「私、悪い女よ」
「どのぐらい悪いんだ?」
「わかるまでには、一生かかるわよ」
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初期の片岡義男だ。タイトルもストーリーも、もう忘れた。オマエは突然何を言い出すのかといえば、メールだ。読者から届く。流れは定石通りだ。コメント欄に投稿できない弱気な自分を詫び、以前からの愛読者であると女性のようなハンドルネーム(本名?)を名乗る。そしてブログのエントリーを褒めちぎる。戸惑いながら返した当たり障りのないお礼のメールにも、また熱狂的(?)な返信が来て、最終的には「いちどお会いしてお話がしたい」となる。
それで出会い系だなとわかるのだが、中にはwebメールではないプロバイダーのアドレスから送ってきたり、やたらと文章が綺麗だったり、ブログをコメント欄まで読み込んだ上での丁寧、かつ適確な批評が添えてあったりで、これはどういうことなんだろうと考え込んでしまうのだ。
自称年齢の平均が、やや高いことも符に落ちない。30〜35といったところだ。出会い系なら普通もっと下を言うだろう?
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内のひとり。35歳の年齢に相応しく、と言おうか。彼女の日本語は完璧であった。記事への考察も鋭い。なにより驚くのは、僕が文中にさり気なくちりばめた先行する文学作品からの引用を50%以上の確率で見つけ出し指摘してみせることだ。
ちょっと考えられない。
とっくの昔に絶版になったSF小説からパクっているのに。単行本にもならなかった幻の短編その他。それを「このブログの第2の楽しみは、昔自分が好きで読んでいた懐かしい小説に再会できることです」と来るのだ。嫌みか? その出版社で長年編集の仕事をしているとか、あるいは本職のSF作家か俗な大学の文学部助教授あたりか、そうでない限り120%絶対にありえないこと、に思えた。
胡散臭すぎる。
何かの罠だろう。
何が狙いなのかは凡人たる僕の理解を越えるが。この世にこんな暇人がいたのか、と驚くばかり似通った読書傾向。しかし「なんちゃって」の僕とは違い、理論物理学と精神医学に関する彼女の知識は本物だった。NLPについてはまきさんのサイトにも載ってなかった海外の文献を部分部分翻訳して送ってくれた。これほどの知性が僕をハメようとしているのなら、どんな抵抗も無意味だろう。例えて言えば自家用ジェットだ。それに乗って20m先のスーパーダイエーまで買い物に行く人がいるか? ダイエーは僕の比喩だ。こうなったら店ごとお買い上げいただくしかない、開き直った僕はそれを福音と捉えた。
いつしかブログに上げる前の記事を「彼女」に送って感想を求めるようになっていたのだ。
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返事は超音速であった。
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胡散臭すぎる。夜中の3時に送ったメールに返事が来るまで1時間だ。どう考えても胡散臭すぎる。昼の1時に送ったメールには15分で返信があった。リアルタイムで計ったから細工のしようもない。1分置きにメールチェックを入れたのだから。それが最速の記録だ。
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なんという暇な僕だ。
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なんという暇な女だ。
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ブログにFC2の、詳細なアクセス解析を導入したのはそれからだった。
アクセス解析など読者に失礼だと思ってそれまでの僕は「スゴいカウンター」というちっともすごくないカウンターの、いい加減な数字を、たんなる目安としてだけ利用してきた。日の総アクセスと、ブックマークで来てくれている読者が何人いるのかわかればそれでいいと。
だからアクセス解析がどこまで訪問者のプライバシーを暴けるのか、わかったときはショックだった。
FC2のブログにはこの解析が標準で備わっているらしいのだが、そんなところになど行けないと引いた。
とにかく怖すぎる。
訪問者が、過去何回そこを訪れたのか、初回の訪問はいつか、前回いつ来たのか、解析を付けている人は人をそんなところまで監視しているのか。
嫌だいやだ‥‥
でも見てしまう。あれば見てしまうだろう。
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何度も見に来てくれる熱心な読者ならなおさらで、彼女はどんな人なのか知りたくなってしまう。内のひとりにはカマをかけてみた。あまりにも怪しかったので罠を仕掛けてみたのだ。見事に引っかかった(心理学も使いようだ)。やり方は汚かったけれど、知ることはできた。要するにこの人は、僕や僕の書くことに興味があったわけではなかったんだと今は思う。ベートーベンの記事をピアノの歴史と絡めて書くよう助言してくれたのは彼女だ。そんなもの知らないと言う僕に、モノ・コードに始まるその歴史をわかりやすく書いて送ってくれたのは例の。原子爆弾の記事でもお世話になった。ありがとうと言えることは他にもある。しかし勝手ながら一方で、僕はそんな「彼女たち」にこのブログを読むのを早くやめてもらいたいと思っていた。
「×××××の味」「メビウスの環」。わざと嫌がるだろうことを書いて送りつけた。引いたのはわかった。けど思ったほどの効果はなかった。地下鉄の落書き程度の猥雑さが通用するほど「彼女」は甘くなかったのだ。
逆にむしゃくしゃして書き殴った記事で関係ない人ばかりが釣れる。
ジジイの書き込みを禁止にした一昨日のエントリーだ。いい案配に耕されたコメント欄の、掘ったつもりもない落とし穴にセルフで穴を掘ってハマってくれる。何より桃組さん以上に驚かされたのが「晴」さんのタイムリーなコメントで、何様のつもりかと啖呵を切る、汚名は自分が被るのだという。
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そうだ「汚名」と言った。
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文章がその向こうにいる「そのひと」に触れたとき、僕を待っていたのは感動などではなかった。
繰り返すが「汚名」だと。
「彼女」に次ぐ訪問回数を誇っていた晴さんではある。大仰にそんなもの被らなくていいので削除した。穴の深さは、もうこの程度でいい。
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その汚れた名に最も相応しい彼女からは今朝こんなメールが来た。曰く「私、悪い女よ」と。
何が面白いのかは知らない。
どのくらい悪いのかと言えば僕に、「わかるまでは、一生かかる」のだろうから。たぶん。
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