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2024年11月30日

 アンケート                                                                  

 

 学級委員長をしている背の高い痩せた女性は、僕らの班の班長でもあった。彼女は僕たちにアンケートを手渡し、記名して返答するように求めた。とくに答えづらい質問はなかったが、自分の名前を書くことには抵抗を覚えた。というのもこのクラスの男子は、僕を除いて全員が同姓同名だったからである。僕がその不公平を口にすると、彼女は「何よ男のくせに」と吐き捨て、それ以上答えようとはしなかった。以後無視。まぁたしかに、考えてみれば彼女も同じなのだ。女子全員が同じ名前のクラスで、1人だけ違った名前。

 

 

 さてアンケートの中で、興味深かった質問が1つ。朝はどのようにして起きますかという問いで、僕は「目覚ましも使わず親に起こしてもらうでもなく、毎朝同じ時刻に自然に目が覚める」と、自慢気に回答したのである。(僕の答えは先生にも委員長にも感銘は与えられなかったのだが。)

 

 

 

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 天女は呼ぶ                                                                  

 

 タブロイド紙に大きく写真入りで紹介されていたのは、魚の代わりに人間が泳ぐ水族館のニュースだった。ホログラムなのかCGなのかわからないが、水槽の中を、鮮やかな色の水着を着た若い人間の女が群れになって泳いでいる。彼女らの非人間的な体の柔らかさと、悩まし気なプロポーションには興味をそそられた。天女が水着を着て、空ではなく水中を泳いでいるようなイメージなのだ。それもたくさんの天女!

 

 しかし女生徒もいる大学の教室で、これ以上その写真を見つめ、そんなオッサン臭い妄想の翼を広げることは難しい。誰が置いていったのかわからないその新聞をゴミ箱に捨て、僕はみんなの話の輪に戻った。けれどそのあとも、ずっとゴミ箱の中が気になって仕方がなかった。

 

 

 

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2024年11月29日

 緑色の屋敷                                                                  

 

「緑色の屋敷」を出て、帰り道を歩く。そこで屋敷の方へ向かう、何人もの着飾った女とすれ違った。ほとんどが若い女性だった。これから何があるのだろう。コンサートかトークショーだろうか、ポスターも何もなかったはず。それともネットで告知されたのか。好奇心に駆られ、僕は戻ってみることにしたのだ。

 

 大広間には椅子が並べられていたが、集まってきたはずの若い女性たちは、どこにもいなかった。執事のような格好をした年齢不詳の男性に事情を訊ねた。しかし彼も何も知らないという。座っていいかと訊く。いいとも悪いとも答えはなく、僕は座った。そして何かが始まるのを、待ちつづけた。

 

 沈黙、そして静寂。それは、これから起こるはずのことのBGMだったのかわからない。緑はどんどん濃くなっていった。

 

 

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 昼寝する者                                                                  

 

 沖に出て敵と戦う者と、海岸で昼寝する者、2つに分かれることになった。昼寝は一見楽そうに思える。しかし海岸といっても砂浜ではなく岩場だった。荒い波の押し寄せる、黒く尖った岩の上で、呑気に眠るのは難しかったが、僕はやり遂げたのだ。

 

 神聖で、かつ英知に満ちた夢から目覚めると、戦闘で傷ついた戦士が沖から戻ってきていた。次のシフトをどうするか、僕たちは話し合うことにした。彼は当然昼寝を希望すると思ったし、僕も戦いには行きたくなかったので、激しい議論になると覚悟していた。けれど意外にも彼は、もういちど沖に出たいと言った。

 

 

 

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2024年11月28日

 袋                                                                  

 

「袋」を持って、その国を訪れた。袋の中に、その国のいろんなものを入れてよかった。詰め放題だ。対価は支払わずに、持ち帰ってよい。しかし、たいしていいものはなかった。僕は食べ物を中心に、持ち帰ることにした。チョコレートや、ケーキだ。

 

 帰り、空港で、袋の中身の確認があった。職員が袋を開けようとしたところ、袋は破裂した。中に入っていたチョコレートなどのお菓子が、そこらじゅうに散乱した。

 

 人が集まってきた。彼らは散らばったお菓子を拾った。1人1個ずつですよ、と空港の職員が声をかけた。僕は板チョコを手に取り、その場で全部食べてから、もう1つ拾った。

 

 

 

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 進化の階段                                                                  

 

「進化の階段を上るというだろう。それは進化するってことだな」

 

「進化の階段を下りるのは? そう、退化だ」

 

