刑事
客たちはその店の中をぐるぐる何周もしている。年格好は様々だが歩くスピードはみな同じで‥‥
その奇妙な「レース」を眺めている。
1人の男が僕の前に立ち止まる。綺麗な日本語を話していたので日本人だと思う。「刑事が」と言った。
「刑事?」
「おれは刑事に追われている」
「犯罪者なのか、あんた?」
「刑事だ」
それだけ言うと彼はレースに戻った。もう1周して、また僕の前で
「刑事が」
「うん、あんたも刑事なんだろ?」
「そうだ。おまえは?」
「刑事ではないよ」
僕がそう答えると彼は目を輝かせ、「一緒に来い」と言った。「来い」
| 固定リンク | 0
コメント