案内所
通路の突き当たりに案内所があってスーツを着た男女がパイプ椅子に座っている。歩いてくる僕を彼らが見ているのはわかっていたが、僕は彼らには目を向けないようにしていた。
話しかけられるのは億劫だ。わかっているよ、
と左の壁にあるドアを開けた。
そこは空の上だった。どういう仕掛けなのか1枚の細長い板が空中に浮いていて、その向こうに「客車」がある。
「板の上を歩くのです」
後ろから女が声をかけてきた。
「あいにく高所恐怖症なんでね」
僕は振り向かずに答えた。
「あちらに渡ればソファがありますよ」
「いいんだ、やめとくよ」
そこで男の方が立ち上がって近づいてきた。
「私の勤務時間はまだあるのですが、そういうことでしたら‥‥」
と言って板の上を歩いて客車に行ってしまった。
‥‥女は恨めしそうに
「あなた、もしかして女性という可能性は?」
「ないよ」
「これから女性の連れが来られるんですよね?」
「どうかな。ところで僕はまだ勤務時間前だったね」
と断って歩いてきた通路を引き返した。
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