 そうだね、と僕は心の中で言った。口には出さなかった。用心していた。

 

「なら退化の階段を上るのは何だ? 退化か?」

 

「退化の階段を下りるのは何だ? 進化か?」

 

 ひっかけ問題のようである。僕はまだ答えなかった。つづけてその人は言った。

 

「さて、ここに階段がある」

 

 

 

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2024年11月27日

 橇遊び                                                                  

 

 雪が凍っている部分と、まだ凍ってない部分が、まだらになっている道路を、バイクで走るのは、難しかった。何度も転びそうになって、やっと辿り着いた駐車場。

 

 子供たちが段ボールでつくった橇を滑らせている。

 

 子供たちは僕の前に来ると、1人ずつ、僕の名前を訊いた。「ねぇ、何て名前なの?」僕はその度に、違う名前を答えた。

 

 最初の男の子が、もういちど僕の前に来て、同じ質問をする。

 

「さっき答えたよ。ところで君は何て名前なの?」

 

 男の子はにっこり笑って、仲間のところに帰った。仲間たちに、何か報告している。彼らは、満足したようすで、橇遊びを再開する。

 

 

 

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 ロゴマーク                                                                  

 

 細長い部屋に、若者たちが住んでいた。男も女もいた。女の方が多かったと思う。家具は何もなかった。ただ細長いテーブルがあって、そこに彼らの持ち物が全部乗っていた。彼らはテーブルに顔を伏せ、眠っているようだった。

 

 彼らの持ち物の中には、必ず1つ、近くにある日用品店のロゴが入った何かがあった。コカコーラのマークに似た赤いロゴが入った、石鹸や、生理用品だ。僕は、彼らを起こさないように、静かに歩き、テーブルの上に出された、各々の持ち物を見て回った。

 

 それから、階段で1階に下り、置いてあったノートに、自分の名前を書いた。来週から、僕もここに住むのだ。名前を書く欄の隣には、赤いロゴマークが小さく印刷してあった。僕はそのロゴマークに、黒いペンで丸い印をつけた。

 

 

 

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 赤い線                                                                  

 

 手があった。生きた人間の手とは思えなかった。マネキンか、SF映画のアンドロイドのような白い手だ。

 

 それから、声があった。そこにあるよ、と繰り返す声。漢数字の「一」のような赤い横棒が見える。「手」がその赤い線を指差した。

 

 

 

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 猛禽                                                                   

 

 車道の真ん中を歩いていた僕に、前から巨大なトラックが迫る。僕を轢き殺そうとしているのだが、不思議と怖くはなかった。逃げもせず、僕は穏やかな、諦めの心で空を見上げた。5月、人生最後の季節としては、悪くなかった。

 

 空の高いところを、猛禽が滑空している。その鳥が、ゆっくりと僕の方に降下してきた。いや違った。僕の方へ向けてではなかった。

 

 

 

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2024年11月26日

 受験生                                                                  

 

 大学受験。三次の面接試験だった。僕は一次のマークシートではほぼ満点だったが、二次の筆記で失敗した。どうせ、落ちるだろうと思っていた。あまり来たくはなかった。

 

 日本の最難関とされる大学だったが、面接を受けに来ていたのはほとんどが女子だった。そういえば、筆記のときも、男子の姿はあまり見なかった。今になって、疑問が沸いてきた。僕は間違って別の大学を受験してしまったのではないだろうか。

 

 4階でエレベーターを降りると、廊下に行列ができていた。派手な化粧をして、露出の多い服を着た、とても受験生とは思えない大人の女性が、ずらっと並んでいる。手にパンや、お菓子を持っていた。僕が何も持ってないのを見ると、みんなは少しずつわけてくれた。俯いたままお礼を言った。(僕は、帰りづらくなった。)

 

 

 

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2024年11月25日

 床屋                                                                  

 

 そこは、客が立ったままで、髪を切ってもらう床屋だった。足が疲れるでしょう、とマッサージをする機械が置いてあった。そして、足に汗をかくといけないから、という理由で、扇風機が設置してあった。そんな配慮はいらないから、座らせてほしかった。その心を読んだのか、店の人は、2回目のご来店からはお座りいただけます、と言い、椅子を見せた。子供が座るような、小さな椅子だった。

 

 

 

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 爆弾男                                                                  

 

