右側から低音が聴こえ出した。
ピアノだけではない。僕の心臓の鼓動も、右側に移った。
鼓動があまりにも速くなった。
耳が、聴こえなくなった。すると目が、耳の役目を果たし始めた。時間が、逆転し始めた。僕は、どんどんと過去に遡り、君と初めて出会ったフランスの、あの日に還った。
「とてもいい曲だね、あなたが書いたの?」僕が持ち込んだ楽譜を見て、君はそう言ったのだ。
君は、笑っている。僕は、かけていた眼鏡を外した。演奏が、すごく近くに寄ってきた。
窓の外に女の背中が見えた。窓を開けると頭部も足もなかった。ただ背中だけが僕の目の前にあった。
背中からは何かの匂いが漂ってきた。僕は顔を近づけ、その匂いを胸一杯に吸い込んだ。洗ってない髪の毛や、足の裏の匂いがするのではないかと期待して。
僕が書いた曲に歌詞はついてなかった。書き上がった直後にはついていたのだが。時間が経つにつれそれは消えた。
思い出してみせると僕は言った。忘れたわけでもないものを。あれは確かにすばらしい歌詞だった。けれど今はもう存在しない。
「大いなる者」と連絡を取った。彼女なら死者を蘇らせることさえできる。「大いなる者」とコンタクトできるのは僕だけだった。
バンドの仲間たちは彼女の存在自体を知らなかった。扉の向こうに彼女の背中が見えているときも。
「やるぞ」と彼女は言った。「よっしゃ」と僕は雄叫びを上げた。僕はステージに立った。それがすべての始まりだった。
「大いなる者」は、あの日特別に僕だけに話しかけてきた。僕らは相互にフォローし合ったのだ。
社長が話をしている‥‥
賭けに負けた方がこの地を立ち去る。
話終った。「さぁキミも何か話したまえ」と僕に言う。そしてどこかに去ってしまった。
社長は負けたのだろうか?
僕には話なんてなかった。
新たに人がやって来るのを待った。
そいつに社長の話を聞かせてやろう。
ピクニックに行くと、「大いなる者」が、僕の脳内に直接通信を送ってきた。
一緒にいる仲間たちが、「彼」と接触できた様子はない。
「大いなる者」は、特別に僕だけに話しかけてきたのだ。
自慢したいが。
黙ってサンドイッチをパクつく。
スーパーで魚を買った。家に帰った。誰の家なのかわからない。
「帰ったよ」と言った。「おかえり」という声がした。女の声だ。僕はその声の方へ向かって歩いた。一歩ごとに眠くなった。女の顔を見る前に床に倒れこんで寝ていた。
そのときに見たのは、高級デパートの食品売り場で魚を買う夢だ。目を覚ました。
女が魚を料理していた。魚が家にあるのは知っていた。だからさ、僕はカニを買ってきたんだよ‥‥
車に首輪をつけ、散歩に出かけた。犬の散歩をするように‥‥しかし車は道路しか走れない。
デパート内に入って、僕は車を抱きかかえた。エスカレーターに乗った。
前にいた男女が、僕を振り返った。車をちらと見て、それからまた前を向いた。
「欲求不満があるの」と女が言った。「オレにはない」と男は応じた。それからもう1回僕を振り返って、車を見た。
子供は検査された。その結果知能に問題はなかった。問題があったのは教師の教え方だ。
「この子は従来型の小学校ではなく、スーパー小学校にいくべき」コンピューターが診断した。診断書をもらった。子供の転校に必要だ。
スーパー小学校には教師はいない。生徒は自分で学ぶ。
大人が何か演説している。教育関係者だ。そのマイクが子供に奪われる。
あの奪い方を見て、と女房が言う。やっぱり教育に不満があるのよ。奪い方を見ればわかるわ。
午後から東京タワーに行く。タワーは長い橋の向こうにある。そこは東京。ここも東京。歩きつづけて少し疲れた。
午前中はずっと歩いていた。道端に椅子があっても座らなかった。椅子はちょうど日陰にあったのに。そろそろ休んでもいいんじゃないか。
