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2025年3月31日

 赤い傘                                                                  

 

 ミニトマトを半分に切ったが、それはてんとう虫にはならなかった。僕は黒いマジックで、ミニトマトにてんとう虫の模様を描いた。

 

 てんとう虫だ。僕はそれを食べた。すると僕の口の中でそれは、また、ミニトマトに戻る。

 

 

 

 まだ雨は降ってなかったが、降るという予報だ。 娘たちはそんな僕の独り言を聞いて、くすくすと笑うばかり。

 

 僕は、赤い傘をさしている。

 

 駅まで友人を迎えに行く途中、その傘の中に、子供たちが入ってきた。「ありがとう」「ありがとう」と言って、中に入ってきた。

 

 子供たちのペースで、しばらく歩く。

 

 

 

 

 まだ、雨は降ってない。(しかしこれから降るのだよ。)

 

 天に向かって、唾を吐いた。その唾は‥‥落ちてこなかった。

 

 

 

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 集会                                                                  

 

「キスしてほしい」とも「キスしてほしくない」とも言われなかった。だから何もしなかった。誰も何も言わなかった。ただ目が合った。それだけだった。 

 

 その女性は「私は政治家だ」とも「私は政治家ではない」とも言わなかった。「町を案内してほしい」とも言わなかった。

 

 僕が言ったのだ。

 

 手をつないで、あちこち歩いて回った。日本語は通じなかった。

 

 

 

「広場に人が集まっている」と僕は言った。

 

「何が始まるのか知ってる?」

 

「わからない。行ってみよう」

 

 それは政治的な集会だった。その女性が演説すると知って驚いた。「あなたの集会なの?」

 

「政治家だったの?」

 

 違うという答えはなかった。

 

 

 

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2025年3月29日

 ひも                                                                  

 

 その女の人の体からひもが出ていました。ひもを引っぱりますと女の人は電灯のように光りました。そしてもう一回引っぱると消えたのです。その女の人がいなくなったということであります。僕の手の中にひもだけが残されました。

 

 

 

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 銃撃                                                                  

 

 銃を持った人たちに僕は追われていた。ついに追いつめられ観念した。しかし彼らは発砲しなかった。生け捕りにしろという命令だったのかも知れない。が、捕まえようともしない。銃を構えたままある一定の距離を保って、それ以上近づこうとしない。

 

 開き直って彼らの方に向かい歩き出した僕。そうすると彼らは後ずさりし始める。突然、側面から銃撃があった。不意をつかれた彼らは全員倒れた。

 

 弾は僕には当たらなかったけど、僕の声は震えている。その声に自ら恐怖した。そうだった僕は声を上げていたのだ。自分でも気づかなかったが、ずっと何か言っていたのだろう。

 

 

 

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 旅客機                                                                  

 

 僕は旅客機より大きくなりました。すると旅客機を所有したいという欲望が芽生えたのです。旅客機より小さかったときには思いもしなかったことです。

 

 1機家に持ち帰ることにしました。ちょうどお持ち帰り用の袋がありました。(袋は1枚5円で購入することができました。)

 

 袋に旅客機を入れようとしました。ところが翼が引っかかりなかなか入りません。それでも無理に入れようとすると折れてしまいました。

 

 

 

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 贈り物                                                                  

 

 家に靴が送られてきた。注文したわけではなく、もちろんお金も払っていない。あとから払えということでもない。送り主はわからない。

 

 革のスニーカーである。ためしに履いてみた。サイズは大きかった。靴紐ではなく、マジックテープでとめるデザインだ。ぎちぎちにきつくとめてみても、やはり大きすぎた。

 

 僕は箱に靴を戻し、目立たない場所にしまった。この靴を履くことはないだろう、と思うと少し安心した。(もう忘れよう。)

 

 

 

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 島                                                                  

 

 島でバイトがある。島。八丈島ではない。でもその近くだろう。いちおう東京都だ。地図で探してみた。けど見つからなかった。

 