 トイレに入ると、爆弾を抱えた男が便座に座っていて、二重の意味で驚いたのだが、僕はまず爆発を避けるために、急いで退避した。壁の向こうに回り、頭を抱えて低い体勢をとる僕に、「無駄だよ」と男は声をかける。その直後、爆発が起こった。根拠はないが、何となく、男が死んでいないような気がした。

 

 その予感は当たった。刃物を持って、居間を物色し始める男の姿が見えた。怪我ひとつしてない。男は金が欲しいのか。僕は引き出しを開け、その中にあった財布を手に取った。が、千円しか入ってないのを見て、戦う決意をした。台所の包丁を手に取り、男に切りかかったのだが、彼はまた「無駄だよ」と言う。男の声は、最初と同じように、優しかった。

 

 

 

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2024年11月24日

 バイオ・リン                                                                  

 

 気づくと足の裏がバイオリンになっていた。ビオラかも知れないが僕にはわからない。弓で弾いて音を奏でようとした。しかし変な音しか鳴らなかった。

 

 靴も靴下ももう履いてなかった。ゴツゴツした岩だらけの荒野にいた。靴も履かずにこんなところを歩いたら弦が切れてしまいそうである。僕はあぐらをかいてそのまま動かなかった。

 

 

 

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 殴る男                                                                  

 

 乗り込もうとした電車の車両の中に死んだはずの男がいた。僕の足は止まった。彼は僕に呼びかけた、「来いよ、こっちにきて俺を殴れ」

 

 僕が後ずさりすると彼は電車から降りてきた。

 

「お前が殴らないならこっちから行くぞ」

 

 走って逃げる僕を、彼は追わなかった。その代わり「メール」が来た。死んだ男からの「メール」だ。僕は読まずに削除した。男たちはみんな笑った。

 

 

 

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2024年11月22日

 生類憐れみの                                                                  

 

 ペットの平均寿命が40年を超えました。それで50歳以上の人はペットを飼ってはいけないという法律ができたのです。ペットより先に死ぬのは犯罪になりました。ペットが生きている間に飼い主が死ぬと飼い主の家族や親戚、友人たちが厳しく罰せられます。

 

 人々はもう、イヌやネコを飼わなくなりました。イヌ、ネコは確実に60年以上生きます。小鳥に人気が集まりました。しかし医学の進歩で、インコや文鳥も40年近く生きるようになってしまい、庶民は手が出せなくなりました。

 

 

 さて、ここで、嫁いびりの一環として、あなたの姑がカメを飼い始めました。「アタシが死んだら、オマエは刑務所行きだよ、懲役1万年さ、むひっひっひっ」カメが寿命で死ぬまで塀の外には出れないのです。あなたはカメを殺そうとします。

 

 

 

 

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 革命運動                                                                     

 

 あなたは地下レジスタンス組織に加わりました。文字通り地下で革命運動を始めます。新人のあなたの指導係になったのは優しい女の先輩です。しかし彼女は、仲間から密告され、処刑されてしまいます。先輩を密告した女が新しくあなたの指導係になります。

 

 突然、あなたたちは最前線の危険地域に送られることが決まりました。生きては帰ってこれないでしょう。優しい先輩を密告した女は、今度はあなたを陥れて、自分は最前線行きを免れようとします。

 

 

 

 

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 一休さん                                                                  

 

 一休さんがトンチを出すときの「ポクポクポク‥‥チーン」という音が聞こえてきました。あなたはどこに一休さんがいるのだろうと不思議に思います。

 

 

 

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 NHKの恋愛ドラマ                                                                  

 

 あなたはNHKの恋愛ドラマをベッドに寝転びながら見ています。あまりにも面白すぎて起き上がれません。番組はなかなか終りませんが、ちっとも飽きません。お腹がすいてきました。いつの間にか夕方です。あなたは夕食をベッドに運んでもらいます。

 

 

 

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 水没した道                                                                  

 

 レストランへ行く道は水没していた。みんなは構わずに腰まで水に浸かって歩いた。僕は躊躇した挙げ句踵を返した。他にもっといい道があるだろうと思ったのだ。

 

 だが引き返す道にも水が来ていた。自転車に乗っていた僕はいちばん浅いところを走った。「泳げばいいのに」と隣を歩いていた女のコは言った。彼女は赤い水着を着ていた。水着の胸の下に名札が縫い付けてあった。僕はその名前を読もうとした。

 

「泳げないんだ」

 

 女のコが遠くに行ってしまってから僕は答えた。そのときにはまた別の女性が隣にいた。年配の女性だった。「私も泳げないのよ」と彼女は言う。だから何だよと僕は思った。

 