すると声をかけてくる人があった‥‥「あなたはヤンキーなのに、なぜ?」と。なぜヤンキー座りをしないのかと、言いたいわけだ。そこに本物のヤンキーがやってくる。
最近はリモートワークが定着したという。しかし電車に乗っているのは若い人だけだった。彼らは通勤中に最先端の科学や医学の議論を楽しんでいた。台風で警報が出ても会社に行くのが新しいのだと言った。「痛勤」はクールだと語った。自分たちはリモートワークには興味がないと述べた。
僕は次の駅までどのくらいかかるかと訊ねた。次の駅が終点だという答えだった。だからそこまであとどれくらいかと訊いた。僕は少し苛立っていたかも知れない。それまでには長い時間がかかると彼らは言った。誰にも時間がないことを若者たちは理解していなかった。
目を覚ますとベッドの上で僕は腰痛になっていた。ぎっくり腰の一歩手前である。原因はわからないがたぶん暑さのせいだろう。
何度も寝返りを打って最終的には絞った雑巾のような体勢で寝ていた。これ以上きつく絞っても汗はもう一滴も出ない。
そのときには曲を書く夢を見ていた(メロディはだいたいできていて後は歌詩をつけるだけ)。
「ざるぼっと、あるぼっと」という言葉が頭に浮かんだ。意味はわからないけどサビの部分はそれでいいんじゃないかと思った。
「これは『常磐新線に乗って筑波にゴーヤを買いに行こう』という意味?」
僕の恋人らしき女性が言った。彼女はピアノで伴奏をつけた。僕は歌った、「ざるぼっと、あるぼっと」
「急にゴーヤが恋しくなってね。筑波山はゴーヤの産地として有名なんだ」
「ざるぼっと!」
「あるぼっと!」
さぁ早くでかけよう。ゴーヤの里へ。曲は完成した。僕は腰痛になった。
ニュース速報が流れた。僕は走りたくなった。僕が走りたくなるような知らせが走ったのである。(あなたが走りたくならなかったからといって、それはニュースのせいではない。)
僕は服を脱いだ。服を脱ぎたくなるようなニュースではなかった。ただ走るのに、僕は着替えを持ってなかった。走れば汗をかくだろう。(それで僕は走る前に服を脱いだのである。)
海外旅行へ行こうとしていた。上着の内ポケットにパスポートはあったが、鞄も何も持ってないことに気づいた。
飛行機の出発時刻まではまだ余裕があった。家に引き返して、せめて着替えくらいとってこようと思った。(現地で調達してもいいが、海外で服を買うのは、サイズの面で不安がある。)
ところが家には、人がいた。いや姿は見えないが、さっきまで人がいたようだ。ベランダには布団が干されていた。洗濯機の中で白い洗濯物が回っている。キッチンの電子レンジの中でも白いものが回っている。
それらを見ていると白い光が僕の周りを回っているような錯覚にとらわれた‥‥
誰かがシャワーを使っている。音が聞こえる。風呂場を見てみた。しかし誰もいなかった。お湯が出しっぱなしになっていたわけでもない。ただシャワーの音が流れているだけだ。
テレビがひとりでに点いた。昼の連続ドラマの時間だ。こちらからは何の音もしない。ボリュームを最大にした。
暑くて、裸で眠っているところに、いきなり女性が訪ねてきた。
僕はベッドではなく、床に敷いたポスターの上で寝ていた。
「うわぁ、仕上がったんですね。彼女さんのボスターですよね。やっぱりセンスあるなぁ」
フルチンの僕は何と答えたか覚えていない。
「センパイは、すごく頼りにされているんですよ」
そう言われて逆に僕のチンチンは少し縮んだ。
「私、向こうの部屋で待ってますから、早く服を着てください」
女性の着ていたシャツの生地は薄く、黒いキャミソールが透けて見えた。
黒なら見えてもいいんだろう。そう思い込むことにしている女性は多い。