 地図の何もない場所に、ペンで丸を書いた。ここに行く。船長にその地図を渡したが、船長はちらりとも見なかった。

 

 

 

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 誰にも負けることがない                                                                  

 

 そこは「誰にも負けることがない」部屋だった。ドアを開け、中に入った。部屋には何もなく(床も天井も壁もない)、ただ白い光がそこを満たしていた。これが「誰にも負けることがない」という状態なのか。なるほどと思った。私はどうやってそこから抜け出たのか覚えてない。

 

 

 

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 黒雲                                                                  

 

 黒雲の切れ目から見える空は紫色だった。枕元の時計を見ると昼の12時だった。なぜこんなに暗いんだろう。まだ夕方ではなかった。

 

 ベッド脇の椅子の上に、服が畳んで置いてある。しかし靴下以外は僕の服ではなかった。黒い靴下だった。僕はそれを手に取り、左足から履いた。

 

 靴下の踵の部分に大きく穴が開いているのに気づいて、捨てようと思った。だがいちど履いてしまうと、脱ぐのが面倒くさかった。右足には穴は開いてなかったので尚更である。

 

 寝室は2階にある。1階から物音がした。長い階段を下りていくと、女房が上がってきた。「今何時だと思ってるの?」「空は暗いね」と僕は返事した。

 

 女房は手に何か持っていた。バゲットだ。それが恐ろしい武器のように見えたので、食事はいらないよと言った。

 

 

 

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2025年3月28日

 サイコ                                                                  

 

 老人は僕をつかまえて、名刺を渡した。「野尻光」と書いてある。その名前以外には何もない‥‥ 

 

 空き巣に入ったのである。部屋を物色中に、住人が帰ってきた。何も盗らずに逃げた。追いかけてきた住人は老人だったので、逃げ切れると思った。しかし、こんなにも簡単に追いつかれたのだ。

 

「名刺はいらないんで」と僕は開き直って言った。「お金をください」

 

 尻光さんは何も言わず、1万円札を差し出した。僕が受け取ろうとすると、彼はその1万円札に火をつけた。僕は怖くなった。警察につかまる方がマシだった。

 

 

 

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 高い壁                                                                  

 

 戦争が始まり、国境近くに住む人々は高い壁を築いた。壁はどんなミサイルでも乗り越えることができないほど高い。それを見て敵は攻撃を諦めた。僕は壁の写真を撮りに行った。

 

 薄いベニヤ板の壁である。

 

 梯子がついていて、いちばん上まで登れるようになっている。見上げると、足が震えてきた。人々は笑った。「登れとは言わないよ」

 

 

 

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 若者                                                                  

 

 動かないバスに乗っていた。同年輩の男性、若い男のコ、そして僕。乗客はこの3人だけ。

 

 僕たちは離れて座っていた。バスはいつになったら出るのだろう。そもそも運転手も乗ってないじゃないか。

 

 若者は降りて歩くと言った。手を振って別れた。そのしばらく後で同年輩の男性がバスを自分で運転すると言い出した。

 

「決断するのに時間がかかってしまった」と彼は言った。「あの若者が降りる前にこうしていればよかったのだが‥‥」

 

「途中であの若者を拾っていこうぜ」と僕は提案した。

 

 

 

 

 バスは動き出した。急に目が覚めた。(ここまでが夢だったのだ。)

 

 僕はいちばん後ろの席に座って、窓の外を眺めている。

 

 夢で見た若者の姿を探している、(顔も覚えてない。)

 

 

 

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 ひも                                                                  

 

 その女の人の体からひもが出ていました。紐を引っぱりますと女の人は電灯のように光りました。そしてもう一回引っぱると消えたのです。その女の人がいなくなったということであります。僕の手の中にひもだけが残されました。

 

 

 

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 生け捕り                                                                  

 

 銃を持った人たちに僕は追われていた。ついに追いつめられ観念した。しかし彼らは発砲しなかった。生け捕りにしろという命令だったのかも知れない。が、捕まえようともしない。銃を構えたままある一定の距離を保って、それ以上近づこうとしない。

 