 

 

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 電車祭り                                                                  

 

 歩行者天国になった大通りの真ん中で、僕は電車を押していた。1人で動かすには重すぎる。手伝ってくれる人があらわれた。彼は前から電車を引っ張った。

 

 電車祭りがある。その祭りでこの車両が使われるのだ。

 

「たくさんの人が、この電車の周りで踊るんだ」

 

「そうか」と彼は言った。まるで興味なさそうに。

 

 

 

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2024年11月21日

 手紙                                                                   

 

 古い手紙を持った旅人が僕の前にあらわれた。日本語で書かれた手紙だった。「これを読めるのは世界広しとは言え今やお前だけだ」だから手紙は僕のものだと言うのだ。

 

 手紙にはこんなことが書かれていた。

 

 

 

 君のお母さんに、こんな話をしたんだ。僕の高校の同級生に、貧乏なやつがいる。彼は勉強して東京の大学に受かった。しかし家業を手伝うために、進学は諦めるという‥‥

 

 お母さんはいつものように、ニコニコ頷きながら僕の話を聞いていたよ。

 

 僕が語り終えると、お母さんは封筒を4つ渡した。「何ですかこれ?」僕が訊くと、お母さんは開けてみろという身振りをする。中を見てびっくりした。50万円が入っていた。それが4つ。200万円だ。

 

 唖然とする僕をよそに、お母さんは車を運転してどこかに行ってしまった。うん、わかってる、君のお母さんは運転などしたことがない。免許も持ってない。でも本当なんだ。お母さんは車を運転にしてどこかに行ってしまった。

 

 どこに行ったのかはわからない。

 

 慌てて君の家に行ったよ。「お母さんはいる?」と僕は訊ねた。君は電話機と電話帳を持ってきて、無言で僕に手渡したね。目についた番号に僕はかけた。すると君の怖いお父さんが出た。

 

「もしもし、あの‥‥」

 

「誰だキサマ‥‥あぁ、娘につきまとってるへなちょこか。いい度胸だな。何でここにかけてきた? 殺してほしいのか」

 

「あの、今日は、奥様にお話がありまして‥‥」

 

「話? あいつはここにはおらんぞ」

 

「奥様にお金を貸していただいたんです。そのお礼を‥‥」

 

「あぁぁぁ?」

 

「ひっ‥‥、決してあの、貸してほしいとこちらから頼んだわけではなくて、全然関係ない別の話をしていたら、突然お金が‥‥、ひぃっっっ」

 

「キサマ、いったいいくら貸りたんだ?」

 

 

 

 手紙はここで終っていた。

 

 

 

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2024年11月20日

 マネージャー                                                                  

 

 君と君のマネージャーと僕の3人で公園の泉を見ている。僕がここに金の斧を落したのだ。泉の精が拾ってくれるだろう。まだかな。まだかな。(誰も口をきかないでいると時間がどんどん跳ぶ。)

 

 もう夜になった。僕たちはマネージャーの部屋に招かれている。君は何度も来たことがある。僕は初めてだ。

 

 君がシャワーを浴びている間、僕はマネージャーの女性と英語で話をする。今日初めての会話だ。話は弾む。ソファに座っている。

 

 君がバスルームから出てくる。僕たちの会話は止む。

 

 君はマネージャーを押しのけるようにして僕の隣に座る。あたたかい手で僕の左の頬に触れる。僕はその手を優しく握る。しばらくそのままでいる。

 

 

 

 マネージャーがタブレットを見せてくれる。「彼女のこれからのスケジュールよ」

 

 

 

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 言葉                                                                  

 

 言葉が皿に盛られて出てきた。とても美味しそうだったが先生は言った。「意味のわからない言葉を食べてはいけませんよ」と。「きちんと調べてから食べないとお腹をこわします」

 

 僕は辞書を引いたが、そこに書いてあることを読んでも皿の上の言葉の意味はわからなかった。一方同級生たちは何も調べずにガツガツ食べている。「おまえさ、こんな簡単な言葉の意味もわからないの?」と彼らは言う。

 

 

 

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 独身者                                                                  

 

「結婚してどんないいことがあった?」と訊かれた。質問者は独身なのだろうと思う。僕は答えた。

 

「独身のとき、自分に起こりうる最悪の事態というのは、自分の死だった」

 

「結婚して、想定しうる最悪は、『配偶者の死』になった」

 

「そして今、考えられる最悪の事態というのは、『子供の死』だ」

 

「へぇ」と質問者は言った。

 

