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2025年6月 7日

 案内所                                                                  

 

 通路の突き当たりに案内所があってスーツを着た男女がパイプ椅子に座っている。歩いてくる僕を彼らが見ているのはわかっていたが、僕は彼らには目を向けないようにしていた。

 

 話しかけられるのは億劫だ。わかっているよ、

 

 と左の壁にあるドアを開けた。

 

 そこは空の上だった。どういう仕掛けなのか1枚の細長い板が空中に浮いていて、その向こうに「客車」がある。

 

「板の上を歩くのです」

 

 後ろから女が声をかけてきた。

 

「あいにく高所恐怖症なんでね」

 

 僕は振り向かずに答えた。

 

「あちらに渡ればソファがありますよ」

 

「いいんだ、やめとくよ」

 

 そこで男の方が立ち上がって近づいてきた。

 

「私の勤務時間はまだあるのですが、そういうことでしたら‥‥」

 

 と言って板の上を歩いて客車に行ってしまった。

 

 

 

 ‥‥女は恨めしそうに

 

「あなた、もしかして女性という可能性は?」

 

「ないよ」

 

「これから女性の連れが来られるんですよね?」

 

「どうかな。ところで僕はまだ勤務時間前だったね」

 

 と断って歩いてきた通路を引き返した。

 

 

 

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