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2024年12月15日

 バスタブ                                                                  

 

 バスタブがざらざらした。ボディ用のソープでそれを洗うと、泡が立ちすぎた。泡切れが悪すぎる‥‥

 

 真っすぐな髪の毛が束になって落ちていた。抜けたのではなく、ハサミで切った髪の毛だ。

 

 ホテルの部屋だ。既に日は落ちていた。客が到着する時刻だ。しかしスイートルームは全然仕上がってない。清掃の業者はもう帰ってしまった。

 

 頭を抱えたまま、ロビーに戻った。(今日は私の、大切な友人たちが宿泊する。国賓級の超VIPだ、と支配人には言っておいたのに。)

 
 

 

 あぁ‥‥「彼ら」は到着していた。さっきからいた。何人もいる。顔のない、透明な小人たちだ。影と髪だけが目に見える。

 

 彼らはロビーで髪を切る。バスルームで髪を切る。どこででも髪を切る。

 

 1日で50mも伸びる、黒い髪だ。

 

 ロビーの床が黒くなる。そして暗くなる。髪の色なのか、影の暗さなのかわからない。
 

 支配人とホテルの従業員たちは名札を外して全員外に出た。私にクビにされる前に、自分から辞めたのだ。


 

 

 

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