「自分が死ぬことが、最悪だとは思えなくなったってことだよ。世の中には、自分の死より悪いことがたくさんある」

 

「なるほどね、うん。でさ、それのどこがいいことなの?」

 

 


 

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2024年11月17日

 ポスター                                                                  

 

 帰る時間になった。しかし誰も帰らない。そこで僕は口に出して言った。「そろそろ帰ろうかな」「タクシーで帰ろうかな」

 

 それでも誰も反応しない。まぁいい。僕は配車アプリでタクシーを呼んだ。すぐにやってきた。運転手が部屋の中に入ってきた。彼は手にポスターを持っている。

 

「ここにこの方はおられますか?」

 

 ポスターに写っているのは僕だ。僕はしばらく知らんぷりをしていた。運転は部屋にいる男女にポスターを見せ、この方を知りませんかと訊いている。誰もが知らないと答えた。

 

 最後にその運転手は僕のところへやってくる‥‥「この方を知りませんか?」「僕です」と僕は答えた。

 

「でもこの写真はちょっと間違ってますね。僕はまだ士官じゃありません。候補生の1人です」

 

 

 

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 横断歩道                                                                  

 

 何がびっくりしたといって、横断歩道が道を渡っているのを見たときはびっくりした。

 

 信号が青から赤へ変わろうと点滅している。横断歩道は走り出した。

 

 そのとき「いいよ」と誰かが言った。たしなめるような女の声であった。

 

「走らなくていいんだよ」

 

「そこにいていいんだよ」

 

 横断歩道は道の真ん中で立ち止まった。

 

 車が次々と彼(彼女?)を轢き、平らにしていく。

 

 

 

 ところで声はどこのスピーカーから聞こえてきたのだろう。

 

 そこらじゅうスピーカーだらけであった。

 

 

 

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2024年11月16日

 帽子                                                                  

 

 家に帰り、帽子を脱いだ。つばの広い、女物のハット。それを見た女房は、首に巻いていたスカーフを外した。青いシルクのスカーフで、それを帽子に巻いて、飾りにすると言った。

 

 僕はそのスカーフを巻いた帽子を、もういちどかぶってみた。似合うかどうか、試しに。するとなぜかはわからないが、帽子は大きくなっていた。

 

「帽子が大きくなったんだけど」と僕は言った。

 

 女房は「そんなことあるわけないじゃない。あなたの頭が小さくなったのよ」

 

 僕はスカーフを外して、もういちど帽子をかぶり直した。(元に戻ったみたいだ。)

 

 スカーフは女房に返した。「それは誰のスカーフなの?」と女房は訊いた。

 

 

 

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 CD                                                                  

 

 CDを売っている店に行き、欲しかったアルバムを探した。見つけられなかったので、店員に訊ねた。しかし店員は、ここはCDを売る店ではないと答えた。では、何を売っている店だというのだろう。このプラスチックのケースに入っているのは、CDではないのか。

 

 中に何が入っているかはわからない、と店員は答えた。

 

 僕は適当にケースを1つ手に取り、いくらかと訊ねた。店員は値段を知らなかった。

 

「お客さんはさ、何でこれを欲しがるの?」

 

 CDのジャケットには気の強そうな若い女の写真。バラバラに分解されたピアノの小さな部品の1つを手に取ってこちらを見つめる。

 

 

 

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2024年11月14日

 それ                                                                  

 

「それ」が何かを当てるゲームに、盲目の人が参加した。触ってはいけないというルールがあるのは知っている‥‥

 

 でも特別に触らせてもらえないだろうか、と頼んできたのである。

 

「触るのは禁止です」と僕は断った。

 

「わかってます。けれど直に触るのでなければどうですか?『それ』をバッグの中に入れてもらって‥‥そのバッグを触るのだったら?」盲人は食い下がった。

 

 そこまで言われては仕方がない。正直バッグを触って何になるんだとも思った。僕は「それ」を入れたバッグを、盲人の1m前に置いた。

 

 態度が冷たいと思われるかもわかならかったけど、手渡すことはしなかった。

 

 

 

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 水泳合宿                                                                  

 

 それは可能なのか。彼らは練習した。クロールや背泳ぎの腕の回転を逆にして、足の方に進む泳ぎ方を。

 

 僕にはできた。練習などいらなかった。ムーンウォークの泳ぎ版のようなワザを、ライバルたちの前で披露した。合宿の最終日、平泳ぎとバタフライでもそれをやってみせた。

 

 