 開き直って彼らの方に向かい歩き出した僕。そうすると彼らは後ずさりし始める。突然、側面から銃撃があった。不意をつかれた彼らは全員倒れた。

 

 弾は僕には当たらなかったけど、僕の声は震えている。その声に自ら恐怖した。そうだった僕は声を上げていたのだ。自分でも気づかなかったがずっと何か言っていたのだろう。

 

 

 

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2025年3月25日

 動画                                                                  

 

 僕はベッドに寝ている。いや寝かされているのか、(そこはよくわからない。)女性が運んできた食事を食べた。寝ながら食べるのはちょっと難しい。

 

 タンパク質が摂れるというドリンクを飲んだ。

 

 彼女が仕事に出かけたあとも、僕は寝そべったままだ。動画を見る。それは修学旅行中の高校生たちを盗撮したものだ。着替えのシーンがあった。そこは少し興奮したが、そこ以外はどうしようもなく退屈なものだった。

 

 

 

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 頭取                                                                  

 

 電話があった。取引している銀行の頭取からだった。彼は謝罪していた。しかし何を謝っているのかわからない。「気にしてませんよ」と僕は答えた。それでも彼は謝罪しつづけた。電話の向こうで、実際に頭を下げている気配が感じられた。

 

 電話を切ったあとで、ふと気になり、財布を見た。ネットで銀行口座をチェックした。経済ニュースを読み、証券会社の口座もチェックした。おかしな点は何もなかった。しかし漠然と不安になってきた。それはダラダラとつづく不安である。

 

 

 

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2025年3月24日

 自転車                                                                  

 

 彼女が昨日投函したという手紙が今日届いた。韓国からだ。あっという間じゃないか。見てみると住所が変わったようだ。春からシェアハウスに移ったらしい。女のコ3人で暮らしている。写真が同封してあった。3人で共用している自転車の前でポーズを取っている。

 

「この自転車には鍵をかけないの」と、彼女は書いている。「けど盗まれる心配はない」「家の玄関にも鍵はかけないのよ」「窓も開けっぱなし」「けど泥棒は入って来ないの」「部屋の中を見て」 不思議だ。彼女たちのシェアハウスには本当に何もない。すべて盗まれてしまったのではないだろうか。

 

 

 

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 傘                                                                  

 

 友人たちを迎えに駅まで行く。傘を持って行くべきか迷った。雨は降りそうだったが、今現在降っているわけではない。たぶん‥‥大丈夫だろう。傘を持たずに外に出て‥‥やはり思い直して中に戻った。そうすると僕の後ろから、「ありがとう」「ありがとう」と言って何人かの子供たちが中に入ってきた。知らない子たちだ。赤や黄色の傘をさして、長靴を履いている。玄関の中に入っても、まだ傘を広げたままだ。

 

 

 

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 みかん                                                                  

 

 上空から自宅周辺を見ると、僕の家を一軒だけ残して、更地になっている。何でこうなったのか。詳細が知りたくて僕は高度を下げようとしたが、できなかった。

 

 飛行機やヘリコプターを操縦しているわけではなかった。僕は魂のようだ。いつの間にか幽体離脱してしまった。ぷかぷか浮いている。あの家のベッドで僕の肉体は眠っているのだろうが、そこに下りることができない。

 

 それどころか‥‥

 

 自分の意志とは裏腹に、僕はどんどん上に行ってしまう。雲の上に出た。そこにも地上の自宅と同じような家があった。ただ1つの違いは、庭にみかんの木があることだ。

 

 

 

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2025年3月20日

 原稿                                                                  

 

 彼は就職活動を始めたという。彼は小説家だったが、9本もの連載を抱えてパンク寸前だった。

 

 小説の原稿が入った赤いボストンバッグを持って僕に会いに来た。

 

「そのバッグに何が入ってるの?」僕はとぼけて訊いた。

 

「うん、着替えとか、あとは洗面用具だよ」

 

 遠くで踏切がカンカンカンと鳴る。

 

「ちょっとの間、預かってもらえないかなぁ」

 

