鼻息
そのおっさんには可愛らしい女のコのような名前がつけられていた。名前だけではない。外見も可愛かった。まるで女のコのようで、おっさんには見えなかった。胸もふくらんでいた。トランスジェンダーというやつかも知れない。
「君は本当におっさんなの?」と僕は訊ねた。
「私はおっさんよ」
「証拠を見せてくれよん」
「くれよんって何よ」
「証拠を」
「私がおっさんである証拠が見たいと言うの?」
「そうだよ」
「女のコである証拠を見せろと言う人は多いけれど‥‥」
「まずおっさんであることの証明が先さ」
迷うおっさん。
おっさんは僕に好意をよせていた。僕もおっさんに興味があった。
「私を抱きしめて。そうすれば私が何であるかわかるわ‥‥」
言われたとおりに抱きしめた。するとおっさんの鼻息は荒くなった。
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