 

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 屋根裏                                                                  

 

 ショパンの家の屋根裏に忍びこんで、ずっとそこに住んだ。ショパンの生演奏を聴き、サインをもらって帰るつもりだったが、勇気がなかった。ふいに現れても、不審者扱いされるのがオチだ。忍者のように、天井の穴から下を伺っている。

 

 それにショパンは病気をしていて、ピアノを弾ける状態ではない。ベッドから起き上がれないまま、死ぬのだ。このまま。もうすぐ。彼がなくなったら、あのベッドで一晩ゆっくり寝て、それから帰ろう、そう考える。

 

 いや、何も持たずに帰るのに、そこまで待つ必要はない。望むのは、眠ることだけだ。それはショパンもそうなのだろうと気づいた。

 

 

 

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 みかん狩り                                                                  

 

 私たちは3人のみかんで、一緒にランチに行く約束をした、もう1人のみかんを待っていた。しかし来なかった。「みかん狩りにあったのよ」と巨乳のみかんは言った。「最近増えているのよ」

 

「こわいね、気をつけないとね」と私は言った。「あんたは平気よ」と巨乳は言った。そしてこれ見よがしに巨乳を揺らした。「やつらはコレを狩りにくるのよ」
 

 みかん狩りにあった仲間の車で行く予定だった。巨乳は歩きづらそうな靴を履いている。仮にここでみかん狩りにあっても、走って逃げられないだろう。馬鹿だ。
 

 ただその靴をじろじろ見るのも失礼な気がして、レストランに着くまで、私は目線を上に維持し、巨乳を凝視することにしたのだ。巨乳がその視線を誤解して、またいらんことを言ってくるのはわかっていた。

 

 

 

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 インテリ                                                                  

 

 電車に乗り込んできたインテリっぽいおばちゃんが話しかけてきたので子供たちには黙っているようにと合図し僕も馬鹿のふりをした。

 

 これから海外旅行に出かけるところだとは悟られないようにした。

 

おばちゃん「見るからに貧しそうな一家ザマスね」

 

僕「ワシが馬鹿で貧乏じゃけガキどもにも苦労させとるんですわ」

 

息子「ピカッチュー、ピカッチュー!」

 

僕「この子はこれしか喋れないんです」

 

おばちゃん「ホホホホホ。可哀想ザマス。10円恵んであげるザマス」

 

娘「C'est qui ? Cette bitch...」

 

僕「(小声で)黙っとけ‥‥セキ、席? あはは」

 

息子「ピカッチュー、ピカッチュー! のび太ぁ」

 

おばちゃん「オーッホホホホホ」

 

チャリーン、チャリーン(10円x2)

 

 

 

 

 

 

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2024年11月 9日

 白いシート                                                                  

 

 車は透明なセダンだった。シートだけが透明ではなく目に見えた。シートはどれもこれも白かった。噛み砕けそうなほど大粒の雨が降っているのにどのシートも濡れていない。透明なルーフが雨を遮っているからだ。

 

 真っ二つに割れた雨粒を透明な車の透明なタイヤが轢き潰す。その上を誰も座っていない「シート」が通り過ぎる。

 

 僕は縁石に腰掛け道行く人々や車をずっと眺めていたことを覚えていない。でもそうしていたのだ。

 

 

 

 

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 楽譜                                                                  

 

 ここで影というのは物体が光を遮る影ではなく、音を遮るときにできる沈黙だった。僕はその沈黙=影の中に入った。強い光が当たったままだった。その光の来る方向に、僕は一歩一歩進んだ。沈黙がどんどん明るくなっていった。辿り着いた光源の中に、ピアノを弾く君がいた。

 

 たった1人のピアニストに、ピアノが3台用意されていた。いや、1台はオルガンだった。ピアニストはその3台を往復しながら、1つの曲を演奏している。会場は満席だ。僕は最前列のシートのさらに前に立ち、ステージにかぶりつくようにして、演奏を聴いた。後ろからは苦情が来たが、無視した。

 

 そのうちに彼らは、手にしたパンフレットを丸めて僕を叩き始めた。応戦しようと振り返った僕は、そこで初めてコンサートホールの全体を目にした。会場は大きな書店だった。(叩くためのパンフレットが書架に並んでいる。)

 

 ステージに目をやると、様子が変わっていた。何かの拍子に、ピアニストは楽譜を落していた。それはステージ中に1枚1枚ばらけ、散らばっていた。僕は舞台に上がり、ピアニストと一緒に、楽譜を拾った。