 僕は返事をしなかった。

 

 

 すると踏切の音が、どんどん近くになった。

 

「‥‥本当はさ、もう死んでるんだよね?」

 

「え?」

 

「電車に飛び込んだんだ? 原稿用紙抱えて」

 

「今どき原稿用紙に手書きしてる作家なんていないよ」

 

 これから就職の面接があると言って、彼は行ってしまった。

 

 

 

 バッグの中に入っていたのは、下着と、タオル、そしてどこかのスーパーのポイントカードと、汚れた紙幣の束だった。汚れは排泄物か、血だろう。両方かも知れない。

 

 紙幣は500万円はあっただろうか。

 

 カードは割れていた。そのカードに全額現金チャージしてくれ、とメモがある。

 

 

 

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 ゲーム                                                                  

 

 誰かが新しいゲームをつくった。「僕」というゲームだ。

 

「僕」は道を歩いたり、地下鉄に乗ったり、外食したり、店で買いものしたりする。

 

 みんなが夢中になって「僕」で遊んだ。

 

 僕は町でただ1人、そのゲームのルールも、仕様も何も知らされないままだった。

 

 みんなは僕に会いに来て、僕の様子を見て、それからスマホの「僕」に目を落して、勝ってるとか負けてるとか言う。

 

 

 

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 儀式                                                                  

 

 思い出してみると、みんな変だった。帰りの飛行機の中で、誰もがキスしていた。それは「別れのキス」だというのだ。

 

 キスをする相手がいないのは、僕だけらしい。

 

 やがて、別れの儀式が終った。みんなが、僕のようになった。(キスの相手が消えていなくなった、ということである。)隣の座席に、紫色の花。さっきまではなかった。誰かが僕を見つめている。

 

 

 

 

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 青森                                                                  

 

 それは、自動運転のバスだった。運転手の制服を着た女性は、何のためにいるのかわからない。彼女は僕たち乗客と一緒に、席に腰掛け、スナック菓子を食べている。

 

「食べる?」と言って、菓子の袋を持ち、僕の側に来た。

 

「ありがとう。でもいらない」と僕は答えた。そのとき、バスは前方で起きた事故を避けるように、脇のトンネルの中に入った。

 

 

 トンネルの中は「青森」だった‥‥

 

 男は上半身裸で、女も水着のようなものを着て、道を歩いている。それを見て

 

「アオモラー」と運転手は言った。「私、青森出身なの」

 

「こういうの、恥ずかしくて‥‥」

 

「だから東京に出てきたの?」と僕は訊いた。

 

 

 

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 新幹線                                                                  

 

 歩いていると、前から新幹線が来て、時速300キロで、僕とすれ違った。ちょうど僕は、新幹線たちの通り道に、入ってしまったようだ。危険は感じなかったが、(感じた方がいい。)しかし僕は、うっとりと麻痺したようになって、頭の中で、すぐ脇を通り過ぎる新幹線の様子を、何度も何度も、スロー再生していた。

 

 

 

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 刺身                                                                   

 

 小さな飛行機から降りて、歩いた。荷物は何もなかった。(飛行機は僕よりも小さかったので、乗せられなかったのである。)

 

 繁華街を抜けた。昼時だが人は少なかった。セルフサービスの食堂に着いた。ここ、と言われていた場所だ。ランチタイムの終わりかけだった。

 

 

 皿にレタスを取った。(ドレッシングは最初からかけられている。)それからマグロの刺身と、パンを取った。理想の組み合わせとは言えないが、それしか残ってない。

 

 飲み物は酒しかなかった。缶ビールと、瓶に入った日本酒。それを持って、席についた。

 

 近くに、聞いたことのない外国語を話す人たちが固まって座っている。

 

 ちょっと目を離した隙に、彼らの1人が、僕のビールを飲んだ。「飲んだだろ」と僕は日本語で文句を言った。「おい、飲んだだろ」通じないのはわかっていたが、口調でこちらが怒っていることは伝わるはず。

 