僕も黒いブリーフいっちょうで、出かけることにした。
「お財布をプレゼントします」とその女性は言った。「好きなのを選んでください」
僕たちは大きな机のある店にいた。引き出しを開けると財布があった。
「これなんかどうですか?」
彼女はグレーの二つ折りの財布を手に取った。
「あっ、これ見てください。私も使っているやつです」
別の引き出しを開けて言う。そこには箱が入っていた。
「何に使うものなの?」
「やだなぁ、貯金箱じゃないですか」
そうだろうか、貯金箱には見えない。
「早いけど食事にしましょうか? ここ、レストランなんですよ」
「えっ‥‥」
彼女はまた別の引き出しを開けた。そこにはナイフとフォークとスプーンと皿が入っている。皿の上には料理がのっている。
「箸はどの引き出しに入っているのか」
僕がそう訊くと、彼女はとてもセンスのいいジョークだというふうに頷いてから、笑った。
小さなおにぎりが3個ある。お昼のお弁当。1人分にも足らないくらい。
おにぎりの1つは空気よりも軽く、ぷかぷかと浮いている。浮かびながら、僕たちの後をついてくる。
「かわいいね」と僕。
「食べるのかわいそうだね」と君は言った。
僕は空に浮いていた。僕の隣には焼き鳥の串が浮いていた。
そして鳥たちが僕の周りに集まってきて、賭けを始めた。僕と焼き鳥、どっちが美味いかという賭けだ。
焼き鳥に決まってるだろう、と僕は思う。
焼き鳥を食べる。腹はへってなかったが。
空にはもう何も浮いてない。
鳥たちがギャーギャー騒いだ。
あまりにもうるさい。
ガンダムが蜘蛛の巣にかかった。もう終わりだ。逃げ出すことができない。
巨大な黒い蜘蛛が、ゆっくりとガンダムに近づく。久々のごちそうだ。
蜘蛛が触手のように伸ばした「言葉」が、ガンダムを味わう。「言葉」はガンダムを気味悪く描写し始める。僕はガンダムにその「言葉」を読み聞かせた。ガンダムは嘔吐する。ガンダムはもう終わりだ。
病気の女と結婚することになった。みんな反対した。幸せにはなれないだろうと言って。
「ずっと入院してるのよ」彼女のお母さんもそう言った。
「そのうち治りますよ」と僕。
新居で僕は1人で暮らした。
ときどき彼女の携帯にメッセージを送った。忘れたころに返信がある。
「私はもう治っているのよ」彼女はそう書いてくる。
川で水遊びをする女はストッキングをはいたままだ。キューピットが持つような非実用的な弓矢を持ち、魚を狙っている。また外した。
魚は上流から、1匹ずつ流れてくる。
「今晩のおかずなのよ」と女は上流に向かって叫んだ。「お金はもう払っているのよ」
地には水のない川が流れている。鏡のように空を映している。あえてその鏡の上を歩く。そこには僕の足が映っていない。
僕の左足はどんぶらこ、どんぶらこと下流へ流れていく。右足はサケのように川を遡る。「行かないで」と僕は言う。
左足がいつの間にか舟に乗っている。
「どこにも行かないで」と僕は言う。
辿り着いた場所で僕の右足は産卵している。
不思議だった。僕はいつもの百倍のスピードで階段を下りる。しかし前の人を追い越すことができない。
僕はいつもの百倍遅く階段を上がる。しかし誰も僕を追い越さない‥‥
僕は後ろを振り向く。階段を上がっていた人たちが全員固まる。そこで「逃げろ」という男の声。だが僕らを追いかけてくるのはそいつだ。
男にキスを迫った。拒まれたので、女に迫った。キスできるなら、誰でもよかった。そう言うと、女は僕の舌を切った。先っちょを、1cmくらい。そして
「今言ったこと、もういちど繰り返してみな」
僕は「キフできうはら、なれれも‥‥」
「ホントに繰り返す馬鹿がいるかい」
女はペンチで僕の舌をひっぱり出し、全部切り取った。