 

 

 

 床の上に直接、電子キーボードが置かれていた。僕は正座をして、何曲か弾いた。けれどピアニストは正座ができなかった。ハイヒールを脱げばいいのに、と思う。しかしそうはせず、四つん這いになって、弾いた。

 

 

 

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2024年11月 8日

 ホテル                                                                  

 

 タクシーでホテルまで行った。部屋に入りラジオをつけた。もちろん現地語であった。賑やかな言葉だ。出演者たちが何を喋っているのかさっぱりわからなかった。

 

 ときどき音楽がかかった。レコードではなくスタジオでの生演奏のようだ。それを聴きながら誰かが僕を探しにくるのを待っている。

 

 探しに‥‥?(僕は決して逃げ隠れているわけではない)

 


 期待していたのとは別の人が僕を迎えにくるまで、僕はそのホテルの部屋でラジオを聴いていた。

 

「ここで何をしていたの?」とその人は訊いた。僕は読めない字で書かれたメモを手に持っている。タクシーの運転手に渡したメモだ。

 

「それ、ここの住所じゃないよ」とその人は教えてくれる。

 

 

 

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2024年11月 7日

 ビニールハウス                                                                  

 

 その人の家はビニールハウスだった。家の中には入れてもらえなかった。なぜかはわからない。恥ずかしがっていたのかも。

 

 外から家の中を見た。見るなとは言われなかったのでもっとジロジロ見た。

 

 庭にテーブルと椅子が出してある。僕はそこに座った。その人は家の中からお茶とお菓子を持ってくる。お茶を淹れている様子が外から見えた。

 

 

 

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2024年11月 6日

 しきたり                                                                  

 

 女房が死んだ。子供が残された。僕の子供なのかはわからない。女房はずっと浮気をしていたから。

 

 葬式のあと女房の、最後の浮気相手が家に来た。そして僕たち結婚しませんかと申し出た。同性婚。狂った世の中になった。僕にホモ気はない。

 

 しかし彼は本気だった。女房に近づいたのも、僕が目当てだったとゲロった。彼は金持ちだったから、どうしようかと僕は悩んだ。

 

 彼は金属の細長い切れ端を、ネックレスにつける飾りにしていた。これは電気を通さないんだ、と彼は言った。絶縁体って言うんだ。電気を通さないから何だ、と僕は思った。

 

 彼はそれを僕にくれると言う。僕は受け取って、財布の中にしまった。それで僕たちは夫婦だった。離婚するときはその絶縁体だか何だかを返せばいい。

 

 帯電してしまったらどうだとか、ホモのしきたりなど知らないさ。

 

 

 

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 目撃者                                                                  

 

 証書が、ガラスの、鍵のかかったケースにおさまっていた。それを取り出すのに、「力」を使った。僕は手のひらをかざしただけで、ガラスを割ることができる。証書を手にした僕。ガラスの破片は、空中に浮いたままだ。

 

 黒い犬が、その様子を見ていた。たった1人(1匹)の目撃者。

 

 

 

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 男性アイドル                                                                  

 

 ラジオをつけると、男性の声が聞こえた。彼は国民的アイドルグループの一員だ。「どうして僕たちが楽器の演奏ができるかわかる?」彼は話していた。練習したからだろう、と僕は思った。

 

「いつ練習したのか、ってことさ」

 

 時間があるときに、だろ。

 

「その時間をどうやってつくったのか、ってことなんだな」

 

 そこで彼らが自分たちで作詞作曲したというヘンな歌が流れた。

 

 

 

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 ジャガー                                                                  

 

 僕は犯罪者である。罪を犯して逃げている。

 

 車を運転しているのは共犯の友人だ。助手席にもう1人の友人、僕は後席に座っている。友人の家に着いた。ここで車を乗り換え、さらに遠くまで逃げる。

 

 友人の車は外車だ。ジャガーだった。韓国では珍しい。しかも色はピンク色だ。こんな目立つ車で逃げるのか。懸念を表明した。

 

 平気さ、と友人は言った。空を見てみろ。空がどうした。雨が降る、この車は濡れると、色が変わるのさ。

 

 雨に濡れると何色になるって言うんだ、そうか、虹色か。

 

 ははは、誰が上手いこと言えと?

