有名
客席は、ガラガラ。前の方に、有名人が、何人かいた。有名人たちは、ステージの上の歌手よりも、有名だ。
その内の、もっとも有名な男のコの隣に、僕は座っていた。
歌手が、歌の合間に、その男のコに訊いた、
「アンタの恋人は、今日は一緒じゃないの?」
「後ろの席に座ってる。あいつは、一般人だからな」
「なら、アンタの隣にいる男は何?」
「知らないのか? 俺の友達だよ」
「有名なの?」
歌手がそう言うと、前の方にいる有名人たちも、隣の男のコも、後ろに座ってる無名の人たちも、みんな笑った。
いたたまれなくなり、僕は席を立った。
そして後ろに歩いて、男のコの恋人のところまで行った。
彼女の手を取って、席を立たせ、さらに後方に下がった。そこは、ステージよりも、強い光の当たる場所だった。
巨大なモニターが設置してある。
どこから撮っているのかはわからなかったけど、そのモニターには、手をつないで見つめ合う、僕たち2人が映っている。
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