『キッチン』と『TUGUMI』
吉本ばななを読むとたびに出たくなる。たびに出ると吉本ばななが読みたくなる。でも読むとたびに出たくなる本より、読むとたびをしているような気分になる本の方が僕は好きで、ずっと持っている。
『キッチン』と『TUGUMI』は旅行中に読んだ。そして駅や空港やホテルに忘れてきてしまった。好きになれなかったわけではない。
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吉本ばななを読むとたびに出たくなる。たびに出ると吉本ばななが読みたくなる。でも読むとたびに出たくなる本より、読むとたびをしているような気分になる本の方が僕は好きで、ずっと持っている。
『キッチン』と『TUGUMI』は旅行中に読んだ。そして駅や空港やホテルに忘れてきてしまった。好きになれなかったわけではない。
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時速160kmでは走れない僕が時速160kmで走っている。
「時速160kmでは走れない僕」と「時速160kmで走っている僕」の間で車は揺れていた。
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見た夢が、現実の自分にとって、どのような意味を持つのか考えるのが夢判断(夢占い)だけれど、現の出来事よりも夢に重きをおく僕のような人間は、その逆をやってみるといいと思う。
たとえば今日、僕は白い靴を履き、スーパーで白身の魚を買い、それを調理して食べたわけだけど、それは僕の夢に対し、どのような影響を与えるだろうか。たぶん何の影響も与えないと思うが。
殺人など、凶悪犯罪の発生件数は減っている。もっとも多かった昭和30年代と比べると、約半数になるらしい。その事実は僕の夢に対し、どのような影響を与えるか。影響はまったくないだろう。
僕の夢に対し、影響力を持たない現実は、現実の僕にとっても、あまり大きな意味を持たない。だけど僕が笑ったことも、僕が泣いたことも、夢は憶えていないようだ。まったく。なぜだろう。夢で笑ったことを、夢で泣いたことを、僕は少し憶えているのに。
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市内に1軒しかない、緑色のタオルを売っているお店では、「ヘイ・ジュード」をレッチリがカバーしたらこうなる、という感じの曲が、繰り返し流れているけど、苦にならない。
ベーラベラベラベラっ。緑色にとり憑かれている。
緑色をしている、ただそれだけの理由で、人工芝を買ってしまった。
明日もまた何か、買ってしまい、ご自宅用ですか? って訊かれてしまうかも知れない。
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あなたほど物欲のない人はいない。知り合って半年になる女性が僕に言った。
本当に欲がない子だと母親は僕に言った。
でも僕が何も欲しがらない、というのは誤解だ。僕は人前で欲しがらないだけだから。
欲しいとき、僕はひとりで欲しがる。ひそかに、誰にも気取られないようにこっそりと。それで欲がないように見られるのだろう。
‥‥
何も求めずにひとりでいるのはなぜ? という質問には「欲しいものがないから」と答える。嘘だ。
ひとりでいるのは、恥ずかしいくらい欲しいから。
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「新しいもの」ではなくて、マニアは「ないもの」が好きだ。
フェラーリGTOの外観に、トヨタ製のハイブリッド・エンジンを積んだ新車が80万円で売っていれば買うのになぁ、などと考えている。
プルーストとヘンリ・ミラーとアナイス・ニンの『日記』を足して割ったような原作を、村上春樹の翻訳で読めないかな、と考えている。
『ブレードランナー』が出演、フェイ・ウォン、ビートたけし、デビッド・ボウイで、監督がウォン・カーワァイだったらどうなっただろう、と考えている。
それがマニアだ。‥‥アーティストは「新しいもの」をつくりたい。がマニアは「ないもの」が見たい。そこに齟齬が生じる。その隙間にオタクと呼ばれる、半玄人・半素人の彼らは棲息する。
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花は香る前に香る。花の香りを嗅いで、花ではなく降る雨を思い浮かべたなら、そこは砂漠である。目に見える風景ではない。それは花の香りではない。花のような香りですらない、と思う。砂漠に降る雨のような香りをつくりたい。
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恋人未満の友人が、部屋に来る。来週。部屋で料理をつくって、それを食べたり、音楽を聴いたり、話したりする。関係を一歩前進させたり、立ち止まって考えてみたり、‥‥をする。たぶん全部、僕たちにできる全部を、同時にすると思う。
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選択肢は無限だけど、それを選択できる自分がそんなにたくさんいるわけじゃない。たとえば休日を過ごす、僕は何をしてもいいのに、僕の中に僕は、ほんの限られた人数しかいない。ゴルフに行く僕や、競艇に行く僕というのは、純粋な「選択肢」としてあるだけで、どこにもいないのだ。
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昔からちょっと、気になってはいた。左手と右手で、僕の手相はまるで違う。占い的に見て、それはどういう意味を持つのか。
ある解釈によると、左手は先天運で、持って生まれた運勢や性格をあらわし、右手は後天運ということで、努力して得たそれをあらわす。らしい。
先天的に持って生まれた悪運を、努力で良くしていっている僕、‥‥この解釈は、好きだ。
☆
僕の右手の手相は、左手と比較して、極端に良い。
特に顕著なのは生命線で、僕の右手の生命線は、二重になっている。これはたとえ健康を害しても、すぐに回復するという、良い線なのだ。
もともと、僕は体が弱かった。左手の生命線が示す通りで、本来なら、この年齢まで生きられなかっただろう。体を壊しやすいことは今でも言える。だが運動や、食事に気を使うことによって、それを劇的に改善してきた僕である(褒めたたえよ)。