 

 友人の家から1人誰か出てきた。その人も車に乗ると言い、僕は撃たれたような気がする。いや違う。僕は自らの意志でトランクに隠れて乗ることにしたのだ。毛布にくるまって、死体のように。友人たちは僕の決断を賞賛した。

 

 

 

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2024年11月 4日

 山道                                                                  

 

 何かから逃げるようにして、僕らは山に登っていた。追い立てられるように‥‥いろんな山に登ってきたが、そんなふうに登るのは初めてだ。

 

 山道には丸い木のテーブルが設置されていた。どのテーブルの上にも料理が乗っていた。世界各国の料理が、みごとな盛りつけで。

 

 料理は厨房から出てきたばかりのようにアツアツだ。

 

 しかし誰も見向きもしない。

 

 きっと何かの罠なのだ。巧妙で、恐ろしい仕掛けがそこにはあるのだ。

 

 そう気づいた僕は、山道ではなく、テーブルの上を歩くことにした。靴で皿を踏みつけて割る。

 

 それを見た年長者が、食べ物を祖末にしてはいかん、と僕を叱った。

 

 

 

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2024年11月 3日

 初めてのデート                                                                  

 

 初めてのデートだった。入念に下見をしておいたスポット。たくさんのお店があって、見ているだけでも楽しい。1人でも楽しい。最後にもういちど、下見に行くことにした。やはり最高に楽しかった。でもやがて飽きてくるのだろうか。

 

 好きな女の子を、そうなってからデートに誘ってもいいのだ。

 

 

 

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 ライダーマン                                                                  

 

 オートバイレース。疾走するマシンを追いかける。文字通り走って追いかけ、ゴールするライダーを捉えた。

 

 大きく引き延ばしたプリントを、そのライダーに届けた。「すごいなコレ」と彼は言った。

 

「あんたはたいしたカメラマンだ」

 

「そうですね、あなたもすごいライダーマンですよ」

 

 同業者は自分のことをカメラマンとは言わない。

 

「じゃなんて言うんだ?」

 

「フォトグラファー」

 

 

 

 マジックミラーだ。今もその鏡の前で誰かが髪を梳かしている。彼らは鏡の裏側から見ている。ときどきシャッターを切る。

 

「でも、あんたは違うんだな?」

 

「違いますね」

 

 

 

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2024年11月 2日

 エフェクト                                                                  

 

 一緒に遊ぼうと言ってくるのは人間の子供に変身した3匹のセミだ。「時間がない」と僕は答えた。

 

「僕らにはもっと時間がないよ」

 

「セミだし」

 

 そう言われると弱い。僕は美術館で絵を見ていた。「そんなのいつでも見れるでしょ」と言われればそうなのだ。

 

 

 展示室の前にあるカフェの入口には扇風機が3台設置してあった。3人の子供たちに僕は言った、「これを1台ずつ使えばいいよ」

 

「この前でミーンミーンミンミンミンって言ってごらんよ」

 

「ミーンミーンミンミンミン」

 

「宇宙人みたいだろ?」

 

 エフェクトがかかってさ。セミたちは大喜びだ。

 

 

 

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 止まる                                                                  

 

夢の中で

 

If you be in my life

If you be in stop

 

と僕は歌っていた。どういう意味だろう。起きてからグーグルに翻訳させた。be はいらないように思うけど。

 

もしあなたが私の人生の中にいるなら

もしあなたが立ち止まるなら

 

それをもういちど英語にしてもらった。

 

If you're in my life

If you stop

 

でも夢の中で僕が歌おうとしていたのはこういうことだ。

 

 

I were in my life, then you stopped.

 

私の中にいる私を見て、君の中にいる君は立ち止まったのだけど(意訳)

 

World stopped,

 

世界は止まり

 

Time has stopped.

 

時間も止まったのだけど

 

I didn't stop.

 

私は止まらなかった。

 

 

 

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 処理施設                                                                  

 

 ゴミを出すのに、百円を払う。河原に、そのための処理施設が今日完成したばかり。高い煙突から有害そうな黒い煙を吐いている。自宅のすぐ前だ。

 

 記念すべき最初のゴミを出すのに、住民が前日から並んでいた。僕も並びたかったが、肝心のゴミがなかった。

 

 町じゅうゴミを探した。しかしもうゴミはどこにもなかった。

 

 家の中を探した。心当たりがあった。僕は

絵を描いていた。建設中の処理場の絵だ。毎日描いていたのだが、ついに完成しなかった。

 

 処理場の方が先に完成してしまった。この絵はゴミだろうか。わからない。今日のところはまだ違う。

 

 しかし明日から完成した処理場の絵を僕が描き始めれば、そうなるだろう。

 

 

 

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