男が、自動販売機の前で寝ていた。浮浪者が寝るのに、ふさわしい場所ではなかった。僕は同僚と2人で、自動販売機を動かすことにした。浮浪者を起こさないように、そっとだ。その様子は、ビデオに撮られているので、僕たちは慎重にやった。
自転車の愛好家たちが集まっている公園の前を自転車で通りかかった。僕はそのイベントに参加するつもりはなかった。しかしつかまってしまった。
抜け出そうとすると、引き戻される。
ママチャリに乗ったおばあさんがやって来た。着物を着ている。「自転車に乗るのにふさわしい服装ではありませんね」などと言われている。大きなお世話なのだ。
僕には指が4本しかなかった。鏡があった。その鏡の中にいる男には指が5本あって、顔も僕と似ていなかった。
その男は話しかけてきた。「お前は誰?」
「鏡よ鏡、世界でいちばん美しい男は誰?」
と、僕も訊いた。
‥‥答えてくれなかった。「ふざけんなよ」と吐き捨てて男は消えた。
僕は運転している。慣れない右側通行の道を、慎重に。カーブの手前で危険な追い越しをかけられる。身がすくむ。橋を渡った。
そこはレストランと聞いていたが、老人ホームのようでもあり、書店のようでもあった。誰もいない。
ざわめきが、壁の中から、そして地底からも聞こえる。
僕は、まっすぐ進む。
アメリカ人の団体がいる。館内に英語の放送がある。僕にはよく聞き取れない。
放送を聞いたアメリカ人の1人が立ち上がる。若い白人の女性だ。彼女の元にマイクを持って走るのは、僕の知り合いだ。女性がスピーチを始めた。
僕は台車に、赤ん坊を載せて運搬している。路線バスの乗り場まで運ぶ。赤ん坊は僕にチップを払い、
「乗っていい?」と訊く。
「バスに乗るんですかい? 旦那」
「うん、乗っていい?」
勝手に乗ればいいだろう、と僕は思う。しかしバスの運転手に指摘されて気づいたが、この赤ん坊はまだ生後5ヶ月だ。
裸の美女を連れて、廊下を端まで歩く。そこに置き去りにして、元いた場所に戻る。仲間たちが、待っていた。
レストランで、注文をするのだ。
メニューが、運ばれてきた。それは、トイレットペーパーに見える。
「恋人のところに、これを持っていってやれば?」仲間の1人が言う。
「彼女はウンコをしにいったんじゃないよ」と僕は反論した。
乗り合いタクシーの運転手は女性だった。
そのタクシーはホテルから出て、ホテルに帰った。途中町を見学した。「降りちゃいけないよ」と運転手は警告した。「ま‥‥どうしても降りたいなら止めないけど」
「どっちなのさ。降りてもいいの?」
「降りたいのかい?」
僕は降りなかった。タクシーはそのままホテルに戻った。急な坂道を上る。
「ここ、同じホテルだっけ?」
「同じ‥‥? ヘンなこと訊くね。さぁ帰ってきたよ」
乗客は僕1人だった。僕と一緒に運転手も降りた。そして部屋に入った。
「ここはどこだっけ?」と訊くと、いつものように彼女は僕を笑った。
3、
僕は君の指の動きに、釘づけだった。信じられないことに、君は手のひらを上にして、ピアノを弾いている。コンサートが終わり、打ち上げのパーティー会場で、僕はそのことを話題にしようと思う。だがしかし、仲間たちは、僕の錯覚だと言う。
2、
コンサートの間じゅう、噛むときに音の出るスナック菓子を、ボリボリ食べている。1袋食べ終わった。隣の老婦人が、私も欲しいと合図するので、新しいものを、空袋と一緒に渡す。証拠隠滅。犯人は、このババァだ。僕は何食わぬ顔で、会場を後にする。
4、
予約してあるレストランまで歩く。雨が降ってきた。僕にはコンサート会場の中で着ていた雨合羽がある。コンサートが終ってもずっと着たままだった。雨は、どんどん激しくなった。
1、
雲の上にステージはあった。客席はずっと雨。雨合羽を着た僕は、何とか浮上し、ステージ脇にかぶりつく。