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2024年12月23日

 杖                                                                   

 

 老人が持っている杖は僕のものだった。昨日盗まれたのだ。この老人が盗んだのだろうか。わからないがたぶん違うと思う。そんな悪い人には見えない。

 

 石段に腰掛けていた老人に僕は話しかけた。当たり障りのない天気の話などをした。それから思い切って、杖を盗まれた話をした。鞄の中から折りたたみ式の杖を取り出し、今は仕方なくこれを使っているのだと言った。すると意外にも老人は、その杖を羨ましがった。とても便利そうだと言った。そうしている内に僕の耳は聞こえなくなり、目も見えなくなったようだ。よくあることだ。

 

 

 

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