トイレ
友達が部屋に持ってきたCDを聴く、立ったまま、抱えた頭を揺らして。「とても斬新な聴き方だ」と彼は褒めてくれたので、僕は彼の音楽の好みを「センスがいい」と褒めた。そうしてさらに強く頭を抱え、大きく揺らした。
熱い音でできたプールの中に頭を突っ込んで限界まで呼吸を止める。顔を上げて、激しく息を吸い込む。そうすると音楽が肺の中に入ってくる。ずうっと目は瞑ったままだ。ちなみに僕は泳げない。
曲が終わった。僕は疲労している。「もう休もう」と友達は言って、トイレに立った。彼は部屋に泊まっていくつもりだ。僕が床に布団を敷いていると、戻ってきた彼も手伝い始めた。
「トイレで父に会ったかい?」と僕は訊ねた。
「いや、トイレには誰もいなかったよ」
「そうか、父はいつもトイレにいるんだがな」
「男親ってのは‥‥そんなもんだよな」
僕が冗談を言ったのだと思って友達はそんなことを言う。
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