感情線も、右は二重になっている。この二重線の、入り方もまた良いらしい。「どんな苦境に立たされても、健全な精神状態を維持していける強い面を持った人と言えます。悲観せず、打ちのめされることなく、しなやかな竹のように強靭な生き方で、人生をまっとうする」
☆
左右で変わらないのが頭脳線である。「現実感覚に乏しく、空想の世界に没頭したりする」僕に昔から必要なのは、アイディアを実現するための、行動力。
また運命線がないというのも左右に共通するところ。大人になっても一生運命線がないのは「周りに振り回されずマイペースで淡々と生きていくタイプ。または生活に困っていなくて、特に一所懸命にならなくても生きていける‥‥」

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風呂に入って、目が覚めるという人、反対に眠くなる人と二通りいて、どうしてなのか、不思議に思っていた。今では知っている。ぬるいお湯が、人をリラックスさせること。逆に熱いお湯は、覚醒させる。雨の日の朝、熱い湯に浸かるのは、正解だ。
夏ならば窓を開けるのだが、そこで打ち寄せる波のように聞こえるのは、歩道に水を撥ねていく車。でも波の音にはたぶん、催眠効果がある‥‥。
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プロの演奏家を、何十人か集めて、自分だけのオーケストラをつくった。たとえばの話だ、僕のオーケストラと、あなたのオーケストラで、同じ曲を演奏させて、聴き比べてみたとする。
二つの演奏は、けど「同一」にはならないと思う。天然の素材を使って、香水をつくるということは、それと似ている。まったく同じ香料を、まったくレシピでブレンドしても、できてくる香水は、同じにはならない。
経験者の僕がつくる香水は、初めてのあなたがつくる香水より、ほんの少しだけ、いい香りがするだろう。でもそれは、本当は経験ではないのだ。パフューマーが十人いれば、同じレシピでつくっても、香水は、十種類できる。
残酷に「才能」ということだと思う。一番いい香りの香水は、一番才能のある人間がつくる。十種類の香水には、順番がつく。
ジョン・レノンを一番、リンゴ・スターを四番、とするような順位だ。一位の人間だけが、その順位を決めることができる。順位ではなく個性を競う、‥‥「感性」や「センス」のことを言う二位以下の人間は、一位の人に教えてもらうまで、自分が何番なのかを、知らない。
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香水の香りを嗅いで、気分が悪くなってしまったことはないだろうか。香水は高いブランド品でも、合成の香りを何種類か組み合わせただけというお粗末なものが多い。とにかく嗅いで「うっ」とくるような香りは、合成だと思って間違いない。
というか高級品ほど、合成の香料に頼らざるをえない。天然の香料は、品質にどうしてもバラつきがある。産地や、採油時期によって香りは異なってくる。たとえば香りの女王、バラでも、朝に摘んだバラと昼に摘んだバラと夜に摘んだバラでは、香りが違う。一般にバラは、昼に摘むのが良いとされる。
逆に香りの王、ジャスミンは夜に摘む。朝か昼か夜かでも、違いは出てくるのだ。産地による違いはさらに大きい。その年の気候も香りには作用する。天然のものを100%使用していては、商品としての同一性が保てないだろう。
天然の香料を使い、僕は自作している。僕はプロのパフューマーではないし、つくっているのも商品ではないので、同じものができなくても構わない。レシピは残すようにしているが、同じレシピでブレンドしても、できてくる香りは、毎回違うのだ。
結局そのときの感性でブレンドした、そのときの気分の香水ができる。そのときの気分なので、3、4ヵ月で使い切るようにする。ひとつの季節を、ひとつの気分で過ごす。夏、ということで今の香水は、南国の花をイメージした。もちろんつくったその日、その時間にイメージした「南国の花」だが。記憶のように少しずつ失われていくそれを、僕は僕だけの小さな瓶に閉じ込める。
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その人がどんな人かを、「何が好きか」で判断してしまう。悪い癖だ。
本が好きな人がいたら、質問してしまうだろう。どんな本を読むのか。
それで相手が、日本の現代の作家を挙げるのを聞き、「馬鹿じゃなかろか」と思ったりする。
でも何が好きかで、「その人」はわからない。
僕は犬が好きだ、ゴールデンリトリバーを飼っている、近くの海岸へ、毎日散歩に行く。
そう話す「僕」は、しかし何も語っていないのだ。
そのリトリバー犬の、毎日のエサ代はどうしているのか。海岸のそばの、大型犬を飼育できる住居を、いかにして手に入れ、維持しているのか。
それこそが「その人」なのである。さてその人は、‥‥どんな人か。
何が好きで、どのような生活をしているかではない。どのように生活しているのか。
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最近では、風呂に2時間入って、9時間寝る。健康的だと思うけど、起きている間に何かを成し遂げることはできそうにない。
プログを更新することさえ、難しい。風呂では、本や雑誌を読んでいる。湿気でぐちゃぐちゃになってしまうけど、気にしない。
それでもハードカバーの新刊は、高いので濡らすのは勿体無いと思ってしまう。雑誌は面積が大きく、文庫本などと比べて濡れやすい。結局、次の日の朝に捨ててしまうことになる。読むのは、文庫本が多い。たくさん買って、たくさん読む。本当に面白くて、いつか再読したいなと思うものがあったら2册買えばいいと考えている。
テレビやネット上のコンテンツより、印刷物の方が優れているのは風呂で読めるという点だ。優れているのはそれだけのような気がする。風呂で読めるんじゃなかったら、僕が読書を好きになることはあったろうか。もし風呂でインターネットができるなら、4時間は入っていられる。『風と共に去りぬ』が見れるなら、メイキングまで含めて6時間ぐらいいけると思う。一日中バスルームで過ごすようになるだろう。
読書よりも映画よりも僕は風呂が好きなのだ。読書するようになる前、風呂は退屈で嫌いだった。
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