 彼らは、僕のパンも齧った。「刺身はいらないのか‥‥」と僕は言った。

 

 

 

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 タッチ                                                                      

 

 そこは病院のように見えるホテルだった。ホテルのように見える病院だった。よくわからない。僕は廊下を歩いている。どの部屋の扉も開けっ放しで、中が見える。

 

 ホテルの客室のように見えるし、病院の個室のようにも見える部屋。

 

 部屋の中には誰もいないが、廊下は人でいっぱいだ。

 

 後ろから来た誰かが、僕を目隠しして「だーれだ?」をしてくる。ドスのきいた男の声だ。「あだち充、漫画家」僕は答える。「『タッチ』の作者」

 

 

 

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 焼き肉                                                                  

 

 4人で焼き肉を食べていたところ、彼は追加で40人前注文すると言った。そんなに食べ切れない、と僕たちは反対した。カネの心配はするな、と彼はズレた返答をした。この券を使えば無料だ。

 

 店員にその無料券を渡し、「40人前」と言った。

 

 僕たちには「もったいないから全部食べるんだぞ」

 

 彼は権力者だ。

 

 僕たちは黙々と食べつづけた。途中、1人が気分が悪くなり倒れた。救急車を呼ぼう、と僕たちは言った。私が呼んでくる、と権力者は言った。そうして店外に出て、通行人のおじさんを連れて来た。「この人をおぶって、病院まで運ぶんだ」と権力者はおじさんに命じた。

 

 

 

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 高所恐怖症                                                                  

 

 ありがたい。空から蜘蛛の糸が垂れてきた。違った。それは人間の指と指で編んだロープだった。爪は剥いであった。指はすべて人さし指だった。(どうして人さし指だとわかるんだろう?)

 

 ところで僕はそれを伝って、天までのぼろうとしたわけではなかった。下におりようとした。高いところは苦手だ。

 

 

 

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 映画                                                                  

 

 不採用通知の葉書の中から1つ選び「不」の文字を修正液で消した。それを持ってその会社に出勤する。ここは映画の配給会社だ。

 

 給料はもらえるのかどうかわからなかったが、仕事はたくさんあるようだ。(みんな忙しそう。)僕もとりあえずいることにした。「同僚」の女子社員を映画に誘ってみる。それは重要な仕事だと感じる。

 

 

 

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 監修                                                                  

 

 僕は将棋を指している。相手が誰なのかわからない。どこなのかわからない。

 

 最初の対局は僕が勝つ。次は相手が勝つ。そうすると自分がどこにいるのかわかる。ここはライブハウスだ。

 

 壁のポスターを見る。聞いたことのないアマチュアのロックバンドだが、ミスチルが「監修」しているようだ。最近はこれが増えた。監修。

 

 具体的には何をするのかわからない。

 

 それはミスチルがやり始め、多くのアーティストが後につづいた。

 

 

 

 次の日のライブに出演するバンドを「監修」するアーティストたちも豪華だった。

 

 ステージに沢田研二本人が登場して1曲歌だけった。

 

 ジュリーが監修しているのはジャズのピアニストである。僕は興味を引かれてそのライブに足を運んだ。

 

 

 

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2025年3月11日

 目隠し                                                                  

 

 目隠しをして歩いていたら人とぶつかった。

 

「すみません」と謝ったのだが「公務執行妨害だ」と手錠をかけられてしまった。目隠しを取って見てみると大柄な警官だ。

 

「目の不自由な人の気持ちを体験しようという研修なんです」

 

 警官はその説明も聞かずにぐいぐいと僕を署へ引っ張っていく。繁華街で、大勢の人がこちらを見ていた。

 

 だがその途中、手錠は外れていた。(いつの間にか僕は自由だった。)

 

 僕は人混みの中を走って逃げた。警官は追ってこなかったが、僕は走りつづけた。

 

 たくさんの人とぶつかり、1人ひとりに「すみません」「すみません」と謝った。

 

 

 

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 卓球                                                                  

 

