てんとう虫
美大の4年生の授業、午前は実技、午後は学科だったが、卒業の単位をすべて取得していた僕は、午後になってもアトリエにいた。バイトはする気になれなかった。そういう学生が何人かいて、みんなで絵を描いていた。卒業制作とは関係のない、作品ではない、テーマのない、ただの絵を。描くことに特化した、北側にしか窓のないアトリエでは、外が晴れているのか雨なのかもわからない。時間は何となく過ぎていき、突然隣のやつの爪が3センチも伸びていることに気づいて、僕は驚く。
タバコを吸いに外に出ていた1人が、カメを抱えて戻ってきた。甲羅にてんとう虫の模様が描いてある。てんとう虫なのかも知れない。「これ1匹じゃないぞ」とそいつは言う。(ははは。僕は何かおかしくて、何がおかしいのかわからなったが、ずっと自分の描きかけの絵を見ながら笑ってた。)
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