«  ロープ                                                                   | トップページ |  白い象                                                                        »

2025年6月 1日

 トイレ                                                                  

 

 友達が部屋に持ってきたCDを聴く、立ったまま、抱えた頭を揺らして。「とても斬新な聴き方だ」と彼は褒めてくれたので、僕は彼の音楽の好みを「センスがいい」と褒めた。そうしてさらに強く頭を抱え、大きく揺らした。

 

 熱い音でできたプールの中に頭を突っ込んで限界まで呼吸を止める。顔を上げて、激しく息を吸い込む。そうすると音楽が肺の中に入ってくる。ずうっと目は瞑ったままだ。ちなみに僕は泳げない。

 

 曲が終わった。僕は疲労している。「もう休もう」と友達は言って、トイレに立った。彼は部屋に泊まっていくつもりだ。僕が床に布団を敷いていると、戻ってきた彼も手伝い始めた。

 

「トイレで父に会ったかい?」と僕は訊ねた。

 

「いや、トイレには誰もいなかったよ」

 

「そうか、父はいつもトイレにいるんだがな」

 

「男親ってのは‥‥そんなもんだよな」

 

 僕が冗談を言ったのだと思って友達はそんなことを言う。

 

 

 

| |

«  ロープ                                                                   | トップページ |  白い象                                                                        »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



«  ロープ                                                                   | トップページ |  白い象                                                                        »