 僕と友人は卓球を楽しんでいた。ラリーが長くつづいた。と、突如卓球台の上に木が生えてきた。邪魔だなぁと僕は思った。

 

 木は人間の足のかたちをしていた。「切ってしまおう」と友達は言い、僕たちの試合を観戦していた彼のお母さんと一緒に木を切り始めた。

 

 木は簡単に切れた。

 

 木を手渡し、「さぁ捨ててくるんだ」

 

 友人は突然命令口調になった。

 

「捨てるって、どこに?」

 

「自分の頭で考えるのよ」と彼の母親。

 

 僕は人間の足のかたちをした木が他にも生えていないか探してまわった。

 

 変わった木だが、同じような木のそばに捨てればまぁ目立たないだろうと思ったのだ。

 

 

 

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 出陣                                                                   

 

 誰かが僕の肩を掴んで、「出陣だ」

 

 ドアのそばにダーツの的がかかっている部屋。

 

 日本がアメリカに宣戦布告したとき、僕は軍隊にいた。

 

 

 

 我が軍の作戦はこうだ。クローンである僕たち3200人が、繰り返し自爆攻撃を仕掛ける。同じ人間が何度でも蘇って、突撃する。

 

 相手は気味悪がって、降伏するだろう。

 

「そんなに上手くいきますかね?」僕は疑問を口にした。

 

「たった3200人の軍隊が、大国を相手に‥‥?」

 

 上官は僕をギロリと睨み、だが何も言わす、だらしない無限大の記号が刻まれている白い錠剤を手渡した。

 

「‥‥ハッピーになれるクスリですか」

 

 仲間たちはそれを飲んで、もう戦争に勝った気でいるようだ。

 

 

 

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 バレー部                                                                  

 

 背の高い女の子が、手を上げて僕を呼んだ。彼女はバレー部のエースだ。僕も帰宅部のエースとして、仲良くしている。彼女は言った、「部活とは別に、バレー愛好会をつくろうと思う」

 

「入会しようか?」

 

「ふーん」

 

「ふーん、って」

 

「入会しようか、だって。何よ」

 

「何が?」

 

 校庭のグランドを、生徒が取り囲んでいた。「観客」だろうか? 入会希望者か? グランド上には僕たち2人。2人だけの、

 

 バレー愛好会。

 

 

 

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 カツ丼                                                                  

 

 ステージに並んだ、3台のグランドピアノと、3台のオルガンが、クラシックのピアノ曲を、ユニゾンで奏でている。迫力だ。

 

 そのコンサートは4時間つづき、2時間の休憩を挟んで、さらに4時間ある。「出前を注文したわ、あなたの分も」ピアニストの1人が、演奏を中断して、最前列の僕に呼びかけた。

 

「俺に何を注文したって?」

 

「カツ丼!」大声で。

 

 

 彼女は、イブニングドレスを着て、リュックサックを背負っている。その中に入っていた花火を、僕に手渡し

 

「打ち上げるのよ、曲に合わせて」

 

「曲の途中でか?」

 

「行っけー!」

 

 

 

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 重役                                                                  

 

 僕の目の前。

 

 飛行機が普通に飛んだり。

 

 そのあとで、後ろ向きに飛んだりした。最終的には、ラーメン屋の屋台になった。

 

 翼の生えた金属製の屋台だ。

 

 そこに、僕の席が予約してあった。「重役」と書かれた席の隣だった。

 

「重役」の向こうは「キムタク」

 

 僕は1人でラーメンをすすった。

 

 重役もキムタクも現れなかった。

 

 

 

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 うつ伏せ                                                                  

 

 後ろからしていた。女は気持ちよさそうだったが、こっちはそうでもない。少し萎えた。女がどんな表情をしているのか、見てやろうと考えた。しかし、何をしても叶わなかった。正面の大鏡にも、映ってなかった。

 

 鏡の中には、うつ伏せになって寝ている、別の女がいる。その女のところまで移動して、振り返ってみた。顔が、見えるはずだ。けれどベッドには、誰もいなかった。

 

「どこへ行ったんだろう?」うつ伏せの女に訊いた。

 

