チケット購入
どこもひどい人混みだった。いつも僕の代わりに予約の電話をかけたり、チケットを買ってくれたりする女性がその日もいた。僕はこの国ではガイジンなので、チケットを購入するための列に並ぶことすら許されなかったのである。
国民的人気歌手のコンサートだった。チケットは何回かに分けて発売される。その第1回目だった。「人目につかないところで待っててね」とその女性が言って列に並んでからすでに数時間が過ぎていた。
結局彼女は僕の分のチケットを買うことができなかったのだけど、僕には驚きも失望もなかった。着ていた冬のコートが、より重くなったように感じただけである。「家に帰ろう」と彼女は言った。チケットを販売しているのと同じブースで、地下鉄の乗車券を買うことができる。今度は、僕も一緒に並んだ。
ガイジンがアイドルのコンサートに行くことはできなくても、地下鉄に乗ることはできるだろう。
コートのポケットには、小銭が何百枚も入っていて重かった。そうなのだ、肩が凝るのはこのせいなのだ。僕は全部使ってやろうと思った。それだけあっても足りるかどうか‥‥わからなかったけど。
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