タツノオトシゴ
僕は妊娠した。知り合いの女が臨月のお腹を、タツノオトシゴ的に僕に移植した。
それで僕は妊娠した。もう60歳を過ぎている。
「NYに行ってくれない?」と彼女は言った。「子供にアメリカ国籍を取らせたいのよ」
病院ではなかった。彼女が用意してくれていたのは高層アパートの一室だった。すべて開け放たれた窓。爽やかな初夏の日差し。出産は簡単に終った。
2人の白人の産婆さんが手際良く取り上げてくれた。
「女の子ですよ」
見ればわかる。その子は生まれてきたときにはすでに中学生だった。
「さてお母さんに会いに行こうか‥‥」「‥‥」しかしまだ喋れないようだ。
女の子の母親から動画を預かっていた。「生まれたらすぐに子供に見せて」刷り込みを期待してのことだ。
女の子が喋れないことを母親に伝えると、あの動画はちゃんと見せたのかと、僕を問いつめる。
「あの子、服を着て生まれてきたよ」僕の返答にも、
「当たり前でしょ。私が着せたのよ」
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