 女の背中から腰にかけての線は、メビウスの輪を思わせた。無限の繋がり。

 

「忘れ物を取りに行くって、言ってたよ」女は答えた。

 

「忘れ物?」

 

 それ以上の答えは、返ってこなかった。忘れ物というのは、寝ぼけて言った言葉だろう。うつ伏せの女は、眠ってしまったようだ。

 

 

 

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 大男                                                                  

 

 土の中に、大男が住んでいた。大男は、人食いだった。土の中に住む人間を捕えて、食べていた。

 

 大男は、姉妹を見つけた。妹を食べて、姉をさらった。家に連れ帰った。目の見えない姉を、妻にしようと考えたのだ。

 

「妹はどこ?」姉は大男に訊いた。「向こうの部屋にいる」すぐにバレるような嘘を大男はついた。「コーラを飲んでいるぜ」

 

「コーラって何‥‥?」

 

 大男の家の冷蔵庫からコーラを取って飲んでいたのは僕だった。

 

「これがコーラ、地上の飲み物です」僕は盲目の姉の手にコーラの缶を握らせて、

 

「色は赤ですよ、奥さん」と教えた。

 

 

 

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 青い鳥                                                                   

 

 魚が空を飛んでいる。翼があるわけではないが、自然に飛んでいる。とても大きな魚で、僕には尾ひれの部分しか見えない。頭は地平線の向こうにある。

 

 僕はその魚よりも、少し高いところを飛んでいる。

 

 

 

 僕は鳥ではなかった。

 

 翼があるわけではなく、人間の姿をしていたが、飛んでいた。眼下には青い色が見えた。

 

 上にも、前も、後ろも、青だった。僕は青色に囲まれている。それでいて僕は青くない。

 

 

 

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2025年3月 5日

 水槽                                                                  

 

 水槽が3人がかりで運ばれてくる。その中に人間の女がいた。水中で、まったく息をしていない。もしかしたら生きているのかもわからないが、僕の目には死んでいるように見える。

 

「これですか?」運搬人の1人が、僕に訊いた。「これですよね?」

 

「これじゃないよ」僕は答えた。

 

「何だよこれ」

 

「ですから‥‥これ」

 

 彼らは水槽を僕からよく見えるように、少し高い位置に置き直した。

 

 手品でもやろうというのか、彼らは食卓の白いテーブルクロスを剥ぎ取り、その水槽を覆う。実際、手品だった。再びテーブルクロスが取られると、そこにはもう水槽も女の死体もなかった。そこにあったのは、綺麗に畳まれた白い服だった。外科医が手術のときに着るような、スモッグだ。

 

 

 

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 ロンドン                                                                  

 小学校のときの同級生から電話があった。「今私ロンドンに住んでいるの」

 

「ロンドンまで電車でどのくらいだっけ?」 僕はAIに質問した。

 

「3時間ほどでございます」

 

 僕は元同級生に、「今から遊びに行っていい? 昼には着くと思う」

 

 実際は2時間しかかからなかった。

 

.

 

 ロンドンに着いた途端雪が降り出した。「ロンドンの天気は変わりやすいのでございます」とAIは言った。「何も訊いてないよ」と僕は言った。

 

 彼女が教えてくれた住所まで行く。そこは貴族が住むような大豪邸だった。(どうなってるんだ、AI?)

 

「ここに○○さんはいますか?」住人と思われる髭の男性に訊いた。

 

「いません」彼のAIが日本語で答える。

 

「しかしせっかくいらしたのですから」と男性はお茶を出してくれた。

 

.

