ブリーフ
ショーウインドーの前にバスタブがあり、中年の男性が浸かっていた。
夏の午後僕は大通りを歩いてきた‥‥ブリーフ1枚で歩いていた。
全部脱いで、湯に浸かった。
脱いだブリーフは、信号機にひっかけておく。
信号が青になるのを待っている人々は、信号ではなく、僕のブリーフを見ることになった。
(ちなみに僕のブリーフは見られて恥ずかしい類の下着ではない、念のため。)
中年の男性は僕と入れ替わりに上がった。
バスタブの縁に手をやると垢がこびりついていた。あのおじさんの皮膚組織だろう。僕は手のひらでそれをこすり落した。
綺麗になったバスタブの中におばあさんが入ってきた。
僕は礼儀正しくおばあさんの体を見ないようにしているが、おばあさんは僕に顔を向けて話しかけてくる。
さて、どうすればいいだろう。おばあさんは観たばかりの映画の話をしている。
僕は通りの向こうの時計台を眺めながら、その話を聞いている。
もう4時半になる。仕事に行く時間だった。
僕は失礼して風呂を上がった。信号機にかけておいたブリーフを穿いて出発した。
まっすぐ歩くと仕事場だった。小松菜が1つ入った箱がある。
僕はその箱から小松菜を取り、手に持ったまま仕事が終わるのを待った。
それが今日の稼ぎ(日給)というわけだ。
周囲には僕よりもっといいものが入った箱を手にした同僚もいるが、比べても仕方ない。
| 固定リンク | 0
コメント