明暗
「明暗が分かれるというでしょう」
「『明と明』、または『暗と暗』に分かれることって、あるのかしらね」
「明と明だったら、どこが境目なのかわからないんじゃないでしょうか」
「暗と暗でもね」
「あなたは明よね、私も明だわ」
「同じ明るさ」
「私たち、分かれることはないのよ」
「ずっと一緒にはいられなくても、同じ明るさでいる限りは」
飛行機の客室はまるで高級ホテルのスイートルームのように贅沢だった。乗客は僕ともう1人だけで、僕らの何倍の数の客室乗務員がいた。
そのもう1人の乗客というのは大統領の奥さんだ。仕切りの向こうの、おそらく僕のいる部屋よりももっと豪華な客室に乗っている。僕は挨拶に行った。
彼女は占い師を思わせる格好をしてテーブルの向こうに座っていた。客室は赤い敷物とカーテンに覆われていて暗い。「ずいぶん遠いところからいらっしゃったのね」と彼女は言った。僕のことを知っているようだった。
「そして遠いところまで行くのよね」
「ええ、まぁ、奥様と同じところまで」
「私は降りないのよ、この飛行機からは」
僕は実は来月もまた○○国を訪れるのにこの飛行機に乗ると言った。
「降りて、また乗る」
「そうですね」
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