 

 帰りは彼のモーターボートに乗って運河を駆けた。「ボートで駅まで送りましょう」と彼は言うのだ。

 

「ただし燃料代は負担していただきますよ」

 

「燃料は何ですか?」と僕は訊いた。「燃料そのもので支払います」

 

 

 

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 ホテル                                                                  

 

 エレベーターの扉が開くと、そこは客室の中だった。ちょうどよかった、5Fの私の部屋だ。私はバスルームの鏡でヘアスタイルをチェックしてから、部屋を出た。

 

 一緒に降りた男性は、廊下の先を歩いている。後を追った。その男性の部屋の中に、また別のエレベーターの扉がある。そのエレベーターに乗って、さらに上に行く。男性が部屋の扉を押さえて、私を待っていてくれる。(ありがとう、と私は言う。)

 

 

 

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 猫八先生                                                                  

 

 B組の犬が教室の床を雑巾掛けしている。先生は猫だ。そこは美術館ならぬドラマ館。テレビドラマの世界を体感できる。連れの女のコは毎週来ているとか。僕は初めてだ。

 

 妹が猫八先生に怒られている。妹はこんなドラマに出ていたのか。僕は驚いて「あれ、妹だよ」と言う。「何をやらかしたんだろう?」

 

 猫八先生は言った、「老人はアイディアを持っている。しかしそれを実現する体力と気力と、人生の時間がない」

 

「出た、名台詞」と連れの女のコ。

 

「ひでぇなぁ」と僕は思う。僕も妹もそんな老人ではない。

 

 

 

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 距離                                                                  

 

 距離が、冒涜であった。車の中は、鏡張りだった。シートも、背もたれも天井も床も、すべて鏡面仕上げ。しかしそのどこにも、私は映っていないようだった。

 

 不思議と奥行きのない鏡の表面と、私との距離が、少しずつ離れていくような感じがする。それが「加速」の感覚だった。車はどこへ向かっているのかわからない。

 

 

 

 私は後席に座っていて、自分を取り巻いている鏡の表面が、また少しずつ後退していくのを感じている。

 

 車は無限に加速しつづける。何の脈絡もなく「美しい」ということを思った。(そんなことを思うとは。私はなんて悲しいんだろう。)

 

 気づいてみれば車は停止していた。着いたのだ。

 

 運転手が降りて後席のドアを開けた。

 

 私は車の中で立ち上がって、歩きだした。ドアは遥か彼方にあって、そこに辿り着くために、また車に乗らなければならない。

 

 

 

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 景色                                                                  

 

 テーブル上に窓が浮かんでいた。その窓の向こうに「景色」が見えた。

 

 いや‥‥何が見えているんだろう。

 

 僕たち4人は料亭にいた。隣に座った大作家が僕たちにビールを奢ってくれた。

 

 しかし「僕は飲まないんですよ」そう言って断る者が2人。僕と、作家のマネージャーだ。

 

 作家は彼のマネージャーを罵る。

 

「それに5分後に新幹線が‥‥」せっかくの料理も断る他ない。

 

「何のことだ?」

 

 動き始めた「景色」を指差し、席を立つ僕。

 

 

 

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 野糞                                                                  

 

 野糞をしているところに犬を連れた男性が散歩に来たが期待どおり僕のウンコを持ち帰ってくれた。

 

 彼はきっと空っぽの瞳をしている僕と目を合わせないように顔を伏せたまま足早に立ち去る。

 

 シャツの裾をズボンに入れながら見送る僕のことを振り返って犬は何か言いたげである。

 

 

 

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 オレンジ色                                                                  

 

 教室に消毒剤が撒かれたとき女生徒が2人まだ食事中だった。白い粉が空中を舞った。女生徒たちの髪とお弁当のおかずが白くなった。

 

 彼女らは気にせず食べつづけた。髪の色はすぐに元に戻った。

 

 廊下に待機していた僕たちは雑巾を持って教室に入った。ガラスの窓を吹き始める。

 

 そんな中、女生徒たちは悠然と食事をしている。

 

 冬眠前の最後の食事だ。

 

 

 

「その瞳の‥‥オレンジ色‥‥」

 

「うん?」

 

「生活指導の先生に何か言われない?」

 

「目を開けて眠るわけじゃないから」

 

「ははは」と僕。

 

 彼女たちは僕の方にふっと顔を上げ

 

「‥‥何見てんのよ、男子」

 

 それは僕の今年最後の記憶になる。

 

 

 

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