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2024年11月21日

 手紙                                                                   

 

 古い手紙を持った旅人が僕の前にあらわれた。日本語で書かれた手紙だった。「これを読めるのは世界広しとは言え今やお前だけだ」だから手紙は僕のものだと言うのだ。

 

 手紙にはこんなことが書かれていた。

 

 

 

 君のお母さんに、こんな話をしたんだ。僕の高校の同級生に、貧乏なやつがいる。彼は勉強して東京の大学に受かった。しかし家業を手伝うために、進学は諦めるという‥‥

 

 お母さんはいつものように、ニコニコ頷きながら僕の話を聞いていたよ。

 

 僕が語り終えると、お母さんは封筒を4つ渡した。「何ですかこれ?」僕が訊くと、お母さんは開けてみろという身振りをする。中を見てびっくりした。50万円が入っていた。それが4つ。200万円だ。

 

 唖然とする僕をよそに、お母さんは車を運転してどこかに行ってしまった。うん、わかってる、君のお母さんは運転などしたことがない。免許も持ってない。でも本当なんだ。お母さんは車を運転にしてどこかに行ってしまった。

 

 どこに行ったのかはわからない。

 

 慌てて君の家に行ったよ。「お母さんはいる?」と僕は訊ねた。君は電話機と電話帳を持ってきて、無言で僕に手渡したね。目についた番号に僕はかけた。すると君の怖いお父さんが出た。

 

「もしもし、あの‥‥」

 

「誰だキサマ‥‥あぁ、娘につきまとってるへなちょこか。いい度胸だな。何でここにかけてきた? 殺してほしいのか」

 

「あの、今日は、奥様にお話がありまして‥‥」

 

「話? あいつはここにはおらんぞ」

 

「奥様にお金を貸していただいたんです。そのお礼を‥‥」

 

「あぁぁぁ?」

 

「ひっ‥‥、決してあの、貸してほしいとこちらから頼んだわけではなくて、全然関係ない別の話をしていたら、突然お金が‥‥、ひぃっっっ」

 

「キサマ、いったいいくら貸りたんだ?」

 

 

 

 手紙はここで終っていた。

 

 

 

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