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2024年11月 9日

 楽譜                                                                  

 

 ここで影というのは物体が光を遮る影ではなく、音を遮るときにできる沈黙だった。僕はその沈黙=影の中に入った。強い光が当たったままだった。その光の来る方向に、僕は一歩一歩進んだ。沈黙がどんどん明るくなっていった。辿り着いた光源の中に、ピアノを弾く君がいた。

 

 たった1人のピアニストに、ピアノが3台用意されていた。いや、1台はオルガンだった。ピアニストはその3台を往復しながら、1つの曲を演奏している。会場は満席だ。僕は最前列のシートのさらに前に立ち、ステージにかぶりつくようにして、演奏を聴いた。後ろからは苦情が来たが、無視した。

 

 そのうちに彼らは、手にしたパンフレットを丸めて僕を叩き始めた。応戦しようと振り返った僕は、そこで初めてコンサートホールの全体を目にした。会場は大きな書店だった。(叩くためのパンフレットが書架に並んでいる。)

 

 ステージに目をやると、様子が変わっていた。何かの拍子に、ピアニストは楽譜を落していた。それはステージ中に1枚1枚ばらけ、散らばっていた。僕は舞台に上がり、ピアニストと一緒に、楽譜を拾った。

 

 

 

 床の上に直接、電子キーボードが置かれていた。僕は正座をして、何曲か弾いた。けれどピアニストは正座ができなかった。ハイヒールを脱げばいいのに、と思う。しかしそうはせず、四つん這いになって、弾いた。

 

 

 

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